なきまくら





なんでしょう なにやらうごいています
おしいれの中で まくらがうごいていました
お父さんとゆめちゃんは とてもおどろきました

「 まくらがうごいているよ これはなきまくらだ 」

中をみると いつも家ぞくでつかっている まくらがみあたりません
それに 目の前で うごいている まくらたちのカバーの 色やがらが
いつもゆめちゃんたち家ぞくが つかっているものとまったくおなじでした

「 なきまくら? なきまくらってなぁに? 」

ゆめちゃんは ふしぎそうな顔でたずねました

「 むかしから このあたりにいるといわれている まくらにやどるおばけさ 」

「 やっぱりおばけ! やだ こわいよ 」

「 こわがることないよ なきまくらは しあわせをはこぶ いいおばけというからね 」 

「 いいおばけなの? 」

「 そうだよ しずかで平和な家の いごこちのいい おしいれをこのんで
すみつく まくらのおばけなんだ お父さんが まだ ちいさかったころには 
このあたりにもすこしはいたんだけどね 」





そこへ 「 どうしたの? 」と おかあさんがやってきました

「 なかに おばけがいるの まくらのおばけ 」
「 みてごらん なきまくらが いるんだよ 」
と ふたりは おしいれを ゆびさします

「 まあ ほんとうに なつかしい こどものころ いらいだわ 」
おかあさんも中をのぞくと
まくらたちはびっくりして おしいれのおくに かくれていました

「 さあ おいで・・ こわくないよ・・ でておいで 」
おとうさんは やさしい声で まくらたちによびかけると 
そのうちのひとつが おそるおそる でてきました

「 さぁ いいこだね・・ 」
おとうさんは でてきたまくらをだきよせ やさしくなでながら しずかにいいました

「 なきまくらはね おおきな音や さわがしい声が にがてなんだ 
だから こうやって しずかにやさしく なでてやるんだよ 」

「 そうするとね・・ きもちのいいこえで なきはじめるんだ
ほら・・ きこえるかい? なきはじめたよ・・ 」

ゆめちゃんが 耳をすませていると なにかきこえてきました

ごろごろ・・ごろろ・・ ぶるんぶるん・・・

ごろごろ・・ごろろ・・ ぶるんぶるん・・・

「 ほんとだ・・ ないてる 」

「 こどものころには どこの家にも よくきていたけどね 」と おとうさん
「 おしいれのあるいえが へったせいかしら 」と おかあさん
ふたりは なつかしそうに まくらのこえを きいています

しばらくすると ようすをうかがっていた ほかのなきまくらたちも でてきました





ゆめちゃんたちが ふとんをしくと へやのすみにいた なきまくらたちは 
それぞれ 気にいったふとんをさがし 頭のところにちょこんと うずくまりました

おとうさんがつかっていた アンゴラもうふのまくらは おとうさんのふとんのうえへ
おかあさんがつかっていた 白い羽毛のまくらは おかあさんのふとんをえらびました

ゆめちゃんの そばがらの 花がらまくらは ゆめちゃんのふとんをえらびました
ひとつ お人形あそび用の綿のまくらは うろうろしたままです

「 ねぇ なにか なまえをつけてあげてもいい? 」
「 そうね 四つもあるんですもの まくらさんじゃかわいそうだわ 」
「 そうだね 何にしようか 」

「 ゆめちゃんのつかっていた花がらまくらさんは、はながらだから 花まくらにしようか? 」
「 はなちゃんのまくらみたいだから はなまくらじゃなくて ゆめまくらがいい 」

ゆめちゃんのつかっていた花がらまくらは ゆめまくら
おとうさんのまくらは おおきくて りっぱな ぱぱまくら
おかあさんの みみながのしろいまくらは まままくら
と なまえをつけました

そして ゆめちゃんが お人形あそびに使っていた ちいさなまくらは
ちいちゃんという なまえにしました




「 さあ はやくねないと明日においつかれるぞ 」と おとうさん
「 まぁ たいへん いそがなくっちゃね 」と おかあさん
「 はーい おやすみなさい 」と ゆめちゃん



「 おやすみー 」
「 おやすみなさーい 」

なきまくらは とてもやわらかくて 
みんな すぐにねむくなってしまいます
由井青朗
なきまくら
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