今度、きものを着よう その2

届けしようと思っている、真面目でちゃんとしたきもの店が、閑古鳥が鳴くことがないようにと強く願っているからです。では、「ちゃんとしたきもの店」を見分ける方法があるのか? あります。やっと本題にたどり着きました。

 

簡単なポイントの1つは、店員の方がきものを着ているかどうか、です。考えてみれば当然のことです。欧米の高級ブランド店の店員は、全員そのブランドのお洋服と小物をまとっていますよね。それと同じことです。

 

ポイントその2は、お品物の過大な値引きセールをするかどうか、です。

これも結構大事です。1割くらいならまだしも、5割とか6割などのお値引きをするというのは、そのお品物の原価がよほど安いとしか考えられません。おおかた「中国製」なのでしょう。

そうでないならば、破綻寸前でなりふり構っていられないのかとも疑います。

その点、六本木にお店のある「awai」さんの方針は明確です。あそこは値引きをいたしませんが、それは、買った人、製品の作り手、製品を売る人、の三方が得をする値段を慎重に決めているからです。原価を考えると、適正な値段はこれしかない、そういう正しい商売をしないと、お客様からの信用を失い、見向きもされなくなると、理解しておられるのです。

 

ポイントその3は、店員さんがきもの、織物、自分の店のお品物についての知識をしっかりとお持ちかどうかを確認することでしょう。

たとえば、結城紬を売っている店が、「地機(じはた)」と「高機(たかはた)」(註3)の違いが分からないようでは問題があるでしょう。

昨今では、産地紬については、ネットでかなり詳しい情報を得ることができます。逆に言えば勉強するのは簡単ですので、そういう最低限の知識さえ持っていない店員さん、織物の製作工程を聞かれても、首を傾げるような店員さんを置いているお店は、ちょっとお客様をなめていると言われても仕方ないのではないかと。

 

良いお店を見分けるポイントは、ほぼこの3点につきます。つまり、買う側も本を読んだり、サイトを読んだりのお勉強がいるわけです。

手前味噌ですが、わたくしの小説も、きものについて言及しているものがござ

【その5:男性のきものは必ずブームがきます】

いますので、もしよろしければ、ご高覧下さいませ。(笑)

一番多く触れているのは「クオドリベット」でしょうか。男主人公が、江戸時代から続く老舗呉服店の社長です。彼が登場する場面では、大島紬にグレーの帯を締めて、翡翠色の羽織を着ております。一応、女主人公である社長夫人も、茜色の付け下げ(染のきものですね)を買い求めております。

<a href="http://forkn.jp/book/1206/"><img src="http://forkn.jp/book/1206/image/LbgdmCMO?thumb=100&t=1317471763" border="0" />
<br />クオドリベット 上巻</a><br />by 深良マユミ<br /><a href="http://forkn.jp">forkN</a>



P座標、原点」では、副主人公であるストリップ劇場の女性オーナー(いわゆる、やくざな世界の女)が、いつもきもの姿です。最初の場面では「ひょうたんを描いた帯」を締めてますが、次の登場場面では……



 

書こうと思いましたが、あまり嬉々として自分の作ったキャラクターの装いを語るのもみっともないので、やめておきます。

ともあれ、作中人物がまとうきものから、その人物の性格、世界観をかいま見て頂きたい、いつもそう願っております。

 

その5:男性のきものは必ずブームがきます

 

この章立てで拙文は最後になります。「男性のきもののブーム」は、景気さえ良くなれば、実現するだろうと確信しています。

昨今の、花火大会での、あのゆかたをお召しになった若い方の集団を見れば、ブームにならないほうが変です。あの方達が、ゆかたなら着るがちゃんとしたきものは着ない(買わない)のは、ただひたすら「お金がないから買えない」だけだと思うのです。

すなわち、日本全体の景気が回復すれば間違いなくきものをお求めになるでしょう。そして、きものに対する障壁が低いのは、着付けが簡単な男性です。

「楽天」を観ても、男性用のきもののお店がたくさんありますから、潜在的な需要は、相当大きいと思われます。

 

そういうわけですので、今、この拙文をお読みになっている男性の皆様には、ブームを先取りされるのもよろしいのではないかと。(笑)

 

縷々述べて参りましたが、きものは、衣服と言う意味では実用品ですが、この国の先人が愛おしんできた文化財でもあります。恐らく、それがわたくしが、

きものに惚れ込み、手入れに余念がない理由でございます。

 

きものは単純に美しいだけでなく、着れば、われわれの祖先の知恵が詰まっていることが如実に分かります。きっちりと畳めば長方形になって収納に実に便利であること、半襟だけを取り外して洗濯出来ることが、理にかなっていること、袖にくっついた袂があることで、着る人の動作に余情と色気が加わること、絹と言う織物が、殺菌効果があって虫もよせつけないこと。これらの全てが、生活を快適に、豊かにしようと試みた、いにしえの日本人の知恵の結集なのです。

 

どうか、今お読みになってくださっているあなたが、心から愛せるきものと出会えますように。

 

★《男性編》ではお手入れの仕方は書かなかったので、《女性編》をご高覧下さいませ。


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註1:御召(おめし)

縮緬組織(強撚糸を緯糸に織り込む)の絹織物のこと。正確には「御召縮緬」であるが、略して「御召」と呼ばれるようになった。

徳川11代将軍家斉がこの種類の縮緬をとりわけ愛し、留柄(他の者が着ることを禁じた柄)を作り、これを御召料(位の高い人が着る衣類)としたことから、御召縮緬と呼ばれるようになった。

右撚りと左撚りの強撚糸に糊をつけて、緯糸に使って織りこむ。織り上がってから湯の中で糊を取ると、右撚りと左撚りの糸が戻り、互いに絡みあって、「シボ」が立って、独特のざらざらとした風合いになる。

戦前は上流の奥様の普段着、という位置づけでかなりの人気があり、生産も多かったが、戦後はいわゆる友禅のきものに人気を奪われ、生産が減った。しかし最近になってそのシックで媚びないたたずまいに、きものファンの関心が高


まっている。

 

註2:雪駄(せった)

草履の一種。正装や礼装に合わせる履き物は、畳表(たたみおもて)(竹皮で編んだ表)の「草履」が正式で、いかに高価でも「雪駄」は履けない。これは、高価であっても、紬を正式な場所には着ていけないのと通じるものがある。

畳表の裏底に、牛革を縫い付けて、踵の部分に尻金(裏金)と呼ばれる金属製の鋲が打ち込まれているものが、「雪駄」である。歩いたときに、この鋲がチャラチャラと音を立てる。残念ながら筆者は聞いたことがない。

 

註3:地機(じはた)と高機(たかはた)

結城紬(ゆうきつむぎ)、結城縮(ゆうきちぢみ)を織る二種類の機織り機を指す。

地機は経糸を織り手の腰にくくりつけて、足につけた糸を引いて経糸の間を開けて緯糸を打ち込む。これは原始的なカタチの機械で、結城紬は伝統的にこの地機で織られてきた。

それに対して高機は、織り手は枠に腰掛け、足踏み形式で経糸の上げ下げを行なうという能率的な機である。

 

「今度、きものを着よう  その2」ここまで

深良マユミ
作家:深良マユミ
今度、きものを着よう その2
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