未来の価値

「そんなこと、今頃言うなんて、もっと早くに打ち明ければ、気が楽になっていたのに。さやかもバカよ」アンナの眼からは涙がこぼれ落ちていた。さやかはスッと立ち上がりアンナの横に立つと、ポンと肩を叩いてハンカチを手渡した。「アンナ、お買い物に行きましょう。ベビー服を見に行かない、わくわくしてきたわ」さやかは自分に子供が生まれるような気分になっていた。

 

 そのころ、拓也とドクターは平原公園を散策していた。拓也は、昨日、ドクターが拓也の控え室にやって来て、深刻な顔をして話した内容について思いだしていた。ドクターは拓也が一週間前に受けた人間ドックの結果を報告した。「先生、この前の人間ドックの結果ですが、ひとつ気にかかることがありました。ちょっと、いいにくいのですが、いずれ報告しなければならないことですから、今、話します。前立腺に腫瘍がありました。悪性腫瘍と思われます。今後の治療を相談したいのですが」

 

 拓也は並んで歩いているドクターに昨日の話をもう一度確認した。「僕はガンですね。治療しなければ、死ぬんですね」拓也は死の予感を感じた。地獄からの使者は拓也を迎えにすぐそこまでやって来ていた。

 

春日信彦
作家:春日信彦
未来の価値
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