蜻蛉の接吻

  流星はシャワーを浴びた後、バスタオルも付けず全裸でリビングへ現れた。

ほぼ全身に彫物があり、背中の一面に唐獅子の文様がある、それは筋肉が隆起し尚も妖艶な

きを放つ、その姿に美紀は呆然と立ち尽くし、羨望の眼差しを向けていた。

「キレイ・・スゴイね・・」

そう言いながら流星の股間を愛撫し始めた、硬く隆起したものを口に頬張り、愛しそうに仁王立

の流星を見つめている、まるで野獣の交尾のように本能の赴くまま激しく二人は欲望の渦に飲

まれて行った。

 行為の余韻が残るベットの上で、美紀お手製のハンバーグを二人とも全裸で頬張った、二人は

つめあい、大声で笑い転げる、それは何故か楽しかった、こんなに笑ったことは人生初めての

経験であった。

 テーブルの上のケイタイが鳴る、画面を見ると非通知である。

「あっ、もしもし、俺前橋のピンサロの・・」

「ああ、どうした?」

流星はピンサロの客引きに、何か分かったら連絡するようにと、ケイタイの番号を教えていた。

「あの後、小島から連絡がありまして・・いま高崎の柳川町で働いてるって・・

「ほう・・で、女も一緒か?」

「らしいです・・店の寮に二人でいるらしいです・・」

「店の名前は?」

「いや・・言いませんでしたね・・」

「そうか・・ありがとうよ」

流星はすぐさま雄二に連絡し、追い込みをかけることを伝え、若衆3人借りることにした。

「美紀、小島・・見つかったよ・・明日高崎へ行ってくる・・」

「ホント?ワタシも連れてって」

「いや、アブねえよ・・やめとけ・・」

「ヤダ・・離れたくない・・絶対イヤ・・」

「しょうがねえな・・まったく・・」

 

 

 昼下がりの関越自動車道は混雑している、流星と美紀は高崎市を目指していた。

駅に隣接するホテルをリザーブし、大通りを二人で歩いていた、繁華街にさしかかると左手にイ

タリアンレストランがある、美紀が入ろうと言い出したが、喫茶店のナポリタンしか食べた事が無

い流星にとって、至極敷居が高い、地元の美紀は有名な店で、ピッツアが美味いと評判だと半ば

強引に誘い、ドアを開けた。

1時を回っているのに案の定混んでいた、待つのは苦手だが美紀が引き止める。

「おい、カルボナーラって何だ?」

「えっ・・知らないの?卵とパルメザンチーズをパスタに和えたもの・・美味しいよ」

「じゃあそれでいいや・・」

「ワタシはアサリのボンゴレと・・あとマルゲリータも頼もうっと・・」

初めて口にしたカルボナーラは、思いのほか美味かった、ピッツアも生まれて初めてだが、こん

な美味い物が世の中にあったとは、美紀には失笑されたが驚きを隠せなかった。

 二人は、柳川町へ向かい風俗街の所在を確かめる、以前は賑わいを見せていたらしいが、今

では客足は少ないらしい、数件の風俗店を確認し、ホテルに戻ることにした。

チェックインした二人はスタンダードスィートの部屋に通された、一泊3万5千円らしいが、狭苦し

い、美紀はといえば珍しいのか、部屋の隅々をチェックして回っている。

「スゴーイ、こんなとこ、泊まったことないよ、豪華だね!」

「そうか?ウチの組事務所の方が豪華だけどな」

「ねえねえ、見て、お風呂とシャワーが別になってるよ・・ガラス張り・・スゴイ・・ねえ一緒に入ろう

よ・・流星さん・・」

「いや、俺は電話帳を借りてくるよ、風俗店に片っ端から電話して探してやる・・」

 

18時を回った、ルームサービスでカツカレーを、美紀はハンバーグステーキを頼んで二人で食

べた、素っ気無い味で値段だけは馬鹿高い。

電話帳から拾いながら風俗店に片っ端から電話を掛けた、あるピンサロの従業員から有力な情

報を得ることができた、柳川町外れのピエロというピンサロに、小島が勤めているらしい、夫婦と

いう触れ込みで、小島と加奈が最近入店したと教えてくれた。

流星は、美紀に貰ったロレックスで時間を確認した。

「美紀、じゃあ行って来るけど、外には出るなよ・・」

「うん・・気を付けてね・・」

 ジャガーのエンジンを掛け、CDのスイッチを入れた、長渕剛のトンボが流れ始め、ゆっくりとア

クセルを踏んだ。

 

 

  

 

 ピエロいうピンサロは、柳川町外れの風俗界隈の奥まった場所にあった、ジャガーをコインパ

キングに停め、物陰から様子を窺った、店の前に客引きをしている男がいる、顔が暗くて確認

ない、少し移動しながら確信した。

「おい、交通費も元金に入れるからな・・小島さんよ」

「・・・・・あっ・・いや・・連絡するつもりだったんですが・・・スイマセン・・勘弁してください・・」

「別に謝らなくてもいいんだよ、金さえ返してもらえばさ・・・ちょっと顔貸してくれ・・・」

流星は小島を、コインパーキングに停めてあるジャガーの助手席に座らせた。

「小島さんよ、アンタ前橋から女と一緒にフケたろう、名前は?」

「はあ・・加奈っていいます・・野口加奈です・・いや・・金返しますんで、勘弁して下さいよ」

「その女・・何処にいるんだ?」

「・・店・・ですけど・・・・」

「・・店に電話して、呼び出せ・・早くしろ」

小島はケイタイから店に電話をかけ、近くの公園を指定し呼び出した、流星は車の中で待ってい

た、すると暗がりからケバケバしいピンクのワンピースを着た女が近づいてくる。

流星は車から降り、急いで向かう。

「久し振りだね・・探したよ、二人とも車に乗ってもらおうか・・」

 エンジンを掛け、流星は泊まっているホテルを目指し、発進した。

 

 ホテルの部屋に戻ると、美紀がいない、何やら荒らされていることに一抹の不安を覚える。

取り合えず、小島と加奈を備え付けのソファーに座らせた。

「加奈さんよ・・説明してくれよ・・」

「隆ちゃん・・逃げるつもりはなかったのよ・・ホント・・ゴメン・・」

「二人合わせて元金110万、利息、手間賃合わせて200万だ、払ってもらうよ・・・ところでアン

タ、前橋の店から50万借りて逃げたらしいな、その金は?」

「勘弁して・・お願い・・いま20万しかないの・・二人でパチンコ負けちゃって・・」

「まあいい、じゃあこれにサインして・・」

バックから予め用意していた借用書と委任状を差し出した、加奈は渋々署名し、拇印を押した。

「加奈さんよ・・頑張ってソープで働いてくれ、何年か働けばすぐ自由になるよ・・それから小島さ

ん・・アンタはダム工事の現場で暫く働いてもらう、二人とも覚悟しとけよ」

流星は、雄二の若衆に連絡し二人を迎えにくるよう指示した、それから懇意にしているソープラン

ドのオーナーに加奈を買ってくれるよう電話で頼んだ。

 

 

  ホテルの備え付けの灰皿が、吸殻で溢れている、雄二の若衆はものの一時間で向かえに来

た、流星は二人のことを頼み若衆は部屋を後にした。

 美紀が気になる、バックを置いたまま買い物に行くはずはないだろう、散歩にしても既に23時

回っている、ケイタイも電源が切られているらしく繋がらない。

そこへ流星のケイタイが鳴った。

 

 3時間前、ホテルの部屋のチャイムが鳴り、美紀は流星だと思い部屋の鍵を開けた。

突然黒尽くめの男達が乱入してくる、咄嗟の事で声も出ない、一人が美紀の口を手で塞ぎ、ガム

ープで手足と口を縛った、美紀はブルブル震え、何が起きたのか理解できない、一人の男はホ

のランドリーボックスを用意していた、そこに美紀を放り込み上からシーツを被せ、連中は足

部屋を後にした。

  前橋郊外の廃工場は世間ではオバケ屋敷と言われ若者の心霊スポットになっている。

その中で、美紀は裸に剥かれ両手を縛られ上の欄干から吊るされている、口と目にはガムテー

プが貼られ身体のあちこちに殴られた痕があり、意識を失っている。

義人会中村組幹部、日村は前橋のピンサロの店長から流星が高崎に向かう事を知り、網を張っ

ていた。

廃工場の中には日村を混ぜ10人の組員が集まっていた、縄張りを荒らされたとアヤを付け、抗

争に持ち込む腹であり、折りよく流星がターゲットとなった。

 

 23時30分、流星のケイタイに非通知で連絡があった、美紀が拉致された事を知り、指定され

た前橋の工場に向かう車中、雄二に連絡した。

「兄貴・・女が・・俺の女が拉致られた・・今から前橋に行きます・・」

「女って・・オマエ・・女がいたのか・・」

「はい・・・最近付き合い始めたってゆうか・・多分義人会でしょう・・やったのは・・・・・」

「おい、待て、一人で行くな、組長に連絡するから、落ち着いて連絡を待て、分かったか」

「許せねぇ・・ぶっ殺してやる・・」

「おい、オマエ一人の問題じゃねえんだ、これは・・・いいか、無茶すんなよ、俺もすぐ行くからよ」

「・・・・」

 

 

エンジェル
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