獄中記

 祐一の判決の日が訪れた、裁判官は懲役10月とさらりと言いその瞬間アカ落ちが決まった。

舎房に戻るとアカ落ち部屋に移された、既に受刑者となった祐一は灰色の受刑服を着せられ、

類作業(全国何処の刑務所に移送するかを図る作業)が終わるまで独居房で刑務作業を行う

事になる、その作業は紙貼りと呼ばれ紙袋を作る工程の分業である、一日8時間その単調作業

が続く。

 一週間後移送先が決まった、24歳の祐一は川越少年刑務所で受刑生活を送る事になる、25

までは少年刑務所らしい。

護送車で川越少年刑務所の厳重な門を潜る、心臓の鼓動が激しく高鳴る。

祐一は教育課長の部屋に連れて行かれ、人定質問を受けた。

「これより君は新人教育を受けてもらう、生活基本動作を学び一週間後、作業場が決まりそこで

務作業に従事してもらう事になる

 留置管理課に移動しまたもや素っ裸にされ、身体中検査を受ける、そう尻の穴にガラス棒を突

込まれたのだ。

この川越少年刑務所は、若年層が殆どのため運動に力を入れている、その運動がキツイ。

腕立て伏せや腹筋など基礎体力作りと言いながら、毎日毎日筋肉痛で動けない、それに団体行

進の練習である、所内ではすべて歩き方が決まっている、逆らえば懲罰房行き。

 祐一は第一希望作業を図書にしたが、第二希望の炊場と決まった。

炊場とは、受刑者と刑務官の食事を作る工場であり朝が早い、特別待遇もあり他の工場は風呂

は週2回だが、ここでは毎日入る事ができる。

初めて工場に入った、ここでは先輩の指図は絶対服従である、下っ端が入るまでスイーパーと呼

ばれ風呂掃除に始まり洗い物、各セクションの手伝い、失敗すれば怒号が飛ぶ。

昼飯では先輩のお茶を汲み歩き、食事の時間が3分しかない、しかも殆どが年下である、もしこ

こで短気を起こし喧嘩をすれば、特警隊が飛んでくる。

 炊場担当刑務官は、二人いるがこいつ等のことは先生と呼ばなければならない。

ここでの生活は未決拘留日数を差し引いて8ヶ月である、他の連中より遥かに短い、親を殺した

奴、強姦、強盗、覚醒剤と様々な犯罪を犯した者が共同生活を送っている、中には懲役10年と

いう殺人者もいた。

 

 

 そうこうしているうちに序列が上がってきた、工場NO、2の菜方と呼ばれるもので、包丁で野菜

魚を刻んだり処理する係りである、お陰で現在でも包丁は達者である。

炊場は365日稼動するが、他の洗濯工場や清掃工場などは日曜日が免業日で作業は休みで

ある、だが炊場も一人ずつだが交代で免業になる、その日は昼飯まで布団の中で過ごす事がで

きるのだ、若く正常な男の身体は性欲を抑えられない、自費で購入したエロ雑誌を片手に、便所

の紙を隠し、刑務官の目を盗みながら、布団を被り自慰行為に励む、後で仲の良くなった

刑務官に聞くと全て解っていたらしい。

 ここに来て6ヶ月が過ぎた頃、仮釈放申請が出された、上手くいけば後一ヶ月で娑婆に出れ

る、その面接を受けるため理容工場で散髪をさせてもらった、懲役が決まってから坊主頭は通常

だったが仮釈放が近づくにつれ髪を伸ばす行為が許されるのだ。

 今思えば様々な事があった、炊場の工場長は祐一より年下だが、工場内では絶対的な権力を

っている、或る日その権力を悪用しとんでもない行為が明らかになり、懲罰房に入れられ洗濯

工場の下っ端に落ちイジメに遭っている、刑期はあと4年も残っている。

その行為とは、雑居房内で下っ端の者に自分の陰茎をシャブらせたり、猥褻な行為を虐げさせ

ていたのだ、祐一とは舎房が違うため知らなかったが当事者が担当刑務官に事実を伝えて発覚

したのだ、常軌を逸脱しているこの社会は経験した者でなければ到底理解できないだろう。

 

 仮釈放の日が決定した、一週間後には晴れて娑婆に出れる。

仮釈放が決まったものは鉄格子の無い部屋に移る、そして食事も麦飯から白米に変わり、作業

も無くなる、しかしここを出てから何をすればいいのか考えると眠れなくなる、炊場で働いていた

頃は仲間と娑婆に出たらまず煙草だな、いや女だろなどと下世話な話題であったが、いざ現実

が差し迫ると思案に耽ってしまう。

10ヵ月の間自由を奪われてきたが、あっという間の出来事であった。

 川越刑務所長の部屋にいる、仮釈放決定書の朗読が始まった、今日釈放されるのは祐一を含

め3名が出所する、他二名は家族の迎えがあったが祐一は家族に不義理をしているため迎えが

無い、帰る家も無いため更生保護施設(身寄りが無いものが一時的に衣食住を与えられる場所)

に入る事になる、そこで就職活動をし、一ヶ月間でそこを出ることになるらしい。

 

 刑務所に入っていた者に就職などあるのか、そう思いながら刑務所の門を出た。

やはり外の空気は違っていた、川越駅に向かう途中煙草屋があった、セブンスターとライターを買

い煙草に火を点けそっと吸い込んだ、大袈裟だがくらくらと眩暈がした。

作業報奨金(刑務作業の労働対価)なるものと所持金を合わせて5万円、早く仕事に有り付かないと

大変である、祐一は26歳になっていた。

川越から都内へ向かう電車に揺られながら、売店で買った缶ビールをチビチビ呑んだ。

 あるデータによると再犯率は高く、また刑務所に戻る奴は7割を超えるという、社会の脱落者はや

はり居場所は無いのだろうか、祐一は車窓を眺めながら先の不安と戦っていた。

エンジェル
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