2.父娘に何が?
そんな冷めた?関係の二人に、問題が起こってしまいました。それはある朝のこと、前の日の学校から届きました書類に、由美さんが学校のソフトボール部を父親に報告することなしに、辞めてしまったことに端を発したのでありました。
それ以上に、その件で夏木さんが由美さんを問い詰めましたところ、その原因を
「亡き妻から習ったゴルフの練習を続けたいから」
と答えたものですから。
それは部活を辞めたことはまだしも、その返事とは夏木さんにとってまさに青天のへきれきって言いますと旧い言葉ですけど、とんでもなく驚かされたってのが原因でした。
なぜってプロゴルファーである夏木健は、娘が生まれまして以来娘にゴルフなど教えたことなどありません。いやむしろ自分の職業であるゴルフなど、子供に教える気など毛頭なかったというのが本音でありました。
でも娘ははっきりと、《亡き母親にゴルフを習っていた》と答えました。その答えに夏木さんは正直驚きましたし、同時にそんなこんなのイキサツを全く知らされていなかったってことに父親として、どうにもこうにも抑えられない気持ちが爆発してしまったんですね~。
その結果なんですネ、お父さんが初めてってくらい娘を強く叱りましたの。
「ゴルフなど子供のやるもんじゃない!」
「中学生は中学生らしく、部活をやっていればいいんだ」
「お父さんに隠れてやってたゴルフなんて、認めん!すぐやめなさい」
って・・・。
そこでの由美ちゃんも両親のどちらに似ましたからなのか、これも初めてってくらい、父親に反抗的態度とることになっちゃった。さてさてその成り行きとわ~。
3.娘が家出~
で~次の朝お父さんは朝起きまして、パンとコーヒーの朝食取りまして家後にしたんですが。でも何か、いつもと違った感じしとりまして。たら案の定、練習場に学校から電話ありまして、
「由美ちゃん今日は学校きてませんけど、どうかしましたか?」
って担任の先生から。
かくしてお父さんあわてちゃったのでありまして、その日はまるで仕事に身が入りません、だって娘の家出なんてお父さんとして初めての経験だったのですから。
で早々に帰宅しましたお父さん、弱り切っておりますところに妻の妹・加代さんから電話が。
「なんかあったんですかお兄さん?由美ちゃん私のとこに来てますよ」
って。
この加代さん現在東京で中学の教員しとりまして、とっくにアラサー世代なのに独身でして。でも妻が亡くなって以来、いつも娘のこと心配してくれます夏木父娘にはかけがいのない存在。
そんな人がおりましたから娘のこと心配しながらも、
「加代さんとこに行っててくれればいいんだけど」
なんて思っとりましたことは確か。
そう思っておりましたから、こちらから電話するって方法もなくはなかった。でもでも妻の両親まだ健在でしたから、娘の問題でこちらから電話って~のもはばかりまして。
でホッとしましたお父さん、あわてて加代さん、いや亡くなりました妻の実家に出かけてまいりますことに。
4.こんな娘に誰がした?
がしかしそこにはこれが我が娘かってほどの、いつもと違う娘に出会うことになってしまいました。それは妻の実家での出来事を再現してみますと、
この家の二階にあります、亡くなりました妻の部屋におりました娘。加代さんと一緒に
降りてまいりまして、父親を見るなり以下のようなことになりました。
「お父さんなんか、私のことなんとも思ってないじゃないか」
「私のことなんかちっとも心配していないじゃない、自分のことしか考えてないじゃないか」
と最初から強い口調で、父親に切り出したのです。
そして
「学校でどんなことがあったって、お父さんは私のために、他の親みたいに先生に相談しに学校きてくれることなんかなかったじゃないか」
さらに、
「由美はいつも一人ぼっちだった、そんな寂しさ忘れさせてくれるのが、ママに教えられたゴルフなんだ」
「パパがいない夜寂いしい時、ゴルフの練習してた」
「そうするといつも傍にママがいてくれるって思えたんだ」
「いつもママは私がゴルフ上手くなるのを、傍で見いてくれるように思えたんだ」
「だから由美はママに教わった通りに、一生懸命練習したんだ」
娘の勢いは止まりません、
「それなのにどう由美がゴルフすること、お父さんはいけないって言うの、どうして」
せきを切ったように、それはまるでまくしたてるように続く娘の言葉に、夏木さんはただただ茫然として身動きできないほどでした。
5.怖い娘の理由が
なぜ娘がそんなに怒っているのかの概略は判りました、でもその後の、
「娘が自分に隠れて続けていたゴルフって何なんだ?」
「何故娘が続けてきたゴルフってものを、自分が気が付かなかったんだ?」
そんなこんなを考えますと、謎は深まるばかりの夏木さん。
でも娘の続けられる言葉から、その後その真実を理解することになるのです。
「パパは私が学校でいじめにあってることなんか知らないでしょ」
「そんなパパいない夜でも、ゴルフの練習してれば寂しくない」
「だってママがいつも傍にいてくれてるって、我慢して練習してた」
娘の父親に対する説明?は続きました。
「それなのにパパはママが教えてくれたゴルフ、ママと由美のただ一つの思い出のゴルフすることに何故そんなに反対するのはわからない」
「パパは由美にママのこと忘れろっていうの。そんなこと、そんなこと私は絶対嫌だからね」。
娘からの父親への叱責?はさらに勢いを増しまして、
「加代叔母ちゃんだって、ママ死んだからってゴルフ投げだしちゃダメだよ」
って。
「倉田の叔父さんは上手くなれよって、いろいろ練習しやすいようにしてくれた」
「だけどパパは、いつも自分のことしか考えてなかったじゃないか」
「だからママは早く死んじゃったんだ~」
ってところまでまいりますと、娘は加代に顔を伏せるように泣きじゃくったのでございました。
その時の夏木さん、
「なんで加代さんが?、どうして倉田が~?」
って半ば放心状態。
娘を取り巻く真実を理解するまでには、まだまだ時間を要することは不可欠でありました。