蜻蛉の接吻

 ピエロいうピンサロは、柳川町外れの風俗界隈の奥まった場所にあった、ジャガーをコインパ

キングに停め、物陰から様子を窺った、店の前に客引きをしている男がいる、顔が暗くて確認

ない、少し移動しながら確信した。

「おい、交通費も元金に入れるからな・・小島さんよ」

「・・・・・あっ・・いや・・連絡するつもりだったんですが・・・スイマセン・・勘弁してください・・」

「別に謝らなくてもいいんだよ、金さえ返してもらえばさ・・・ちょっと顔貸してくれ・・・」

流星は小島を、コインパーキングに停めてあるジャガーの助手席に座らせた。

「小島さんよ、アンタ前橋から女と一緒にフケたろう、名前は?」

「はあ・・加奈っていいます・・野口加奈です・・いや・・金返しますんで、勘弁して下さいよ」

「その女・・何処にいるんだ?」

「・・店・・ですけど・・・・」

「・・店に電話して、呼び出せ・・早くしろ」

小島はケイタイから店に電話をかけ、近くの公園を指定し呼び出した、流星は車の中で待ってい

た、すると暗がりからケバケバしいピンクのワンピースを着た女が近づいてくる。

流星は車から降り、急いで向かう。

「久し振りだね・・探したよ、二人とも車に乗ってもらおうか・・」

 エンジンを掛け、流星は泊まっているホテルを目指し、発進した。

 

 ホテルの部屋に戻ると、美紀がいない、何やら荒らされていることに一抹の不安を覚える。

取り合えず、小島と加奈を備え付けのソファーに座らせた。

「加奈さんよ・・説明してくれよ・・」

「隆ちゃん・・逃げるつもりはなかったのよ・・ホント・・ゴメン・・」

「二人合わせて元金110万、利息、手間賃合わせて200万だ、払ってもらうよ・・・ところでアン

タ、前橋の店から50万借りて逃げたらしいな、その金は?」

「勘弁して・・お願い・・いま20万しかないの・・二人でパチンコ負けちゃって・・」

「まあいい、じゃあこれにサインして・・」

バックから予め用意していた借用書と委任状を差し出した、加奈は渋々署名し、拇印を押した。

「加奈さんよ・・頑張ってソープで働いてくれ、何年か働けばすぐ自由になるよ・・それから小島さ

ん・・アンタはダム工事の現場で暫く働いてもらう、二人とも覚悟しとけよ」

流星は、雄二の若衆に連絡し二人を迎えにくるよう指示した、それから懇意にしているソープラン

ドのオーナーに加奈を買ってくれるよう電話で頼んだ。

 

 

  ホテルの備え付けの灰皿が、吸殻で溢れている、雄二の若衆はものの一時間で向かえに来

た、流星は二人のことを頼み若衆は部屋を後にした。

 美紀が気になる、バックを置いたまま買い物に行くはずはないだろう、散歩にしても既に23時

回っている、ケイタイも電源が切られているらしく繋がらない。

そこへ流星のケイタイが鳴った。

 

 3時間前、ホテルの部屋のチャイムが鳴り、美紀は流星だと思い部屋の鍵を開けた。

突然黒尽くめの男達が乱入してくる、咄嗟の事で声も出ない、一人が美紀の口を手で塞ぎ、ガム

ープで手足と口を縛った、美紀はブルブル震え、何が起きたのか理解できない、一人の男はホ

のランドリーボックスを用意していた、そこに美紀を放り込み上からシーツを被せ、連中は足

部屋を後にした。

  前橋郊外の廃工場は世間ではオバケ屋敷と言われ若者の心霊スポットになっている。

その中で、美紀は裸に剥かれ両手を縛られ上の欄干から吊るされている、口と目にはガムテー

プが貼られ身体のあちこちに殴られた痕があり、意識を失っている。

義人会中村組幹部、日村は前橋のピンサロの店長から流星が高崎に向かう事を知り、網を張っ

ていた。

廃工場の中には日村を混ぜ10人の組員が集まっていた、縄張りを荒らされたとアヤを付け、抗

争に持ち込む腹であり、折りよく流星がターゲットとなった。

 

 23時30分、流星のケイタイに非通知で連絡があった、美紀が拉致された事を知り、指定され

た前橋の工場に向かう車中、雄二に連絡した。

「兄貴・・女が・・俺の女が拉致られた・・今から前橋に行きます・・」

「女って・・オマエ・・女がいたのか・・」

「はい・・・最近付き合い始めたってゆうか・・多分義人会でしょう・・やったのは・・・・・」

「おい、待て、一人で行くな、組長に連絡するから、落ち着いて連絡を待て、分かったか」

「許せねぇ・・ぶっ殺してやる・・」

「おい、オマエ一人の問題じゃねえんだ、これは・・・いいか、無茶すんなよ、俺もすぐ行くからよ」

「・・・・」

 

 

 じめじめとした湿気と、身体から汗と体液と涙でグチャグチャになりながら、美紀は嗚咽してい

る。

口と目にはガムテープが貼られている為、息苦しく言葉にならない叫び声を発している。

全裸に剥かれた美紀は、執拗に男達に舐られ、何度も犯され精液が身体から滴り落ちてくる。

精神も肉体も限界に来ていた、早く殺して欲しいとさえ思い始めた。

「おい、ネエちゃん・・もうすぐ彼氏が来るぜ、最後にもっと気持ちいいことしてやるな」

男は注射器を取り出し、覚醒剤を溶かした物を入れ、美紀の左腕に突き刺した。

美紀はブルブルと小刻みに震えだし失禁した、身体の力が抜けてゆく、心臓の鼓動が激しくな

り、やがて停止した、大量投与による心不全であった。

「おいおいコイツ、ションベン漏らしやがった・・気持ちいいだろう・・ん・・おい・・死んでるぜ・・コイ

ツ・・・・」

 指定の廃工場まであと2kmとナビに映る、苛立ちと怒りで前を走るトラックを追い越す、そこへ

二から電話が入った。

「おい、今何処だ・・そっちへ向かってる・・あと40分ぐらいだ、一人で動くんじゃねえぞ」

「兄貴・・俺さぁ、初めて女に惚れたんだ・・何でこうなるんだ・・許せねぇよ・・・」

「分かったから・・動くなよ

 

 廃工場の少し手前で車を停めた、辺りに灯りはなく真っ暗に近い。

微かに工場の奥のほうで灯りが見える、流星は付近を物色し武器になりそうな鉄パイプを拾い

でき得る限り気配を消しながら、ゆっくりと工場の中へ進んで行った。

すると人影が見える、1・・2・・10人か・・、その先には吊るされた裸の美紀を確認した。

激しい怒りを抑えているものの身体が震えてくる、どうしようもない衝動に駆られ奴等の許へ走る

、鉄パイプを翳しながら叫ぶ。

「テメエらこの野郎・・許せねぇ」

義人会の連中が慌てて振り返る。

「おっ、やっと来たか・・殺すんじゃねえぞ、東京進出の人質だからよ」

男たちは一斉にドスを取り出した、流星は一人の頭に鉄パイプを振り下ろす、頭が割れ鮮血が

噴出した、次の男の脇腹に蹴りをぶち込み頭の後ろを思いっ切り殴った、すると男の左眼球が

飛び出し、激痛で転げ廻っている、流星が息を整えている瞬間背中に激痛が走った。

ドスで背中を刺されたようだ、息ができない・・精一杯の力を振り絞り奴等を倒してゆく。

ふと我に返ると、静であった、辺りは血の海と化していて壮絶な修羅場であった。

「美紀・・美紀・・・・

流星は、繋がれているロープを外し美紀を降ろした、目や口のガムテープを外す、グッタリとした

身体は冷たい・・体中痣や疵がある・・・着ていた上着を美紀に掛け、急いでケイタイを取り出し救

急車を呼んだ・・・。

 

 

 

 「美紀・・・・ゴメンよ・・一人にさせちまって・・美紀・・・・・」

物陰に隠れていた義人会の日村が、ドスを片手にそっと近づいてくる。

「おんどりゃぁぁ・・死ねやぁ」

ドシンッという衝撃が走った、脇腹に日村のドスが突き刺さる、目の前が真っ白になった。

そこへ5台の車が突っ込んできた、拳銃の発射音が工場内に響き渡る、雄二の放った弾丸が日

村の頭に着弾し頭半分が吹き飛んだ。

意識が朦朧としてきたが流星は、美紀を抱き上げ唇に接吻した。

雄二たちは流星の元へ駆け寄る。

「おい、しっかりしろ流星・・待ってろって言ったろう・・馬鹿野郎・・・いま医者連れてってやるから

な・・死ぬんじゃねえぞ・・」

流星は出血が酷く薄れ行く意識の中で囁いた。

「兄貴・・・・俺・・美紀と一緒にいるよ・・・・・コツコツと・・・アスファルト・・・に・・響く・・・・・・・」

流星は消え入るような小さな声で、好きだったトンボを唄いながら静に眠りについた。

 破れたシャツの間から、血に染まった唐獅子の彫物が見える、静まり返った廃工場に雄二の

雄たけびが木霊する。

遥か遠くで救急車のサイレンが聞こえる。

流星と美紀の手を握らせ、着ていた上着をそっと掛けながら、雄二はゆっくりと歩き出した。

 

エンジェル
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