持ち、話をしてみたいと望んだのは、一種の逃避願望に違いなかった。
【5】
「東京タワーで出会った、最も尋常ではない人物が、あなたの悩みを全てクリアに消し去ってくれる……」瑤子の目の前の女性ロックシンガーは、優美な顔にいかにもトホホな表情を浮かべた。
ここは六本木の「東京ミッドタウン」のカフェである。さ来週の土曜日のきあらのライブがこの近くであるのだ。
宇佐美きあらは、メニューをじっくりと見てから、カレーランチをオーダー(1000円だった。意外と庶民的?)し、瑤子は考えた末、パフェを頼んだ。きあらが「ランチにすれば? 」と言いはしたものの、特につっこみもせず、店員にてきぱきと注文した。
「あの、瑤子さん、その占い師とやらの言葉を、本気で信じてらっしゃるの? 」畳み掛けられて瑤子は、さすがに「はい」というのが恥ずかしく思えたが、彼女なりに考えてから言った。
「ええと、全部信用していたわけではないです。でも、あたしは、そういう超神秘的なことを信じる自分と言うのが、いてもいいかなぁー、って。そんな事を思ってたんです。まあ、きっとそれは当たりはしないんだろうけど」
「当たりはしないんだろうけど」
「当たるか、当たらないか、どきどきしている時間が欲しかったんだと思います」きあらの顔が、奇妙に真剣になっているのに、瑤子は気づいた。ああ、このひとは、アーティストだけあってロマンチストだ、と瑤子は嬉しくなった。
「分かる気がする。それに、手前味噌だけれど、『尋常ではない人物』だとあたしを思ってくれたあなたは、ある意味かなり鋭い。一応は芸能人だからね。でもね、悩みと言うのは、人に解決してもらうものではないと思うのよ」
あたしも今まで、たくさんのトラブルがあり、嫌な人間に悩まされたりもした、でも、人に相談はしたが誰かに解決してもらったりしたことはない、そうきあらは静かな口調で言った。