蜻蛉の接吻

 じめじめとした湿気と、身体から汗と体液と涙でグチャグチャになりながら、美紀は嗚咽してい

る。

口と目にはガムテープが貼られている為、息苦しく言葉にならない叫び声を発している。

全裸に剥かれた美紀は、執拗に男達に舐られ、何度も犯され精液が身体から滴り落ちてくる。

精神も肉体も限界に来ていた、早く殺して欲しいとさえ思い始めた。

「おい、ネエちゃん・・もうすぐ彼氏が来るぜ、最後にもっと気持ちいいことしてやるな」

男は注射器を取り出し、覚醒剤を溶かした物を入れ、美紀の左腕に突き刺した。

美紀はブルブルと小刻みに震えだし失禁した、身体の力が抜けてゆく、心臓の鼓動が激しくな

り、やがて停止した、大量投与による心不全であった。

「おいおいコイツ、ションベン漏らしやがった・・気持ちいいだろう・・ん・・おい・・死んでるぜ・・コイ

ツ・・・・」

 指定の廃工場まであと2kmとナビに映る、苛立ちと怒りで前を走るトラックを追い越す、そこへ

二から電話が入った。

「おい、今何処だ・・そっちへ向かってる・・あと40分ぐらいだ、一人で動くんじゃねえぞ」

「兄貴・・俺さぁ、初めて女に惚れたんだ・・何でこうなるんだ・・許せねぇよ・・・」

「分かったから・・動くなよ

 

 廃工場の少し手前で車を停めた、辺りに灯りはなく真っ暗に近い。

微かに工場の奥のほうで灯りが見える、流星は付近を物色し武器になりそうな鉄パイプを拾い

でき得る限り気配を消しながら、ゆっくりと工場の中へ進んで行った。

すると人影が見える、1・・2・・10人か・・、その先には吊るされた裸の美紀を確認した。

激しい怒りを抑えているものの身体が震えてくる、どうしようもない衝動に駆られ奴等の許へ走る

、鉄パイプを翳しながら叫ぶ。

「テメエらこの野郎・・許せねぇ」

義人会の連中が慌てて振り返る。

「おっ、やっと来たか・・殺すんじゃねえぞ、東京進出の人質だからよ」

男たちは一斉にドスを取り出した、流星は一人の頭に鉄パイプを振り下ろす、頭が割れ鮮血が

噴出した、次の男の脇腹に蹴りをぶち込み頭の後ろを思いっ切り殴った、すると男の左眼球が

飛び出し、激痛で転げ廻っている、流星が息を整えている瞬間背中に激痛が走った。

ドスで背中を刺されたようだ、息ができない・・精一杯の力を振り絞り奴等を倒してゆく。

ふと我に返ると、静であった、辺りは血の海と化していて壮絶な修羅場であった。

「美紀・・美紀・・・・

流星は、繋がれているロープを外し美紀を降ろした、目や口のガムテープを外す、グッタリとした

身体は冷たい・・体中痣や疵がある・・・着ていた上着を美紀に掛け、急いでケイタイを取り出し救

急車を呼んだ・・・。

 

 

 

 「美紀・・・・ゴメンよ・・一人にさせちまって・・美紀・・・・・」

物陰に隠れていた義人会の日村が、ドスを片手にそっと近づいてくる。

「おんどりゃぁぁ・・死ねやぁ」

ドシンッという衝撃が走った、脇腹に日村のドスが突き刺さる、目の前が真っ白になった。

そこへ5台の車が突っ込んできた、拳銃の発射音が工場内に響き渡る、雄二の放った弾丸が日

村の頭に着弾し頭半分が吹き飛んだ。

意識が朦朧としてきたが流星は、美紀を抱き上げ唇に接吻した。

雄二たちは流星の元へ駆け寄る。

「おい、しっかりしろ流星・・待ってろって言ったろう・・馬鹿野郎・・・いま医者連れてってやるから

な・・死ぬんじゃねえぞ・・」

流星は出血が酷く薄れ行く意識の中で囁いた。

「兄貴・・・・俺・・美紀と一緒にいるよ・・・・・コツコツと・・・アスファルト・・・に・・響く・・・・・・・」

流星は消え入るような小さな声で、好きだったトンボを唄いながら静に眠りについた。

 破れたシャツの間から、血に染まった唐獅子の彫物が見える、静まり返った廃工場に雄二の

雄たけびが木霊する。

遥か遠くで救急車のサイレンが聞こえる。

流星と美紀の手を握らせ、着ていた上着をそっと掛けながら、雄二はゆっくりと歩き出した。

 

エンジェル
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