も帯次第なのですよ。なので、できれば、そのおきものに完璧に合う帯を一緒に揃えることをお勧めしたいです。
不思議なもので「どんなきものにも合いそう」と思って単体で買った帯は、結局、自分のどのきものにも、いまいち合ってないような?? という感想をお持ちの方は多いと思います。
同じことが、帯締めと帯揚げにも言えます。特に帯締めは、「あの帯に合いそう」と頭の中のイメージで買ったものは、結局どれにもあわずに箪笥の中で眠っていることになります。わたくしは経験済みです。そして不思議なのですが、「この帯にわざわざ合わせて買った」帯締めが、他の複数の帯にも合うことがあります。あれは不思議です。
恐らく、帯と帯締めの「似合う、似合わない」は色ではなく、質感でよるところが大きいからではないかと推測していますが、帯の質感のお話を始めるときりがないので、ここでは深入りしません。
帯揚げは、汎用的に使えるのは、淡い水色です。純白の帯揚げと言うのは、留袖などに用いる礼装であり、わたくしは持っておりません。
淡いピンク色も持っているのですが、意外にも、わたくしの所持する帯には合わないので、水色の帯揚げばかりを用いるようになりました。しかし、最近、所持している花籠文様の帯に合う、ベージュ色と白に、桜が描かれているグラデーションの帯揚げを買いましたので、次の機会にそれを着るのが楽しみです。
その3:手入れは命がけでやりましょう
きものを買う前のお話から、一足飛びに「買ったあと」のお話しになってしまう、素っ頓狂なガイド本でございます。なぜならば、お読みになっておられる皆様、一人一人に似合うきものを探す為のお手伝いは、わたくしには荷が想いからです。
結局は、ご自分の審美眼が最も頼りになるのです。
ここでわたくしが強調したいのは、きものはお手入れをしながら着るのが醍醐味、ということです。なにしろオールシルクですからねえ……汚れをつけたら大変です。専門店に出したらウン万円です。
しかし、シミがついているきものを着るのでは、きものをまとう意味がありません。なので、ここでは、きものを汚さないコツ、汚れを撃退するコツなどについて書かせて頂きます。
私事で恐縮なのですが、わたくしが、きもの姿での外出から帰ったときにどうしているか、を時系列で書きます。
①手を丁寧に洗う。外出帰りの手は意外と汚れていて、それがきものを汚す遠因になるので。②あらかじめ和室に用意しておいた使い古しのベッドシーツを床の上に広げる。これは、床の汚れがきものにつくと困るのから。③その上できものを脱ぐ。殿方がときどきふざけて表現する「帯をくるくる」などは全くのファンタジー。帯は「どてっ」と言う感じで床に落ちます。④帯を解いたらきものは簡単に脱げるので、ともかくきものを、きもの用ハンガーにかける。 ⑤洋服に着替えてきものと帯のお手入れタイム! 帯を和室の高い位置にぶら下げて、帯のシワ部分をぱんぱんぱんぱんと叩いて取る。⑥同時進行で、きもの用ハンガーにかけたきものを点検し、汚れの有る無しを入念にチェックする。⑦きものは、一見汚れていないように見えても、裾がホコリを吸っていることがあるので、手で叩いて汚れを叩きだす、この作業に20分くらい。⑧同時に帯も一生懸命叩いてシワを取る。シワがとれないと次の機会にうまく結べないので必死。⑨長襦袢もきもの用ハンガーにかける。半襟が汚れているようなら、その日のうちに洗ったほうが良いので、はずす。⑩きものは、着付けの時にシワになる部分があるので、その部分もちゃんと叩いておく。その日のうちにはとれないが、これをやっておくとおかないとでは、次に着た時の着やすさが違う。⑪帯のシワはとにかく30分くらい叩く。これでまあまあシワは追放される。⑫草履を濡らしたふきんと、乾いたふきんで拭く。草履は裏まで拭く。⑬お化粧を落として風呂に入る。風呂に入っている時に足袋も洗う。⑭きもの、帯、長襦袢は、そのまま翌日までつるして風を通す。絹に湿気は大敵。
お分かり頂けますでしょうか……手で叩いてばかりです(笑)でも、この作業が
大切なのですよ。なぜなら、絹はほこりがつくと光沢が失われるからです。これが恐ろしいので、ほこりをつけたくないのです。そのうち、きもの用のブラシを買おうかと考えているほどです。
あと、書くまでもないでしょうが、絹は直射日光を嫌います。くれぐれも直接お日様のささないお部屋でつるしてください。
帯のシワは、叩いてもとれないものなら、翌日、当て布をして低温のアイロンをかけます。もっとも、私は今まで数えるくらいしかしたことがないですが。
ともかく、きものを着た翌日は、我が家の和室はすごいオモムキになっております。天井から帯がだらーーーーんとぶらさがり、二カ所にきものと長襦袢がぶら下がり、書き忘れましたが、伊達締めもぶら下がっています。伊達締めはきものよりも明らかに湿気を吸ってますから、これもつるして湿気を飛ばさないと駄目でございます。主人が部屋を見た途端に、
「すげえ光景、横溝正史の映画かと思った」などという意味不明のことを申しましたが、なんとなく、言わんとしていることは分かります。若い方にはお分かりにならないかもしれませんが、ご興味がおありなら、横溝先生の「獄門島」や「八つ墓村」などをお読みになると、何かを感じていただけるかと思います。ひと言で言えば、「すごく昔の日本っぽい感じ」とでもいいましょうかね。閑話休題。
それよりも、お手入れの話でございます。
きものの汚れよりも、長襦袢の汚れのほうが、憎い敵かもしれない、と思うことがあります。と申しますのは、きものと言うのは案外汚れがつかないのです。わたくしの場合、きものを着るのは月に4回程度ですが(梅雨のときなどは着ません)汚れて困った経験はありません。ラッキーなことだと感謝しています。
それに対して、長襦袢は6回くらい着ますと袖口が薄汚れてくるのです。袖口の他には、裾です。裾はともかく、袖口は目立つところですので、わたくしはさっそくクリーニングに出しましたのですが、言われたお値段は「8200円」でした。
…これではたまらない、と思い、長襦袢をもう1枚つくって3枚をローテーションし、後に、二部式襦袢も2枚買いまして、これでやっと満足のゆく体制になった、はずなのですが……
その「二部式襦袢」の襟の台が、洗濯を重ねるうちに、糸がほつれてきたのには苦笑させられました。まあ、こういうのは自分で縫うしかないので、補修いたしました。でも、今度二部式の襦袢を買うときは「中国製」は買いません(笑)。
ともあれ、長襦袢は、最低2枚、できれば3枚をローテーションさせるのをお勧めいたします。袖口から汚れが見えるようでは、きもの姿の美しさは半減します。
どうしても長襦袢の袖の汚れをお家で落としたい方のために、ベンジンで汚れを落とす方法も書いておきましょう。
①ガーゼまたはふきんに、たっぷりとベンジンをつけて、長襦袢の袖の汚れを叩くようにする。②そのあと、乾いた布を当てて、汚れをその布に移す。ベンジンで濡れた袖口を包むようにすると良い。③長襦袢が乾くまでハンガーにかけてつるす。いささか薬品臭がするので、必要ならば扇風機で風を当てる。
このやりかたは、結構時間と忍耐力がいります。あと、換気を良くして火気にご注意ください。
足袋もローテーションで使うのが理想です。わたくしは3枚持っております。足袋の洗濯も真剣勝負です。(笑)ちなみに普通の固形石鹸で、手で一生懸命に洗っていますが、長襦袢と同じで、履き口が汚れてくるのですね。つまり、肌があたる部分です。ここは洗いにくいので、古い歯ブラシで洗っております。足の裏は、意外と汚れません。谷崎潤一郎に見せたいくらいに綺麗なもんです(意味不明)。
手入れとは話がずれますが……足袋については、左右間違った種類のを履かないように、履き口の裏のところに、「源氏物語」の巻名を油性マジックで書いています。「葵上」とか「桐壺」とか。自分だけが分かる楽しみでございます。