パンチラ闘争

「次はと・・社会の東国原先生です。11通あります。*もっと分かりやすい資料を作ってほしい。*プリントの字が小さすぎて読みにくい。*ポイントを絞って板書してほしい。*受験に出るところを教えてほしい。*どこを覚えていいか分からない。*問題集の解説をしてほしい。*早口で何を言っているか分からない。*ハゲをどうにかしてほしい。*女子のお尻をじろじろ見ないでほしい。*女子の背中を触るのは、やめてほしい。*口臭がくさい。たくさんありますね、まず、*早口で何を言っているか分からない。ですが、これは問題ですね。どのように改善されますか?」

 

 「この点は十分に反省しております。つい早口になってしまう悪い癖があります。この投書を肝に銘じて、早口になりかけたならば、一呼吸おいてゆっくり話すように心がけます。誠に申し訳ありません」東国原先生は昨日石原先生に諭されたことを思い出し、できる限り下手に出た。教頭はしばらく時間を置いて、東国原先生を睨みつけながら強い口調で話しはじめた。

 

 「*女子のお尻をジロジロ見ないでほしい。*女子の背中を触るのは、やめてほしい。いったい、これは何ですか!セクハラじゃないですか。このようなことが父母にしれたら大変なことになります。これは事実ですか?」真っ赤になった教頭は怒鳴るように質問した。真っ青になった東国原先生は口を震わせ弁解した。「それは、生徒の勘違いです。お尻をジロジロ見るような破廉恥なことは決してやっておりません。女子生徒の背中を触るなんて、これはまったくの誤解です。授業のときに手が肩に触れたことはありますが、軽く肩をポンと叩いたに過ぎません。信じてください」

 東国原先生は今にも泣きそうな表情で教頭を見つめた。教頭はこの投書で今まで反抗的だった東国原先生の闘志をくじく事ができたと大満足だった。「しかし、生徒にそのように見られているということは、事実ですから、今後の授業態度を十分改めていただきたいと思います。女子生徒に対するいやらしい目つきは止めてください。いいですか」教頭は東国原先生を最低の教師のように言い放った。

 

 教頭は再度投書を見つめ右手の人差し指で机を二度叩き目線を東国原先生へ向けた。「これは先生のご意向に任せますが、*ハゲをどうにかしてほしい。ですが、先生は28歳でいらっしゃいますね。お気の毒に若ハゲでいらっしゃるんですね。出来れば思い切って、植毛されてはいかがでしょう。きっと、生徒の人気は上昇すると思いますが」教頭の執拗な攻撃は続いた。

 

 ハゲは東国原先生が最も気にしていることであった。「ハイ、確かに、私も植毛しようと思っていたところです。ですが、植毛一本につき270円かかりまして、髪をふさふさにしようと思えば約200万円かかります。今、貯金しているところです」東国原先生は背筋を伸ばし、これ以上攻撃されないように前向きな返事をした。教頭はニコッとすると、「は~、それは素晴らしいですね。それじゃ~、キャバクラ通いはおやめになったほうがよろしいですね」教頭はとどめのパンチを食らわした。

 東国原先生は一瞬固まると、「ハ、イヤ、それは、今は行っておりません。早速、植毛します。ローンが利きますので」ハゲ頭から冷や汗が流れ落ちた。もはや、下を向いて謝る以外に無かったが、東国原先生は日教組の完全な敗北を感じ取った。教頭は追放する日教組のメンバーをさらし者にし、赴任の目的であった日教組の解体に着手できたことに少なからず満足した。教頭は秋元校長の喜ぶ顔が眼に浮かんだ。教頭は心の底で満足感を味わうと、教頭にとって最も頭を悩ませているアイドル活動禁止の議題へと移った。

 

 「目安箱の投書はまだありますが、特に問題になるほどの投書は以上のものでした。第二の議題、糸中アイドルグループITC48活動禁止についての議論に入る前に10分間の休憩を取ります」教頭は校長と打ち合わせをするために校長室へと向かった。ITC活動禁止は生徒の反対デモを招くのではないかと秋元校長は不安を教頭に伝えていた。そこで、教頭は再度秋元校長の同意を確かめることにした。校長の同意を得た教頭は夜叉のような顔つきで職員室に戻ってきた。

 

 教頭は席に着くと、ひとつ咳をして低くて力強い声で話しはじめた。「ITC48の活動禁止を6月から実施いたしましたが、いまだ活動しているという投書がなされていました。ITC48を指導されている小嶋先生、これはどういうことですか?解散の指示はなされたと思いますが、指示に従わない生徒がいるのですか?」教頭はかなりヒステリックな声で小嶋先生を糾弾した。

 鳩が豆鉄砲を食ったような音楽教師、小嶋先生は、突然立ち上がり教頭に向かって頭を下げた。「申し訳ありません。リーダーの大島に解散を指示しましたが、大島、横山、八神、の3名は納得がいかないと言って活動をやめません。そのことを教頭にご報告しようと思っていました。私の指導不足で誠に申し訳ありません」小嶋先生は何度も頭を下げた。ハンカチで目元を押さえ涙を拭いていた。

 

 教頭はITC48のメンバー18名の氏名と成績を把握していた。「メンバーは18名。1年生、6名。2年生、4名、3年生、8名。15名は指示に従い、3名は従わなかったわけですね。この3名は3年生ですね。ちなみに、小嶋先生はメンバー18名の5月に実施された実力テストの偏差値をご存知ですか?偏差値50以上は1年の渡辺、3年の横山の二人だけです。お分かりのようにアイドル活動は学力低下の原因となっているわけです。

 

今、リーダーの活動を止めさせないと、人目のつかないところで活動を続け、ITC48を再結成することは眼に見えています。もう一度、大島に活動をやめるように指示してください。もし、活動をやめないようであれば停学処分を考えなければなりません。いいでしょうか、小嶋先生」教頭の目は血走っていた。小嶋先生の顔は真っ青になっていた。

 

春日信彦
作家:春日信彦
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