やがて彼女は町を離れ、章太郎は少女と呼ぶのがふさわしいような女性を恋人、半年後には妻とした。数年後には一女をもうけ、仕事もていねいで評判が良かった。ただ彼が深夜に酔って徘徊しているのを見たという話を、わたしは何度か聞いた(わたしは近所の商店で売り子をしている)。うまくいっているというよりは、うまくやっているのだ。そんなフレーズが浮かんだが、それはそれで羨ましいことではないかと思いもした。
ある冬の夕方、突然にわたしの勤め先にあらわれた千鶴子と短い会話を交わし、話題が章太郎の近況におよんだ際、彼女もわたしが思っていたのと同じような言い回しをしたのでおかしかった。「顔を見せたらすごく驚いてたな、悪いことしたわ」そう口にした。
自覚のないにせよ、千鶴子は不吉なものを連れて戻ったのだという気がしたが、はたしてその予感はあたった。
まず章太郎の娘が病気にかかりあっけなく命を落とした。若い妻は町から消えた。あっという間のことだったようで、わたしが千鶴子からそのことを知ったのはすべてが終わってからだった。
彼女は店の片隅で踏み台に腰をかけ、しばらくぼんやりと行きかう人々を眺めていた。春先にはまだ早いような、薄手のブラウスが夕日にすけていたのを覚えている。
そして今朝、千鶴子がレンタカー内で練炭自殺を遂げたという知らせを聞いた。
章太郎も一緒だったというので、街中がささやきに溢れた。
車の中でなど、ずいぶん窮屈だったことだろう。わたしは、おかしいのかもしれないが、日当たりのよいベランダででも死ねばよかったのではないかと思っている。いや、そうするだろうと思っていた。まだ子供だったあの頃にみつめていた光景こそがふさわしかったはずだった。
あの放課後に彼らの背中を押してやってもよかったとすら思っているのだ。