パンチラ闘争

「確かに、顔と数学は関係無いでしょう。しかし、不細工な顔よりイケメンの方が、生徒の学習意欲が上がるのならば、よりよい方向に改善すべきではないでしょうか。プチ整形ぐらいはできるのではないですか?」鬼教頭のイジメは続いた。来年、小沢先生を追放してイケメンで優秀な稲垣先生を呼ぶ魂胆であった。あまりの侮辱に小沢先生は耐えられなくなった。

 

「お言葉ではありますが、整形までして生徒の機嫌をとる気はまったくありません。教師の資格条件にイケメンは無いはずです」小沢先生は顔を真っ赤にして大きな声をだした。教頭はじっと小沢先生を睨みつけた。「資格条件には無いでしょう。しかし、この不景気の時代、多くの女性たちは就職難で涙を流しています。必死にもがいている女性の中には、整形をして面接に望む女性たちもいます。そこまで努力をする姿をどう思われますか?」 これは明らかなイジメと感じ取った小沢先生は、これ以上の抵抗は不利だと思い小さな声で「努力します」と返事した。

 

 「次は、英語の石原先生です。8通ありました。*発音が悪い。*加齢臭がくさい。*適当な訳をしないでほしい。*太りすぎ。*身なりをきれいにしてほしい。*受験対策をやってほしい。*単語テストをやってほしい。*プリントの答えあわせをやってほしい。特に、*受験対策をやってほしい。ですが、なぜ、やらないのですか?」教頭は目を吊り上げて質問した。

「通常の授業を通して受験対策をやっているつもりです。生徒の中には物足りなく思っている生徒もいるかもしれませんね。授業では学習塾のような受験対策は必要ないと思っています。ほとんどの生徒は学習塾に通っていますので」石原先生は、受験対策は学習塾がやるべきだと考えていた。じっと聞いていた教頭は、さらに目を吊り上げて、石原先生を睨みつけると攻撃を開始した。

 

 「4月の職員会議で成績主義を徹底するように要望しました。9月にはエリートクラスを設置し、トップ高校の合格実績を伸ばすための受験指導を強化する方針を述べました。これらの投書からすると受験指導の姿勢がまったく見えませんが、石原先生は私のエリート教育に反対なのですか?」教頭はまったくやる気の無い態度にムカついていた。すでに、教頭の心の中では追放を決定していたが、この会議で徹底したイジメに入った。

 

 「先ほど申し上げましたように、通常の授業で受験対策をやっております。教頭のエリート教育には大賛成です。トップ高校に一人でも多く合格できるように今後、さらなる努力をいたします」石原先生はいじめられることを覚悟していたため、一切反抗しなかった。教頭は攻撃を続けた。「*発音が悪い。ですが、まともな発音ができないのであれば、英語の教師としては失格ですね。リスニングに悪影響といえますね」弁解できない弱点を突いて、心の中でニンマリした。

 「確かに発音はいいほうではないと思いますが、受験対策には問題ないと思います。リスニング対策としてCDを聞かせています。私以外にも発音がへたな先生はたくさんいると思いますが」発音だけはどうしようもなかった。石原先生は開き直って返答した。「*加齢臭がくさい。ですが、悪臭は学習意欲を低下させます。朝、入浴して、香水をつけられてはどうですか?」教頭は攻撃の手を緩めなかった。

 

 「確かに、加齢臭がくさいと生徒に言われます。教頭のおっしゃるとおりにいたします」来年、追放されるのは眼に見えていたので、素直に従うことにした。もはや、石原先生は鬼教頭の下で教鞭を取る気はなかった。次の赴任中学で、ゆったりとした気分で定年退職を迎えたかった。

 

 教頭は英語の石原、数学の小沢、社会の東国原の三人の先生を追放する計画を立てていた。この目安箱の設置は、名目上、生徒の先生に対する気持ちを把握するためのものということだが、本当の目的は、教頭が気に入らない教師を追放するために利用するためのものであった。目安箱の投書はすべて生徒が書いたのではなく、中には教頭が書いたものもあった。つまり、この投書は捏造されていた。教頭は追放予定3人目のイジメに入った。

 

「次はと・・社会の東国原先生です。11通あります。*もっと分かりやすい資料を作ってほしい。*プリントの字が小さすぎて読みにくい。*ポイントを絞って板書してほしい。*受験に出るところを教えてほしい。*どこを覚えていいか分からない。*問題集の解説をしてほしい。*早口で何を言っているか分からない。*ハゲをどうにかしてほしい。*女子のお尻をじろじろ見ないでほしい。*女子の背中を触るのは、やめてほしい。*口臭がくさい。たくさんありますね、まず、*早口で何を言っているか分からない。ですが、これは問題ですね。どのように改善されますか?」

 

 「この点は十分に反省しております。つい早口になってしまう悪い癖があります。この投書を肝に銘じて、早口になりかけたならば、一呼吸おいてゆっくり話すように心がけます。誠に申し訳ありません」東国原先生は昨日石原先生に諭されたことを思い出し、できる限り下手に出た。教頭はしばらく時間を置いて、東国原先生を睨みつけながら強い口調で話しはじめた。

 

 「*女子のお尻をジロジロ見ないでほしい。*女子の背中を触るのは、やめてほしい。いったい、これは何ですか!セクハラじゃないですか。このようなことが父母にしれたら大変なことになります。これは事実ですか?」真っ赤になった教頭は怒鳴るように質問した。真っ青になった東国原先生は口を震わせ弁解した。「それは、生徒の勘違いです。お尻をジロジロ見るような破廉恥なことは決してやっておりません。女子生徒の背中を触るなんて、これはまったくの誤解です。授業のときに手が肩に触れたことはありますが、軽く肩をポンと叩いたに過ぎません。信じてください」

春日信彦
作家:春日信彦
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