蜻蛉の接吻

 狭いベットがギシギシと鳴り、美紀の激しい喘ぎ声が部屋に響き渡る、流星の背中の彫物に美

の爪が食い込み、薄っすらと血が滲む。

美紀は幾度も頂点に達し、最後は白目を剥きながら昇天した、暫く身動きできずに陶酔してい

る。

「あぁスゴイよぉ・・もうダメ・・・流星さん・・彼女いないの?」

「そんなもんいねえ・・」

「ワタシじゃダメかな?フーゾクにいた女じゃイヤ?」

「そんなのは、関係ねえよ・・・」

流星は再び美紀を攻め上げる、美紀の身の上に同情しているのか、愛情を覚えたのか、夢中で

紀を攻め立てた。

 

 磨き上げられた濃紺のジャガーは、昭和通りのコインパーキングに停めた。

近くに一面ガラス張りの近代的なビルが聳え立っている、そこの12階に親分の企業舎弟である

不動産業を営む内村の会社がある。

内村は、流星がこの世界に入った頃から面倒を見てくれる唯一の理解者でもある。

若い頃、シノギの無い流星に小遣いをくれたり、銀座へ飲みに連れて行ってくれた。

童貞だった流星をソープランドで大人にしてくれたのも内村であった。

「失礼します・・社長は?」

受付のOLに尋ねると、親分と別室で麻雀しているらしい。

「失礼します、社長ご無沙汰してます・・組長、お疲れ様です」

「おう、流星じゃねえか!この野郎たまには顔ぐらい見せに来い、元気か?」

「はい・・」

「内村・・コイツは最近、売り出し中だから忙しいんだよ、なあ流星」

「組長、勘弁してください・・」

「ところで、用でもあるんか?」

「はあ・・いや、ご機嫌伺いに

「ふざけんな馬鹿野郎・・調子がいいな、飯でも食いに行くか、親分も一緒に」

「はい!お供します・・」

  昭和通りに面した四川料理の萬陳楼という店は、界隈の評判が高い。

VIPルームと呼ばれる個室に、三人は通された。

社長のオーダーで回転テーブルの上は、豪華な鱶鰭料理や北京ダックなど、到底三人では食べ

られない量が並ぶ、中でも上海蟹の老酒漬けは絶品である。

「おい、流星・・オマエ前橋で何かやらかしたか?」

木村組長は眼光鋭く、凄みのある声で流星に聞いた。

「はあ、俺、何もしてません・・前橋に行ったのは事実ですが・・いや、仕事なんです・・借金踏み倒

して飛びやがった野郎が、前橋にいるって情報掴んで・・」

「おう、分かった・・雄二から話は聞いてるが、義人会が動いてるらしい、気付けろよ」

内村社長も、老酒を一気に飲み干し力強くグラスをテーブルに置いた。

「おい、流星、義人会はしつこいからな、何かあったらすぐ連絡するんだぞ」

「はい・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 俗にアメ横、アメヤ横丁は夕暮れになると賑わいを増してくる、雑貨、乾物、生鮮、衣服など異

同士が狭い路地に乱立している、買い物を強請る美紀を連れ、人込を掻き分けながら進ん

だ。

目当ては何やらブランドショップらしいが、流星には縁の無い代物である。

「ここだぁ、ここ、ねえ入ろう!」

「・・・・」

海外のブランド時計やバック、衣服の並ぶショップである、美紀は真っ先に時計のコナーへ向か

う。

「これいいね!カッコいい、流星さんに似合うかも・・」

「いらねえよ・・」

雄二の兄貴からお下がりの古いロレックスを貰った、それを何年も大事に使っている。

「これ見せて!」

美紀が店員にショウウィンドウの高級時計を見せるように言った、それは175万もするロレックス

のデイトナである。

「おいおい、いらねえよ、持ち金そんなにねえし・・」

「早くはめて見て、うわあ、いいじゃん、これ下さい」

美紀は、バックから帯付きの札束を出し、ポンと支払いを済ませて満足そうに笑った。

「おい、美紀、金持ちだな・・」

「結構稼いだんだぁ、流星さんには御世話になったし、そのお礼だよ」

「いいのか・・こんな高いもん・・ありがとよ・・」

 何故か上機嫌の美紀を連れ、食材の買出しに向かう、外食しようと言ったが、自分で作るという

、5人分は有りそうな食材を抱え、ジャガーのトランクに放り込んだ。

国際通りを浅草へ向かう、擦れ違う車のヘッドライトがやけに眩しく感じる。

車内では、美紀がはしゃぎながらハンドルを握る流星に凭れ掛かる、この安堵感は何であろう、

これが人並みな生活というものなのか、今迄味わったことがないので理解するにも時間が掛かる

、薄幸で育った、幼い時に両親が離婚し母親に育てられたが、ランドセルや体操着、靴まで近所

のお下がりで、生活はかなり苦しかった。

小学生ではイジメられ、友達などいる筈もなかった。

この美紀の存在は現実に受け止める事が出来ない、今まで女なんて性欲の捌け口としか思った

とが無い、そんな俺が美紀には何かを感じる。

 

  流星はシャワーを浴びた後、バスタオルも付けず全裸でリビングへ現れた。

ほぼ全身に彫物があり、背中の一面に唐獅子の文様がある、それは筋肉が隆起し尚も妖艶な

きを放つ、その姿に美紀は呆然と立ち尽くし、羨望の眼差しを向けていた。

「キレイ・・スゴイね・・」

そう言いながら流星の股間を愛撫し始めた、硬く隆起したものを口に頬張り、愛しそうに仁王立

の流星を見つめている、まるで野獣の交尾のように本能の赴くまま激しく二人は欲望の渦に飲

まれて行った。

 行為の余韻が残るベットの上で、美紀お手製のハンバーグを二人とも全裸で頬張った、二人は

つめあい、大声で笑い転げる、それは何故か楽しかった、こんなに笑ったことは人生初めての

経験であった。

 テーブルの上のケイタイが鳴る、画面を見ると非通知である。

「あっ、もしもし、俺前橋のピンサロの・・」

「ああ、どうした?」

流星はピンサロの客引きに、何か分かったら連絡するようにと、ケイタイの番号を教えていた。

「あの後、小島から連絡がありまして・・いま高崎の柳川町で働いてるって・・

「ほう・・で、女も一緒か?」

「らしいです・・店の寮に二人でいるらしいです・・」

「店の名前は?」

「いや・・言いませんでしたね・・」

「そうか・・ありがとうよ」

流星はすぐさま雄二に連絡し、追い込みをかけることを伝え、若衆3人借りることにした。

「美紀、小島・・見つかったよ・・明日高崎へ行ってくる・・」

「ホント?ワタシも連れてって」

「いや、アブねえよ・・やめとけ・・」

「ヤダ・・離れたくない・・絶対イヤ・・」

「しょうがねえな・・まったく・・」

 

 

 昼下がりの関越自動車道は混雑している、流星と美紀は高崎市を目指していた。

駅に隣接するホテルをリザーブし、大通りを二人で歩いていた、繁華街にさしかかると左手にイ

タリアンレストランがある、美紀が入ろうと言い出したが、喫茶店のナポリタンしか食べた事が無

い流星にとって、至極敷居が高い、地元の美紀は有名な店で、ピッツアが美味いと評判だと半ば

強引に誘い、ドアを開けた。

1時を回っているのに案の定混んでいた、待つのは苦手だが美紀が引き止める。

「おい、カルボナーラって何だ?」

「えっ・・知らないの?卵とパルメザンチーズをパスタに和えたもの・・美味しいよ」

「じゃあそれでいいや・・」

「ワタシはアサリのボンゴレと・・あとマルゲリータも頼もうっと・・」

初めて口にしたカルボナーラは、思いのほか美味かった、ピッツアも生まれて初めてだが、こん

な美味い物が世の中にあったとは、美紀には失笑されたが驚きを隠せなかった。

 二人は、柳川町へ向かい風俗街の所在を確かめる、以前は賑わいを見せていたらしいが、今

では客足は少ないらしい、数件の風俗店を確認し、ホテルに戻ることにした。

チェックインした二人はスタンダードスィートの部屋に通された、一泊3万5千円らしいが、狭苦し

い、美紀はといえば珍しいのか、部屋の隅々をチェックして回っている。

「スゴーイ、こんなとこ、泊まったことないよ、豪華だね!」

「そうか?ウチの組事務所の方が豪華だけどな」

「ねえねえ、見て、お風呂とシャワーが別になってるよ・・ガラス張り・・スゴイ・・ねえ一緒に入ろう

よ・・流星さん・・」

「いや、俺は電話帳を借りてくるよ、風俗店に片っ端から電話して探してやる・・」

 

18時を回った、ルームサービスでカツカレーを、美紀はハンバーグステーキを頼んで二人で食

べた、素っ気無い味で値段だけは馬鹿高い。

電話帳から拾いながら風俗店に片っ端から電話を掛けた、あるピンサロの従業員から有力な情

報を得ることができた、柳川町外れのピエロというピンサロに、小島が勤めているらしい、夫婦と

いう触れ込みで、小島と加奈が最近入店したと教えてくれた。

流星は、美紀に貰ったロレックスで時間を確認した。

「美紀、じゃあ行って来るけど、外には出るなよ・・」

「うん・・気を付けてね・・」

 ジャガーのエンジンを掛け、CDのスイッチを入れた、長渕剛のトンボが流れ始め、ゆっくりとア

クセルを踏んだ。

 

 

  

 

エンジェル
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