プロローグ( 2 / 2 )
序章
そんな中で、もう一つの事が起きようとしていた。
___またか…。
男は、目の前のものに嘆息した。
「しつこい奴らだな。答えは否だ、そうお前の主に伝えろ」
相手は黙っていた。頭巾を深く被り、覗いた目は明らかに敵意を示していた。
「返事はもう必要ございません。我が主は貴方様の首をご所望故…。蒼(そう)清(せい)雅(が)さま」
「ふん。そう来たか」
背まで届く髪を乱暴に掻き上げ、男はその主が誰かすぐに理解った。自分の命を欲しがる者はこの世に少なくとも二人いた。
兇(きよう)手(しゆ)は数人いた。
だが男にとって、数は問題ではなかった。何処にいてもつきまとう血の運命に、今さながらに扱いに困惑している。
蒼家当主となる以前から、云われた事がある。
蒼家は、特別なのだと。
「___いえ、正確には蒼王さまでしょう。その才なければ彼らを束ねる事もできませぬ故。もしあの方のされるままになれば、この国は千年前に戻りましょう」
未だ子供だった清雅に、蒼家の重鎮である男とそう説いたのである。
そして彼らとは、蒼王が千年前から束ねる龍の事を云う。
千年前、地に降りたと云う黄金の龍『天龍』。その後孫は地龍として人の姿で今もこの地にいる。何れ目覚めるとされる天龍を護る為に。
蒼家はその後孫の中でも、最も天龍直系、初代覇王・陵牙王の流れを組む家計なのである。
兇手を放った主は、当時暗躍した人物で間違いと確信した。
「そんなに欲しいなら獲ってみるんだな」
蒼くユラユラ上る光を背に、清雅は剣を抜いた。
___我、再び目覚めん。我が牙を抜きし者の身に。