CRASH FAMILY

 下級生を苛め倒し、未だ物足りなさを感じている正太郎は心を病んでいた。

後悔なんかしてたまるか、アイツが悪いんだ、そう自分に言い聞かせ自分のしたことを正当化し

いる、祖母と会話をしていてもどこか苛々している自分がいる。

何かを破壊したい衝動に駆られ、正太郎は伊香保の街に一人で向かった。

 冬の伊香保は湯煙が一層浮かび上がり幻想的な雰囲気を漂わす、正太郎は石段街を昇りな

ら浴衣に丹前を羽織り歩く人々を横目に苛立つ気持ちを抑えていた。

すると、上から子連れの親子が階段をゆっくり降りてきた、子供は未だ就学前の5歳くらいだろう

か、親は二人とも温泉饅頭屋の試食に没頭している、子供が一人で階段の雪で戯れていた、正

郎は辺りを見廻し、人目が無い事を確認し子供の背中を力任せに押したのだ、正太郎は急ぎ

階段を駆け登り身を隠した、悲鳴も上げる事もできないその子供は勢い良く階下へ転げ落ち、頭

から血を流しピクリとも動かなくなった、気付いた両親は驚愕し子供の名前を叫びながら階段を

駆け下りた、辺りは騒然とし泣き叫ぶ母親の声が響いていた。

正太郎は平然と野次馬の中を抜け、祖母の家に向かった。

(親が悪いんだ・・・あんな小さな子をほっといて・・・饅頭なんか食ってるからだ・・・自業自得だ)

正太郎の背後で救急車のサイレンが鳴っている。

 

 埼玉郊外の家では、夫婦二人で会話の無い夕食を摂っていた、腰の痛みがぶり返した正二は

、早めに休む事を早苗に告げ、足早に床に就いた。

深夜12時を過ぎた頃寝室のドアが開いた、正二は瞼を閉じ寝たふりを決め込んだ。

風呂上りの早苗は、バスタオル一枚を身に纏いベットに座った、すると箪笥の引き出しからいつ

ものロープを取り出し、バスタオルを剥ぎ取り全裸になった、何を思ったか自らロープを縛り付け

ているではないか、それも喘ぎ声を上げながら恍惚の表情を浮かべている、何処から手に入れ

たのか性玩具であろうバイブレーターのような物を股間に当てながら善がっている。

正太郎は呆れ果て、狸寝入りを続行する事にした。

 

 

 渋谷道玄坂のラブホテルを後にした小雪は、駅に向かったが終電が発車したばかりであった。

途方に暮れる少女に闇夜の魔の手は次々と舞い降りてくる、執拗に迫る男達を振り払い駅前の

番に駆け込んだ、交番の灯りは眩しく、後ろめたさと罪悪感で涙が零れそうになった。

だが未成年である事がバレると面倒臭い事になる、そう判断した小雪は、近くにビジネスホテル

ないかと警官に尋ねた、その警官は丁寧にホテルの場所を説明してくれた。

駅前のビジネスホテルになんとか宿泊する事ができた小雪は、シャワーを浴びながら号泣してい

、腕の注射痕や身体中のキスマークの痕を石鹸で何度も擦り赤く晴れ上がった肌が痛々し

い。

良心の呵責を感じながらも、身体は何かを欲している、この真逆なものはシャブというクスリの作

なのだろうか、意に反して携帯へと手が伸びる。

(小雪です・・電車無くなっちゃったから、ビジネスホテルに泊まってるの・・メールして下さい)

何であんな目に遭ってるのにメールなんかしてるんだろう、小雪は崩れていく自分が怖くなった。

 ヒロシの返事は早かった。

(帰らなかったのか?クスリが欲しくなったらいつでも連絡してくれ、今日は忙しいんだ、また今度

可愛がってやるよ)

小雪は朝まで眠る事はできなかった。

 

 雪景色の伊香保の朝は朝陽が反射し至極眩しい、TVのワイドショウが昨夜の事件を報道して

いた、他人事のような顔をしながら正太郎は朝食の塩鮭を頬張っている。

ワイドショウの司会者はこの悲惨な出来事に、薄っすらと涙を浮かべている。

楽しい筈の家族旅行でこんな悲劇が起きるなんて、司法当局も事故を視野に検証しているらし

い。

「こんな近くでなぁ・・・」

祖母は哀しい顔を浮かべながらぼそっと言った。

「そうだね」

正太郎は平然と相槌を打った、幼い命を奪ったことなどどうでも良かった、むしろ苛立ちは増幅し

ていくような、正太郎の中で大きな何かが破裂しそうな、そんな予感を感じていた。

「お婆ちゃん、明日学校だから昼頃帰るね・・」

「そうかい・・淋しいのぉ・・」

祖母の皺くちゃな顔を見て正太郎は、肩を揉んでやることにした。

「悪いね・・アリガトウ・・いい子だね、正太郎は・・・」 

 

 

 

 昨夜の妻の行為は正二には理解しがたく、エスカレートしていく事への不安が強まった。

「昨日は早く寝ちゃってすまなかったね」

「いいのよ、怪我したんだから」

「もう大分痛みは取れたよ、子供達も居ないし偶には二人で出掛けようか?」

機嫌の悪かった早苗の目がキラっと光るのを感じた。

「ホント?ウレシイ・・何処行く?」

「映画でも観て、食事しようか?」

「うん!支度するね」

 

 凄まじい人混みでスクランブル交差点は渡るのに苦労した、ホテルを出た小雪は渋谷の駅前

でヒロシにメールをしていた

(おはよう・・今渋谷の駅前にいます・・連絡下さい・・・)

10分後メールの着信音が鳴った。

(どうした?クスリ欲しいのか、それとも俺に遭いたいのか?今新宿なんだ)

小雪は今から新宿に行くとメールを打った、身体が欲していた、意に反してどうしてもヒロシに遭

いたかったのだ。

 新宿アルタ前に着いたのは10時30分を少し回っていた、メールの内容だとこの辺りに居る筈

だ、そのとき後ろから肩を叩かれ振り返ると、不気味に笑うヒロシが立っていた。

肩を抱かれ、何処に行くのか不安だったがヒロシの暖かい手の温もりが心地よかった。

いつもより饒舌なヒロシの笑顔は素敵だった、初めて抱かれた男に心を奪われてしまったのか。

 賑わう歌舞伎町の路地を抜け、鄙びたモーテルの看板が見える、その一室に二人は消えた。

「腹減ってないか?寿司でも取ろうよ」

「うん・・・」

そういえば昨夜から何も食べていない、でも別段空腹を感じていなかった。

「あのクスリはさ、ダイエットにもいいんだぜ、腹減んないんだよ、喉は渇くけどな」

 頼んだ寿司が届いた、小雪は鮪を一貫食べたら戻しそうになり、トイレへ駆け込んだ。

「しょうがねえなぁ、じゃあビールでも飲んで早速キメるか?

ヒロシは、バスタブに湯を張ると嫌がる小雪を裸に剥き湯船に入れ、自分も裸になった。

注射器にクスリを溶かした物を入れ、小雪の腕の静脈に刺した。

「ああああぁ・・・」

小雪は涎を垂らしながら恍惚の表情を浮かべ、ヒロシは小雪の口を股間に埋め征服した。

最早奴隷となった小雪に17歳の面影は無かった。

何度も身体を貪られ、意識が遠のいていく、ワタシはどうなってしまうのだろうか。

 

 

 

 

 混雑した高崎線の電車に揺られながら車窓を眺める正太郎は、埼玉の自宅へ向かっていた。

正太郎は中学二年生だが身長は140cm程しかない、電車の吊り革へは手が届かずドア付近

手摺に摑まっていた、そのとき急カーブで車両が揺れ、傍にいた小学生の子供に足を踏まれ

た、それは真新しい祖母に買ってもらったナイキのスニーカーだった、その小学生の靴は雪解け

水の泥ロの靴で 無残にもナイキのスニーカーは泥に塗れてしまった、そいつは謝りもせずま

して親は気付いてもいない、またもや正太郎の暗闇に潜む激しい怒りが爆発してしまう。

降車駅に近づいて来た、その親子も降りるようだ、ドアが開き人の波がホームへ流れる、近場の

段を上がる親子の後ろへピタリとくっ付いて歩く、連絡通路を渡り階段を降り始めたとき、正太

郎は子供の横に並びさり気無く足を掛けた、すると小さな子供は階段から転げ落ち、階下のホー

ムまで一気に落ちた、構内は騒然となり駅員が詰め寄り様子を窺いながら無線で救急車の手配

をしている、子供は頭から酷く出血していた。

野次馬を掻き分け改札口へ正太郎は急いだ、駅前ロータリーのバス乗り場でバスを待った。

 

 日曜日の銀座界隈は、着飾る者達が堂々闊歩し平和な世の中を象徴している。

久し振りに夫婦で映画を見ようと正二は早苗を連れて有楽町の映画館を訪れていた。

機嫌の良い妻を見ていると昨夜のことが嘘のように思える、美人でスタイルも良く連れて歩く正二

は自慢である、あの性癖さえなければ・・。

冴えない邦画で眠気を覚えた正二は、ついウトウト居眠りをしてしまう、上映が終わり早苗に起こ

される、また不機嫌にさせてしまった。

映画館を出て昔いった事のあるビストロへ向かった、その店はタンシチューが旨くワインに至極

合い、自家製のパンも絶品であった。

あまりの旨さに感動した早苗は、機嫌が直ったようである。

「ねえ、アナタ・・行きたい所があるの・・・いいかしら?」

「ああ、何処だい?」

「歌舞伎町にね、行ってみたい店があるんだけど・・・」

「ああ、いいよ、行こう」

 

エンジェル
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