蜻蛉の接吻

 俗にアメ横、アメヤ横丁は夕暮れになると賑わいを増してくる、雑貨、乾物、生鮮、衣服など異

同士が狭い路地に乱立している、買い物を強請る美紀を連れ、人込を掻き分けながら進ん

だ。

目当ては何やらブランドショップらしいが、流星には縁の無い代物である。

「ここだぁ、ここ、ねえ入ろう!」

「・・・・」

海外のブランド時計やバック、衣服の並ぶショップである、美紀は真っ先に時計のコナーへ向か

う。

「これいいね!カッコいい、流星さんに似合うかも・・」

「いらねえよ・・」

雄二の兄貴からお下がりの古いロレックスを貰った、それを何年も大事に使っている。

「これ見せて!」

美紀が店員にショウウィンドウの高級時計を見せるように言った、それは175万もするロレックス

のデイトナである。

「おいおい、いらねえよ、持ち金そんなにねえし・・」

「早くはめて見て、うわあ、いいじゃん、これ下さい」

美紀は、バックから帯付きの札束を出し、ポンと支払いを済ませて満足そうに笑った。

「おい、美紀、金持ちだな・・」

「結構稼いだんだぁ、流星さんには御世話になったし、そのお礼だよ」

「いいのか・・こんな高いもん・・ありがとよ・・」

 何故か上機嫌の美紀を連れ、食材の買出しに向かう、外食しようと言ったが、自分で作るという

、5人分は有りそうな食材を抱え、ジャガーのトランクに放り込んだ。

国際通りを浅草へ向かう、擦れ違う車のヘッドライトがやけに眩しく感じる。

車内では、美紀がはしゃぎながらハンドルを握る流星に凭れ掛かる、この安堵感は何であろう、

これが人並みな生活というものなのか、今迄味わったことがないので理解するにも時間が掛かる

、薄幸で育った、幼い時に両親が離婚し母親に育てられたが、ランドセルや体操着、靴まで近所

のお下がりで、生活はかなり苦しかった。

小学生ではイジメられ、友達などいる筈もなかった。

この美紀の存在は現実に受け止める事が出来ない、今まで女なんて性欲の捌け口としか思った

とが無い、そんな俺が美紀には何かを感じる。

 

  流星はシャワーを浴びた後、バスタオルも付けず全裸でリビングへ現れた。

ほぼ全身に彫物があり、背中の一面に唐獅子の文様がある、それは筋肉が隆起し尚も妖艶な

きを放つ、その姿に美紀は呆然と立ち尽くし、羨望の眼差しを向けていた。

「キレイ・・スゴイね・・」

そう言いながら流星の股間を愛撫し始めた、硬く隆起したものを口に頬張り、愛しそうに仁王立

の流星を見つめている、まるで野獣の交尾のように本能の赴くまま激しく二人は欲望の渦に飲

まれて行った。

 行為の余韻が残るベットの上で、美紀お手製のハンバーグを二人とも全裸で頬張った、二人は

つめあい、大声で笑い転げる、それは何故か楽しかった、こんなに笑ったことは人生初めての

経験であった。

 テーブルの上のケイタイが鳴る、画面を見ると非通知である。

「あっ、もしもし、俺前橋のピンサロの・・」

「ああ、どうした?」

流星はピンサロの客引きに、何か分かったら連絡するようにと、ケイタイの番号を教えていた。

「あの後、小島から連絡がありまして・・いま高崎の柳川町で働いてるって・・

「ほう・・で、女も一緒か?」

「らしいです・・店の寮に二人でいるらしいです・・」

「店の名前は?」

「いや・・言いませんでしたね・・」

「そうか・・ありがとうよ」

流星はすぐさま雄二に連絡し、追い込みをかけることを伝え、若衆3人借りることにした。

「美紀、小島・・見つかったよ・・明日高崎へ行ってくる・・」

「ホント?ワタシも連れてって」

「いや、アブねえよ・・やめとけ・・」

「ヤダ・・離れたくない・・絶対イヤ・・」

「しょうがねえな・・まったく・・」

 

 

 昼下がりの関越自動車道は混雑している、流星と美紀は高崎市を目指していた。

駅に隣接するホテルをリザーブし、大通りを二人で歩いていた、繁華街にさしかかると左手にイ

タリアンレストランがある、美紀が入ろうと言い出したが、喫茶店のナポリタンしか食べた事が無

い流星にとって、至極敷居が高い、地元の美紀は有名な店で、ピッツアが美味いと評判だと半ば

強引に誘い、ドアを開けた。

1時を回っているのに案の定混んでいた、待つのは苦手だが美紀が引き止める。

「おい、カルボナーラって何だ?」

「えっ・・知らないの?卵とパルメザンチーズをパスタに和えたもの・・美味しいよ」

「じゃあそれでいいや・・」

「ワタシはアサリのボンゴレと・・あとマルゲリータも頼もうっと・・」

初めて口にしたカルボナーラは、思いのほか美味かった、ピッツアも生まれて初めてだが、こん

な美味い物が世の中にあったとは、美紀には失笑されたが驚きを隠せなかった。

 二人は、柳川町へ向かい風俗街の所在を確かめる、以前は賑わいを見せていたらしいが、今

では客足は少ないらしい、数件の風俗店を確認し、ホテルに戻ることにした。

チェックインした二人はスタンダードスィートの部屋に通された、一泊3万5千円らしいが、狭苦し

い、美紀はといえば珍しいのか、部屋の隅々をチェックして回っている。

「スゴーイ、こんなとこ、泊まったことないよ、豪華だね!」

「そうか?ウチの組事務所の方が豪華だけどな」

「ねえねえ、見て、お風呂とシャワーが別になってるよ・・ガラス張り・・スゴイ・・ねえ一緒に入ろう

よ・・流星さん・・」

「いや、俺は電話帳を借りてくるよ、風俗店に片っ端から電話して探してやる・・」

 

18時を回った、ルームサービスでカツカレーを、美紀はハンバーグステーキを頼んで二人で食

べた、素っ気無い味で値段だけは馬鹿高い。

電話帳から拾いながら風俗店に片っ端から電話を掛けた、あるピンサロの従業員から有力な情

報を得ることができた、柳川町外れのピエロというピンサロに、小島が勤めているらしい、夫婦と

いう触れ込みで、小島と加奈が最近入店したと教えてくれた。

流星は、美紀に貰ったロレックスで時間を確認した。

「美紀、じゃあ行って来るけど、外には出るなよ・・」

「うん・・気を付けてね・・」

 ジャガーのエンジンを掛け、CDのスイッチを入れた、長渕剛のトンボが流れ始め、ゆっくりとア

クセルを踏んだ。

 

 

  

 

 ピエロいうピンサロは、柳川町外れの風俗界隈の奥まった場所にあった、ジャガーをコインパ

キングに停め、物陰から様子を窺った、店の前に客引きをしている男がいる、顔が暗くて確認

ない、少し移動しながら確信した。

「おい、交通費も元金に入れるからな・・小島さんよ」

「・・・・・あっ・・いや・・連絡するつもりだったんですが・・・スイマセン・・勘弁してください・・」

「別に謝らなくてもいいんだよ、金さえ返してもらえばさ・・・ちょっと顔貸してくれ・・・」

流星は小島を、コインパーキングに停めてあるジャガーの助手席に座らせた。

「小島さんよ、アンタ前橋から女と一緒にフケたろう、名前は?」

「はあ・・加奈っていいます・・野口加奈です・・いや・・金返しますんで、勘弁して下さいよ」

「その女・・何処にいるんだ?」

「・・店・・ですけど・・・・」

「・・店に電話して、呼び出せ・・早くしろ」

小島はケイタイから店に電話をかけ、近くの公園を指定し呼び出した、流星は車の中で待ってい

た、すると暗がりからケバケバしいピンクのワンピースを着た女が近づいてくる。

流星は車から降り、急いで向かう。

「久し振りだね・・探したよ、二人とも車に乗ってもらおうか・・」

 エンジンを掛け、流星は泊まっているホテルを目指し、発進した。

 

 ホテルの部屋に戻ると、美紀がいない、何やら荒らされていることに一抹の不安を覚える。

取り合えず、小島と加奈を備え付けのソファーに座らせた。

「加奈さんよ・・説明してくれよ・・」

「隆ちゃん・・逃げるつもりはなかったのよ・・ホント・・ゴメン・・」

「二人合わせて元金110万、利息、手間賃合わせて200万だ、払ってもらうよ・・・ところでアン

タ、前橋の店から50万借りて逃げたらしいな、その金は?」

「勘弁して・・お願い・・いま20万しかないの・・二人でパチンコ負けちゃって・・」

「まあいい、じゃあこれにサインして・・」

バックから予め用意していた借用書と委任状を差し出した、加奈は渋々署名し、拇印を押した。

「加奈さんよ・・頑張ってソープで働いてくれ、何年か働けばすぐ自由になるよ・・それから小島さ

ん・・アンタはダム工事の現場で暫く働いてもらう、二人とも覚悟しとけよ」

流星は、雄二の若衆に連絡し二人を迎えにくるよう指示した、それから懇意にしているソープラン

ドのオーナーに加奈を買ってくれるよう電話で頼んだ。

 

 

エンジェル
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