なきまくら





ここは ゆめちゃんの おうち

今夜も お父さんと お母さんと

なかよく お休みします





お父さんと ゆめちゃんは いつものように いっしょに おふとんをしこうとしていました
おふとんを出そうと おしいれに 近づいたとき 何やら 
中から もの音が きこえてきます
 
ねずみでもないし ごきぶりでもありません

もっと大きなものが うごいているようです

お父さんはゆめちゃんにいいました

「 ゆめちゃん きこえるかい? おしいれの中から 音がしているよ・・ 」
「 えーん・・ こわいよ・・ おばけだったら どうしよう おとうさん・・ 」

「 でも おしいれを あけなくっちゃ・・ 中にある おふとんをしくことができないよ 」
「 こまったね・・ 」

お父さんはゆめちゃんにいいました

「 よし お父さんが おもいきってあけるから 
ゆめちゃんは うしろで お父さんをはげましてくれ! 」
「 うん! わかった まかせて」
「 いくよ! せーの・・ それっ! 」.

お父さんは おおきな声で そっと ふすまをあけました




なんでしょう なにやらうごいています
おしいれの中で まくらがうごいていました
お父さんとゆめちゃんは とてもおどろきました

「 まくらがうごいているよ これはなきまくらだ 」

中をみると いつも家ぞくでつかっている まくらがみあたりません
それに 目の前で うごいている まくらたちのカバーの 色やがらが
いつもゆめちゃんたち家ぞくが つかっているものとまったくおなじでした

「 なきまくら? なきまくらってなぁに? 」

ゆめちゃんは ふしぎそうな顔でたずねました

「 むかしから このあたりにいるといわれている まくらにやどるおばけさ 」

「 やっぱりおばけ! やだ こわいよ 」

「 こわがることないよ なきまくらは しあわせをはこぶ いいおばけというからね 」 

「 いいおばけなの? 」

「 そうだよ しずかで平和な家の いごこちのいい おしいれをこのんで
すみつく まくらのおばけなんだ お父さんが まだ ちいさかったころには 
このあたりにもすこしはいたんだけどね 」





そこへ 「 どうしたの? 」と おかあさんがやってきました

「 なかに おばけがいるの まくらのおばけ 」
「 みてごらん なきまくらが いるんだよ 」
と ふたりは おしいれを ゆびさします

「 まあ ほんとうに なつかしい こどものころ いらいだわ 」
おかあさんも中をのぞくと
まくらたちはびっくりして おしいれのおくに かくれていました

「 さあ おいで・・ こわくないよ・・ でておいで 」
おとうさんは やさしい声で まくらたちによびかけると 
そのうちのひとつが おそるおそる でてきました

「 さぁ いいこだね・・ 」
おとうさんは でてきたまくらをだきよせ やさしくなでながら しずかにいいました

「 なきまくらはね おおきな音や さわがしい声が にがてなんだ 
だから こうやって しずかにやさしく なでてやるんだよ 」

「 そうするとね・・ きもちのいいこえで なきはじめるんだ
ほら・・ きこえるかい? なきはじめたよ・・ 」

ゆめちゃんが 耳をすませていると なにかきこえてきました

ごろごろ・・ごろろ・・ ぶるんぶるん・・・

ごろごろ・・ごろろ・・ ぶるんぶるん・・・

「 ほんとだ・・ ないてる 」

「 こどものころには どこの家にも よくきていたけどね 」と おとうさん
「 おしいれのあるいえが へったせいかしら 」と おかあさん
ふたりは なつかしそうに まくらのこえを きいています

しばらくすると ようすをうかがっていた ほかのなきまくらたちも でてきました

由井青朗
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