futurenovels創刊号

創刊にあたって( 1 / 1 )

創刊にあたって

小説家。多くの人が一度はなりたいと思ったことがある職業のひとつではないでしょうか。プロとは行かずとも趣味で書く人もいるでしょう。今の時代、インターネットで創作活動をしている方も多いようです。このマガジンはそんな多くの自分の作品を見てもらいたいと思っているオンライン作家さんを応援しようと思いから作られました。自分の作品を見てもらいたい作家と作品を楽しみたい読者。需要と供給が上手くマッチすればいいなと思っています。この場を借りて作品を提供していただいた2名の作家さんにお礼を申し上げます。

2012127日 futurenovels編集部 編集長

 

掲載作品

天川さく「ムーンガーデン」

四宮 「紡がれゆく足跡」

四宮 葉「紡がれゆく足跡」( 1 / 1 )

四宮 葉「紡がれゆく足跡」  

 

 出演:乙坂 螢次・左焔・右焔、『五代目・乙坂 水姫』燿紀・煉菜・煌羅・火燐・熾音

 

 

―――僕は、生まれた。

―――僕は、生まれた。

 

―――一族で天才と名を馳せる父親から。

―――天界に住まう焔を宿した母神から。

 

―――僕らは、生まれた。

―――僕らは、生まれた。

 

 

―――二つの体と。

―――一つの心を。

 

―――大事な身体と。

―――大事な精神を。

 

 

―――僕の名は、左焔。

―――僕の名は、右焔。

 

―――一族の槍使いとして。

―――一族の弓使いとして。

 

 

――――みんなの生命を護る為に。

 

――――一族の悲願を叶える為に。

 

 

 

――――僕らは、自分の足で、戦いに行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしました?」

 

後ろから父の声が聞こえた。

 

 

「何でもないよ」

「うん、何でもない」

 

濡れ縁に一緒に座っている二人の子供は答える。

答えた後、父の元に寄り付くようにして立ち上がり、近付く。

 

 

「お前たちももうすぐ八ヶ月ですねえ」

 

父は、自分と変わらぬ背丈二つに、そう優しく言った。

 

 

「もうすぐ『交神』が出来るようになるんだね」

「でも、僕たちにはまだ早いと思うよ」

 

父とほぼ同じ目線に立つまでに育った二人は、複雑そうな顔をした。

 

 

 

京の都に佇む、大きく広い屋敷。

そこに、彼らは住んでいた。

 

彼ら一族が―――住んでいた。

 

 

「当主様は?」

「また、師事してるの?」

 

二人は言う。

 

「体調を崩してましてね。当主ノ間で療養中です」

 

父が返す。

 

 

「父様も顔色悪いよ」

「寝てなくても大丈夫?」

 

心配そうに問う二人。

 

「いつもの事ですよ。心配なさらないように」

 

二人の頭を撫でながら、父は答えた。

 

 

 

 

乙坂(おとさか)一族――――。

 

彼らには、忌まわしき二つの呪いが掛けられている。

 

 

『短命の呪い』と、『種絶の呪い』。

片や、常人よりも急速に成長していく変わりに、最も長くて二十五ヶ月、最も短くて十八ヶ月で個人は死ぬ。

片や、常人と同じ姿でありながら、一組の男女として互いの身を交わそうとも、子孫を成すことが出来ない。

 

では、彼らは何故、子孫を成せているのか。

 

 

説明するは簡単だ。

彼ら一族には、協力者がいる。

 

 

まずは、この屋敷にお付きとして存在している一人の娘。

名を「イツ花」と言うのだが、これがまた大雑把な小娘である。

 

一族の記録を付けるには付けるが、全てが簡略的であり、詳細まで書ける様子がない。

何に対しての説明も、重要な部分が(意図的か無意識かはわからないが)所々抜けており、説明として不十分すぎる。

極め付けは、何かを手に用意する時に、半々の割合で大根を間違って手に持ち始めることだ。

 

だが、そんな彼女でも、さすがに家事炊事はお手の物。

一族からは、彼女の食事が美味いと評判であり、世代によっては五杯もおかわりする猛者もいたとか。

 

自分の存在を公にはしていないが、一族は気に留める様子も無い。

 

 

そして、こちらは大々的な協力者。

一概には『人』ではないので、協力組織・・・と言った方がいいのだろうか。

 

『人』でないのなら、何の存在なのか。

偏に言えば簡単だ。

彼ら一族の『種絶の呪い』の条件である『人』の枠組みから外れた、『天界』の『神様』なのだ。

 

彼らの始祖である、呪いを掛けられた初代当主の両親が大江山で討死した時のこと。

ある程度の時を流れた時から、乙坂一族は天界の神様から後援を受け始めたのだ。

 

そして、『種絶の呪い』により子孫が残せない乙坂一族に対して。

天界の神様はこう述べた。

 

 

《私たち、神と交わりなさい。そうやって一族の血を遺し、朱点童子を打倒するのです》

 

 

つまりは、天界の神様が協力しているからこそ、彼らの血はこの『交神』によって子々孫々へ遺せるのだ。

父・螢次(けいじ)も、双子の息子・左焔(さえん)と右焔(うえん)も、神の協力があってこそ生まれ出でたのだ。

 

 

 

彼らの使命は、朱点童子という鬼を打倒すること。

打倒を成し得られれば、彼らの額に忌まわしく光る緑色の呪印は、粉々に砕け散るのだろう。

 

 

 

「それでね父様、僕の槍捌きどう?」

「僕の弓の精度もどう?父様の奥義を使うには足りない?」

 

槍使いの左焔と、弓使いの右焔は、父に聞いた。

 

「左焔はもう少し、力強く踏み込むことに心掛ければ、一撃の重さを十二分に引き出せますよ」

螢次は左焔に言った。

「右焔は脇の締めがまだ甘いですねえ。しっかりと矢を引き絞っていますか?」

螢次は右焔に言った。

 

 

「なるほどー」

「なるほどー」

双子の声が同時に同じ言葉を発した。

 

 

「次世代を担う子なのは確かですが、焦らなくてもよいのですよ」

 

言葉ではそういう父だが、身体の痩せ具合に焦りたくもなるだろう。

左よ右もと佇む二人の焔は、やはり心配を隠せない。

 

だが、そんな様子を見てもなお螢次は言う。

 

 

「宿命には逆らえません。それが例え、鬼に擦り受けてしまった呪いの結果であろうと、受け入れねばならぬのです」

その一言が重く響く。

左焔も右焔も、その言葉にはただ黙るしかなかった。

 

 

自分たちよりも年老いて、ただただ短い生涯を閉ざしてしまった人物を、まだ己が肉眼で見たことがないだけに。

その将来を想像することに、臆病になっているだけなのだ。

 

 

「人は何かを代償にしてでも強く成らなければならない・・・」

「そう言いたいの、父様?」

 

そして、その臆病は、螢次の言葉だけでは払拭できない。

顔を伏した双子の焔の不安は募るばかりだ。

 

 

「五代目当主の燿紀様も、左焔と右焔の二人と同じ気持ちを持ちながらなお、今の屈強な自身を築いてきましたよ」

 

左焔と右焔は顔を上げた。

その言葉には、父・螢次の並々ならぬ思いと、『五代目当主』の強き志を、示していた。

 

 

「・・・」

「・・・」

 

双子は考えた。

それが、どれだけ多くの茨に包まれた獣道だったのか。

それを潜り抜けて尚、今の『五代目当主』はどのような苦難を乗り越えてきたのか。

 

その考えを後押しするように、螢次は言葉を続けた。

 

 

「彼女の『想い』は、彼女自身が当主でなかったとしても、一族のすべてを護るために尽力していたと思いますよ」

 

 

続いた一言。

その一言に、二人の焔は顔を合わせて、決意するかのようにお互い頷いた。

やはり双子であるか、その頷くタイミングはまったく同じだった。

 

 

「父様、僕たちの考えはまだまとまってないけど」

「僕たちのやるべき事は、今決めたよ」

 

螢次はその言葉を聞いて、二人の顔を見回す。

表情に迷いは無くなっている。むしろ、決意を新たにしたように清清しい顔をしていた。

 

 

「一族のために」

「人間のために」

 

 

―――乙坂の血流を戻すために。

―――人々の生命を護るために。

 

 

「僕たちは、茨の道を進むことを」

「みんなの、命の手綱を護って見せるよ」

 

元服前。

大人になる前に、彼らは子供としての最後の決意を示した。

 

この決意を果たせるのは、彼らが大人になってから、相当先の話になってしまうのだが。

それでも、今この場で、彼らは子供ながらにして試練の道を選んだのだ。

 

 

「それじゃあ、そろそろ時間だから」

「僕たち、討伐に行ってきます」

 

そういうと、左焔と右焔は準備を始めるために自室へと戻った。

 

一人残った螢次は、嬉しそうに顔を綻ばせる。

 

「・・・そうでしたね。もう立派な、一人の人間になるんですよね」

 

 

 

これは、一〇二三年六月初めの出来事。

一人の父と二人の子の、それぞれの想いを表した一日。

 

討伐に出かけた討伐隊四人―――ないし二人の子供を心配することもなく、螢次は他の一族とのんびり過ごした。

 

 

『五代目・乙坂 水姫(みずひめ)』―――当主の燿紀(ようき)は一歳十ヶ月という

寿命が近い体でなお孫に当たる子に訓練の師事をしている。

 

煌羅(きらら)は一歳三ヶ月と中年期を過ぎた心身を、螢次とゆっくり休めていた。

 

熾音(しおん)は〇歳〇ヶ月と生まれたばかりだが、二ヶ月を迎えた時の初陣で軽々と死なないために、

祖母に当たる燿紀から師事を賜っている。

 

 

討伐隊に選出されるのは、この一族では中年期に入る前の子から初陣に入った直後の子までの四人。

それ以外の一族は、初陣に達していない子がいれば中年~老年期の誰かが訓練の師事を務めたり、

屋敷内で自由に休養したりと、数少ない人生を過ごす。

 

二つの呪いに掛けられた一族が出来ることは、討伐によって鬼を打倒して力を蓄えること。

それが宿敵である朱点童子を倒すための、輪廻転生を掛けての血流の強化なのだ。

 

 

 

しかし六月も後期に差し掛かった時、螢次は崩れ落ち、床に伏した。

 

燿紀が床に伏したとしても年齢的には時期なのだろうが、螢次もこの時一歳七ヶ月。

この一族では一歳六ヶ月や一歳七ヶ月の齢で永眠した子も多いので、あながちおかしい事ではない。

 

他三人の一族たちは、屋敷内での自分の役目も投げ出してすぐに看病をした。

だが、呪いを掛けられた一族にとって、一度危篤状態に陥ってしまえば、それは即ち死を意味する。

 

自分よりも若い螢次に先立たれる不幸を涙を流して恨む燿紀。

そんな彼女に目をやって、彼はこう告げる。

 

 

 

「いずれは死ぬ運命ならば・・・受け入れなければなりません。自らよりも若くして死ぬ一族が出るのも、運命なのです」

 

 

 

彼は、二人の焔に恵まれた。

最期に、彼らが子供として決意を父に表明してくれたことが、最高の幸福だったという。

ただ惜しむらくは、彼らの元服した姿を見ずして死んでしまうことだけ。

 

だが螢次という父は、その悔いすらも人生であると自らの人生論を心に語っていた。

 

 

 

一〇二三年六月が、もうすぐ終わる頃。

討伐隊は戻ってきた。

 

戦果は上々、戦利品も数多く得た。

一歳〇ヶ月の煉菜を隊長に、〇歳八ヶ月の左焔と右焔、そして今月に初陣を果たした〇歳二ヶ月の火燐。

その四人も、螢次の床に伏す姿を見て、悟った。

 

 

「父様!」

「しっかり!」

 

真っ先に駆け寄ったのは当然ながら、左焔と右焔だった。

己の父が床に伏してしまっていることが何を意味するかは、もはや理性的に理解していた。

 

 

「・・・今回の戦果は、私が見る今までの結果で、最も素晴らしいものでした」

 

父は続ける。

 

「これは・・・親馬鹿、という事なのでしょうかね・・・左焔と右焔が、討伐隊で、自らの力を全力で使っていたと、思ってます」

 

 

隊長を務めていた煉菜も、何も言わずに涙を流していた。

彼女が一番、左焔と右焔の―――彼らの力を間近で見てきたのだ。

 

 

「そんなことないよ!」

左焔は叫ぶ。

「僕たちはまだ未熟だ!」

右焔は叫ぶ。

 

「僕たちはまだ・・・上の方から、学ぶものが残っている・・・」

「何かを学ぶのに・・・時間がいくつあっても足りない・・・」

 

消え入るような声で、螢次に縋った。

 

「父様からも、まだまだ学ぶものがあった!」

「何故父様が、今死ななければならないの?」

 

その姿はやはり子供である。

呪いを掛けられている〇歳七ヶ月の身体は、二〇一二年の世界では十五歳前後に近い身体に並ぶ。

身体が大きくても、父の前では子供は子供なのだ。

 

 

だが、そんな不安な声を聞いた螢次は、布団から両腕を出し、それぞれの腕でそれぞれの頭を引き寄せる。

そして、静かに囁く。

 

 

「全てを、上の人から学べるなど、有り得ないんです」

 

一族はその涙を流しながら、言葉を出さずに聞き入る。

 

「学ぶ事は決して多くない。全てを伝えるには、時間が足りない。伝えられたとしても、世の中には知らない事が山のようにある。

 全てを学ぶためには・・・自らの行動のみがモノを言う事だって、必要なんです。しかし・・・それでも、全てを学び切れないんです。

 お前たちは・・・左焔と右焔は、七月を迎えた直後には、子供ではなくなります・・・。

 その先は、大人になった自らの足で・・・知り得なさい。残念ですが・・・私は、一足先に、眠りにつきます」

 

 

ゆっくりと、しかし消え入らないように、螢次は言葉を放った。

それは、文章にすれば長い言葉だが、彼ら若い世代の生存本能に訴えかけるようにして。

一族が呪いから解き放たれるために、願いを込めて放った、魂を掛けた言葉だった。

 

左焔と右焔は、父の腕によって引き寄せられたままの状態で、その瞳から溢れて止まらない涙をさらに流し続けた。

彼らにとって、父の言葉は強く響いた。

 

 

二人の焔だけではない。

彼らよりも年が離れた下の火燐や熾音も、同じように螢次の言葉が強く響く。

 

当主である燿紀も、今月倒れるまでにはならなかったものの、一歳十一ヶ月を迎える身体だ、いつ倒れるかわからない。

だからこそ、年老いた身体が灰になる前に、伝えたい事は伝えておきたい。

 

 

螢次は、その事を今果たせたのだ。

彼にとっては満足なのだろう。

 

呪いの一族に生まれたことに後悔もしていなければ、生まれたことに対しての怨嗟や怨念すらもない。

他の家族もきっと、同じ想いだろう。

人並みに神様に恋をしたり、人以上に短い生涯の中で希望を見出したり、異常なほどに戦いを繰り返したり。

そのように人生を全うしている子もいれば、何かを嘆く子もいるかもしれない。

 

 

その環境下にありながらもなお、螢次は満足だと思った。

 

人のために戦い、自らのために血を流し、一族のために子を儲け、未来のために一族を託す。

それが出来た私の人生は、十分に人並み以上のものだったと、心から思えます。

 

彼は最期に、一族に言った。

 

 

「あの世であっても、私が幸せそうだったら・・・声を掛けないで下さい。私も・・・そうします」

 

そして、徐々に言葉は消え入ってゆく。

 

「次に・・・生を持つ時・・・・・・必ず・・・、どこかで・・・・・・皆さ・・・んと・・・、会う・・・た・・・・・・め・・・―――」

 

 

言葉半ばで、乙坂 螢次は、息を引き取った。

享年一歳七ヶ月、一〇二三年六月最後の日のことだった。

 

一族は泣き、悲しみ、胸を痛め、一晩螢次の側から離れなかった。

 

 

 

 

 

二人の焔はその夜、悲しみの残った表情で夜空に光る星と月を眺めた。

 

「埋葬・・・されてしまったね」

「そうだね・・・まだ悲しいよ」

 

亡骸は、屋敷の裏手にある土地に埋められた。

 

「父様は、どこかで僕たちのことを見ていてくれるのかな」

「きっと、天の国から僕たちの行く末を見てくれるかもね」

 

まだ瞳に残る涙を拭いながら、彼らは父の偉大だった姿を思い出す。

 

「大丈夫だよね・・・僕たちは、もう大人なんだから」

「そうだよ、大人なんだから・・・きっと大丈夫だよ」

 

左焔と右焔は、お互いの顔を見合わせる。

すっかり泣き疲れたようで、瞳周りも鼻も赤く染まっていた。

 

「右焔、まだ泣いてるの?」

「左焔こそ、顔真っ赤だよ」

 

泣き続けるうちに、父の死を心の中で整理できたようで、少しずつ表情に笑みも戻ってくる。

乙坂の血流でない人間ならば、何日も何十日も引き摺っていてもおかしくはない。

だが、彼らには時間がない。悲しいとわかっていても、早々に立ち直らなければならないのだ。

 

 

「うん、大丈夫だよね、僕と右焔なら」

「左焔と僕なら、絶対に大丈夫と思う」

 

少しずつ元気を取り戻していく。

彼らはこの日、睡眠を取ることなく夜空の下で話を続けた。

 

 

初めて屋敷に来た時のこと。

自分と同じ顔の兄弟に恵まれたこと。

 

当主様・父様世代の方々に師事を賜ったこと。

初陣を飾った時のこと。

 

徐々に自分の強さを感じ取れたこと。

弱さこそ自分が自分であるためだと父様に教わったこと。

 

 

父様に色々学べたこと。

 

大人になる前に、一族を託してくれたこと。

 

 

 

大事なことを全て年上の一族から教わった。

日を跨げば、彼らは〇歳八ヶ月。

元服を迎え、大人への道を歩き出す。

 

 

 

 

朝になった時、屋敷のお付きの者から提案があり、五代目当主の燿紀はその提案を承諾。

 

左焔と右焔の「父様はどこかで見守ってくれる」という言葉に呼応するかのように―――

乙坂 螢次は、乙坂家初の氏神へと奉られ、神々の住まう天界への昇天を果たした。

氏神名、乙坂賢文聖。

 

今後、一族の女性は乙坂賢文聖を交神の相手として選択が出来ることになった。

 

 

 

 

 

一族はその後、様々な出来事を重ねて歴史を綴っていった。

翌月七月には五代目当主の燿紀が亡くなり、新たな『六代目・乙坂 水姫』を、最年少の熾音が継承。

九月には左焔が、十一月には右焔が交神の儀を行ない、二人とも可愛い女の子供を賜った。

 

左焔の子供の来訪と右焔の交神の儀が重なった十一月では煌羅が亡くなったが、翌月に氏神“乙坂御珠姫”として昇天する。

その二月後の一〇二四年一月に煉菜が亡くなったが、“一白星乙坂”として三人目の氏神昇天を果たした。

 

 

二人の焔―――左焔と右焔は、氏神昇天こそ叶わなかったが、一〇二四年五月、二人揃って世を去った。

共に一歳六ヶ月の齢だった。

 

後に二人の娘も同じように夜空で語り合い、同じように戦いの渦中へと身を投じた。

 

 

 

 

 

 

 

乙坂の血流から呪いが解き放たれたのは、螢次とその二人の焔・左焔と右焔の存命時代それから数十年のことだったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紡がれゆく足跡」   (了)

天川さく「ムーン・ガーデン」( 1 / 1 )

天川さく「ムーン・ガーデン」

 

 

 ロングジャケットに革のブーツ、紺色長髪の青年ナユタは歩みをとめた。

 背負っていたライフル銃をおろして地面に膝をつく。

 地面といっても地球ではない。

 月だ。

 地球の唯一の衛星である、月だった。

 月面にコロニーを作って人類が生活できるようになってはや130年以上。ナユタが所属する企業の本社もここ月面にある。地球環境コンサルタント業務を主体とする企業だ。地球の環境に関係するあらゆる問題に対応する業務だった。

 月面のコロニーでは地球上と同様に植物の栽培ができるような土壌を敷き詰めてあった。ナユタが膝をついているのも、そんな土のひとつだ。

 いってみれば人工的な土だ。

 月の土ではない。

 それでも土は土だ。触れていれば温かい。土独特のふんわりと包み込む匂いが気持ちを落ち着ける。もちろんそれだけではなく――。

 ナユタは目を閉じる。

 黙祷するように息を止める。

 1秒、2秒と時が流れる。戻すことのできない時間が流れていく。

 やがてナユタはそっと瞼を開くと鞄から持参した苗を取り出した。

 ナナカマドの木の苗だ。

 手のひらにすっぽり入る小さな苗のくせに、しっかりと葉を伸ばした苗だった。羽のような葉が数葉集まって1枚の葉をなしている。

 育てば房状の白い花をつけ、赤い小さな実となる。

 七回かまどで焼いても燃えない、そう謳われるほど頑丈な木だ。

 ナユタの脳裏に苗が育ち花をつけ、真っ赤で小さな実をびっしりとつけたナナカマドの木が浮かんだ。葉を落としてもなお房状の赤い実がしっかりと残っている。ココも――その姿を眺めれば目を細めたに違いない。

 ナユタの背中がひんやりと冷たくなる。

 そしてナユタはスコップを取り出し土を掘る。スコップが土に当たる感触が、振動が、手から腕へと伝わって、胸へと伝染しそうだ。

 一心不乱に土を掘っていたココの姿が脳裏に浮かんだ。

 笑うココの顔がちらついた。泣くココの顔が浮かんだ。叫ぶココの顔が、はにかむココの横顔が、怒りに頬を振るわせるココの口元が思い浮かぶ。

 それらを一切振り払い、ナユタは苗をそっと土に植えた。

 

 

      ***

 

 

「植えるなってどういうこと!」

「先ほども申しましたように、そちらの品種は将来的に在来種を絶滅させるおそれがあり――」

「在来種じゃ生き残れないからこうして作ったんじゃん。バカじゃないの!」

 ナユタは演台から科学者席の女と隣りのモジャモジャ頭の営業部員を交互に眺めた。

 ほほう。粘り強いことで定評のあるモジャ毛くんをここまで困らせるとは。なかなかやるな、この女。それだけではなく――。

「これは世界政府の決定です。世界環境保護基準法にのっとった正規の手続きでして。これ以上勝手に植林を進められましては当方といたしましても強硬手段をとらざるを」

「焼き払うっていうの? はっ。やってみれば。燃えないから。この木はそういう品種改良がしてあるの! どんな二次災害にも耐えられる強度があるのよ。根の張り方もハンパないから」

「そういう方との対応といたしまして、当方にも相応の部署がございまして」

 ちらりとモジャモジャ頭の営業部員がナユタの顔を見る。ナユタは、ああオレの出番か、とマイクを手に取る。

「えー。われわれ修繕部は、申し訳ありませんが環境第一に任務を遂行させていただきます。それには」

「あたしたちだって環境第一でこうして品種改良をしたのよ。10年! 10年かけて昼夜を問わず血肉注ぎこんで作り上げた品種なんだよ! バカにしないでよね!」

 ……ヤバイ。ナユタは問答をしながら女に釘付けになる。

 ふっくらとした小柄な身体つき。つぎつぎに動きを変える緑の瞳。肉厚の大きな唇。セミロングの癖髪が口を開くごとにふわふわと揺れている。赤いドット柄のシャツにゆったりとした緑のカットー。服装からも顔つきからも「自分」を主張する力を感じた。年齢は同年代くらいか。

 ありていに言えば、どストライク。

めちゃくちゃナユタの好みだった。

 頬にうっすらと浮いたソバカスですらチャーミングさが増して見えた。

「ありきたりな返答が欲しくて会場に来たんじゃないのよ!」

女がいきなりマイクを演台に投げつけた。マイクは鋭くナユタに向かって飛んでくる。

 もちろんナユタは事も無げにマイクを眼前で受け止めた。

 そのための修繕部。

 実務執行部隊だ。

 女は子どものようにその場で地団駄を踏む。……ヤバイだろう。ナユタは気が遠くなりそうになる。可愛すぎだ。

 

      *

 

 惚れた女がたまたま科学者で、たまたま正義感が強くて、たまたま行動力があって、たまたま強力緑化種の開発に成功した。

 それ自体は悪いことではない。

 地球の緑を増やしたい。

 プチ氷河期以降、世界各地の痩せた土地を豊かにしたい。

 そういう思いはナユタも持っている。

「まいりました」

 モジャモジャ頭の営業部員が会場の外で書類を鞄に入れつつナユタにぼやく。

「あの手の科学者は話が通じません。……まあウチの技術開発部員に比べたら、どうってコトはありませんが」

 ははは、とモジャモジャ頭の営業部員は乾いた笑いをする。それから、はい、とその技術開発部が開発したアイテムをナユタに渡す。

 思わずナユタはアイテムを凝視する。透明な箱に色鮮やかな飴玉サイズのアイテムが入っていた。さまざまな色の飴玉アイテムだ。

 モジャモジャ頭の営業部員も苦戦する技術開発部の特製品。安全だという保障はない。安全どころかひょっとしたら――。

「……試作品?」

「まさか。ちゃんと量産システム係の製造したものです。シリアルナンバーが入っているでしょう? あ。残務処理には情報調査部員をよこします。10日でお願いできますか?」

「んー。それくらいが妥当かなあ。仕事が詰まっているんだろう?」

「できれば5日で」

「無茶を言うねえ」

「では1週間で」

 よろしくです、とモジャモジャ頭の営業部員はナユタに敬礼をすると、脱兎のごとく走り出した。

 どいつもこいつも逃げ足だけはいつも早い。まいったねえ。苦笑してナユタはパイプを取り出し火をつけた。一服でもしていなければやっていられない。

「ん」

 視界の隅で何かが動いていた。ふわふわと髪が揺れている。さっきの女か?

「ちょっと、お嬢さん」とナユタが呼び終わる前に女は振り向き、ナユタに向かってスコップを突きつけた。女は怒ったような顔つきでスコップを受け取れとゼスチャーをする。

「1日100株。もしくはそれ以上。それがノルマ。じゃないと生育に追いつけないし緑化の意味がないから」

 さっさと手伝えと言いたいらしい。

「植えるなと宣告した会場の至近距離でさっそく植林とは勘弁してもらえませんかねえ」

「だからじゃん。気分の悪い建物は木で覆われちゃえばいいのよ」

「なるほど」と言ってナユタは先ほどモジャモジャ頭の営業部員から渡されたアイテムのひとつをライフル銃に充填する。そして女が植えたと思しき10株ほどの苗に向かって発砲した。

 たちまちピンク色の光が辺りを覆う。

 光が消えたあとには雑草もろとも苗は灰になっていた。女が「燃えない」と豪語していた苗がだ。ナユタに良心の呵責はない。これは仕事だ。

 ナユタの表情を読み取って、なにを訴えても無駄だと女は悟ったのだろう。

 女はいきなり走り出した。

 全力疾走だ。

 そしてナユタから200メートルほど離れたところで植林を始めた。

 おいおいおい。オレの話を聞いていなかったのか? 女は頬に泥をつけつつ一心不乱に苗を植えている。その度にナユタはアイテムを銃に充填して発砲をした。

 女はへこたれない。

 どれだけナユタに苗を駆逐されようとも走り出し、なんどもなんども植林を続けた。

「いい加減にして、お嬢さん」

「お嬢さんじゃない。あたしにはココって立派な名前がある!」

「ではココ」とナユタはココの腕をつかんだ。そのまま抱き寄せる。

見事だ! ナユタの胸が震える。なんて抱き心地がいいんだ!

「ちょっと!」

「そんなに闇雲に植林されてはオレも対応しなくちゃいけなくなる。このアイテムはただ苗を焼き払うわけじゃない。その土壌を周囲の土壌と同化させる働きがある。つまり、どんどんここらの土地がやせ細っていくわけだ。――あまり撃たせないでくれないかな」

「そんなもの使わないでよ!」

「うん。使わせないでおくれよ」

ナユタはゆったりと微笑むとふっくらとしたココの唇に顔を寄せた。唇が触れると思ったその瞬間、ナユタはココの平手打ちにあった。……まあ、当然だ。

 

      *

 

「100年。できれば1000年。それくらいの周期で土壌は改良すべきだと思わないかい? 急激な変化は地球にダメージを与えるよ」

「そんなに待っていられない。あたしたちの意思を継いでくれるひとが生まれる保障もないでしょう」

「ココはせっかちだねえ」

「必要なのは今なの。今ここで土が死んでいく。それを黙って見ていろというの? バカ言わないで」

「ひとが自然を制御しようとするのは傲慢だよ?」

「自分にできることがあるのに、黙って見ていられなって言っているの!」

 モジャモジャ頭の営業部員が示した1週間という期限のぎりぎりまで、ココとナユタのイタチごっこは続いた。

まさに、ごっこ、だ。

ナユタが本気になったなら、任務など2日もあれば完了する。しなかったのは、ひとえにココの存在だ。少しでも長い間ココとすごしていたい、その思いがナユタをとらえた。

 甘い考えだ。

 仕事に対しても、ココに対しても、自然に対しても、そして自身に対してもだ。

 それでもナユタはイタチごっこを止められなかった。

 ココが手を泥だらけにして10株植えれば、植え終わるのを待ってライフルにアイテムを充填した。植える前ではない。ココが植える姿を、額に汗して土に触れる仕草を見ていたくて、愛しげに苗に触れるその背中を見ていたくて、作業が終了したココが腰に手を当て額の汗を拭うその時に、ナユタはライフルの引き金を引いた。

ココも負けてはいない。

ナユタが仮眠から目覚めるとナユタの周囲一帯に苗が植わっていることもあった。それこそナユタが身動きできないほどにだ。ただいたぶられているだけじゃないんだぞ、という確固たる意思が伝わる植え方だった。

ナユタは笑ってパイプに火をつける。そして甘い香りの煙を吐き出しながらアイテムを充填したライフルの引き金を引く。

 ココはそのたびに地面に両足を叩きつけた。両手を頭上で振り回す。やがて気持ちを切り替えたらしく、また苗を植え始める。――脱帽する執念だ。

 ナユタは肩にライフルの銃身を乗せる。

まったくたまらないね。ココのくるくると動く緑の瞳。苗に対する愛情。うーん。その愛情。少しでもオレに向けてくれないかなあ。

 うっとりとココを眺めつつナユタは妄想に浸る。

ココと一緒に生活ができたらどんなにか楽しいだろう。わざとココの嫌いな半熟玉子を朝食に出して怒鳴られたり、仕返しにオレの苦手なスモークサーモンサンドをランチに出されたり、出かける前には必ずキスを交わして。お互い専門の職業があるから自立したパートナー関係を築けるはずだ。

 ――かなうはずのない思い。だからこその妄想。いつまでも続くわけがないイタチごっこ。

「……そろそろオシマイにしないとねえ」

 ナユタがそう、腹をくくろうとしていた頃だった。

「きゃあ!」

 ココがスコップを持った手を頭に当てた。

 苗が急速成長を始めた。成長だけでなく、動物のように幹や枝を動かし出す。

 1株や2株ではない。

 これまでココが植えてきた3500株にも及ぶすべての苗が連鎖反応のごとく動き出した。最後に一斉処理するつもりで、ナユタが放置しておいた苗だった。

「この辺りの土地がナユタの銃で急激にやせ細ったから? だからそれに対応しようとして?」

ココは手足を震わせる。

 急激成長をした木々は見る見る数十メートルにも成長を遂げ、道路や建物を覆い出す。

 こうなったら仕方がない。ナユタはアイテムを銃に充填する。

――遊びの時間は終わりだ。

「やめて!」

 ココが苗へ向かって走った。

「駄目だ! ココ!」

 弾丸は炸裂し、すでにあたりはピンク色に染まっていた。

 それだけではない。

 閃光はショッピングピンクだった。

「しまった!」

 目視で威力は今までの200倍と想定された。量産品ではない。あきらかに試作品だ。

「技術開発部の仕業か! あいつら、またやったな!」

ナユタは目にも留まらぬ速さで別のアイテムを銃へ充填する。

だが遅い。

木々は断絶魔のごとく枝を左右へ振り回し、その枝のひとつがココの背中から腹部へと貫いた。

「ココ!」

 ナユタはココに向かって手を伸ばした。

 

      *

 

 手のひらが真っ赤に染まっていく。抱き寄せたココから血が止まらない。ナユタはココの頬に顔を寄せた。

 ココの手が動いた。

 突き飛ばされるのかと思った。

 丹精込めて作り出した木々を燃やしたあげくに自分まで殺されようとしているのだ。どれだけナユタが思いを寄せたところでココに届くはずがなく――。

 ところがココはナユタの背中に手を回した。

 どこにそんな力が残っていたのかと思えるほど強い力だった。強く、温かい力だった。

「……ごめんね」

 ココがつぶやく。途切れ途切れの声で囁く。

「……仕事の邪魔しちゃった」

「ココ」

「……わかっていた。ずっと、自分のやっていることが本当はよくないことだって。でも止められなかった」

 生み出してしまったから。ひとの手で地球を緑で覆える力を作り出してしまったから。

「……力は、こわい、ね」

 ココの言葉がナユタに突き刺さる。力はこわい。自分のライフル銃を見る。実弾が入っているわけではない。この銃でひとは殺せない。けれども――ひとの心は十分に殺せるのだ。目の前にいる自分が惚れた女を。

 ナユタ、とココが名前を呼ぶ。

「……わがままにつきあってくれてありがとうね」

 ココの手に力が入り、顔をナユタの顔の近くへ押し上げる。ココは手を震わせながらナユタの頬へキスをした。

「……わがままついでに」ココがナユタの耳元で囁く。

 そして視線を空へと向ける。

 月があった。

 満月だ。

 3500本以上の木々が灰になったことも、その枝がココに致命傷を負わせたことも、なにもかもウソのように、くっきりとした月があった。

「……木を植えて。ここが駄目なら」

 あそこに――。それを言い終える前にココの頬に涙が伝わり、やがてココの手がナユタから離れた。ココの身体から一切の力が消えていく。

 ナユタは強くココの頭を抱きしめた。身動きができない。頭の芯が痺れたようにちりちりとうずく。

 そのままナユタは情報調査部員がやってくるまで、温もりを失ったココを抱きしめ続けた。

 

 

      ***

 

 

 それから3年の歳月が流れた。

 ナユタは仕事がひとつ終わるたびに約束どおり苗を植えた。

 自分の給与の数年分をつぎ込んで購入した、バカ高い月の土地だ。月面本社に隣接したコロニー内部の土地だった。

 在来種など存在しないコロニーの土地。しかも強力セキュリティのかかった月面本社隣接の土地だ。ココの改良品種を植えても問題にはならなかった。

 申請も書類を出しただけで済んだ。

 雑務申請係も兼ねたモジャモジャ頭の営業部員が書類にぽんと印鑑を押す。

「物好きですね」

「律儀なだけだよ」ナユタは曖昧な表情をしてみせる。

 モジャモジャ頭の営業部員が申し訳なさそうな顔になりかける。それをナユタは手で制した。

 モジャ毛くんが悪いんじゃない。アイテムを信じ込んだ自分にも非はある。技術開発部員はココたちより数百倍はタチが悪い。わかっていたことじゃないか。

 それにモジャモジャ頭の営業部員が言いたいこともわかっていた。

 ナユタはパイプをふかす。

 任務はいくらでもある。胸を痛めるできごとも数え切れない。その度に身銭を切っていてはきりがない。――しかも出会って1週間かそこらの、惚れた女の遺言を守っていたらきりがない。

「……ひどいねえ。オレはそんなに惚れっぽく見えるのかねえ」

 まあ確かに、とナユタは苦笑をする。

 最後のキス。あれはただの駄賃かもしれない。木を植えるという駄賃だ。ココがナユタを好いていた保障もなし。自嘲してから手のひらを見る。いや、とナユタは思いなおす。

 言葉はなかった。

 けれども最後に抱きしめたココからは言葉など要らないほど思いが伝わってきた。ココは充分、オレの気持ちを知っていて、だからこそココはむきになって木を植えたのだ。

 ――ココは、自分の活動を妨害する男を受け入れるわけにはいかない。オレへ思いを口にするわけにはいかなかった。それはココのプライドだ。そういう誇り高いところもまたナユタの思いを高める要素でもあった。

「それにしても」とナユタはパイプから口を離す。

 ぐるりと月の庭を眺める。

「こりゃまた元気いっぱいに伸びたもんだねえ。手入れなんて何もしていないのに」

 たった3年しかたっていないのに。

 月の庭というより森に近い。ナナカマドの森だ。

「どんな品種改良をしたらこうなることやら」

 さわさわとナナカマドの羽のような複葉が揺れる。濃い緑の葉の隙間で小さな赤い実が房状になって見えていた。

「季節のない月に植林しても元気いっぱいに育つんだし。元気ありすぎだよ、ココ」

 やっぱりコレは地球に植えちゃ駄目だろう。どれだけの生態系破壊を起したことだか。

 ――そもそも壊すほどの生態系がなかったんじゃん。だから作ったんじゃん――。

 弾けるようなココの声が聞こえた気がした。笑い顔になったナユタの顔がゆがんで、ナユタは空を見上げた。

 頭上には、月ならぬ、地球が浮かんでいた。ナユタはただ黙ってパイプをくゆらし続けた。

 

「ムーン・ガーデン」(了)

 

futurenovels編集部
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