貧乏な人にならないための基礎知識 ~社畜人生を振り返って~

 

   2012年2月に、日本経済成長産業の礎となったひとつの企業「日の丸半導体」を代表する

   エルピーダメモリが会社更生法を適用され、とうとう経営破綻しました。

   膨大な借金を抱えたまま、その生産技術を海外にも輸出し、ついに過去最高に近づく円高

   為替相場の煽りを受け、そして海外からも商品が買われなくなり、韓国ライバルメーカーに

   そのシェアをも完璧に奪われてしまって、その優れた技術を持ちながらも破綻という最悪の

   宿命に巻きこまれてしまったのです。

   

   また、この年は日本の電機技術産業に次々と経営悪化の波が訪れ深刻化しています。

   つい最近、世界に誇る液晶テレビブランドを確立したシャープも、NECもルネサスエレクトロ

   ニクスも、キャノンもソニーも日本の代表産業であった電機技術産業界のそのほとんどが

   深刻な経営悪化の道をたどる羽目になってきているという現実があります。

   

   私は電機産業界で仕事をした経験はないのですが、少しミクロな視点で考えてみます。

   日本経済の礎となった代表産業で、この世界に身を置いて今まで徹夜同然で仕事を頑張っ

   て、技術と精神を習得してきて、企業と共に育ち栄光時代に報酬を得てきた技術系サラリー

   マン達。

   彼等の立場と目線でその生活を考えた場合に、いったいいま何を振り返る事ができるので

   しょうか。

   相次ぐ早期退職希望者の募集、加速するリストラ、設備縮小に伴う拠点(工場)閉鎖、そして

   生き残りを掛けて海外へ生産拠点を急転させたり移動させる経営緊急対策。

   経営陣は、自分の企業が「このままでは破綻する」という危機感を募らせるからこそ、大切

   にして育ててきたはずの社員すらも削減せざるを得ない状況に追い込むわけなのです。

   これは、経営者だったら誰でもやらなければならない当たり前の決断と行動です。

   いわば、台所事情が急激に危機化した「火事場」になったわけなのです。

 

   それまで一生懸命に頑張って働いて技術を習得することだけに、すべてを注いできた社員

   達は、そんな会社の急変した台所事情のために、ボーナスをカットされたりリストラで移動

   させられた早期退職を促されたりと、

   何のために今まで真面目にやってきたのか、と阿鼻叫喚を上げ、世間や社会、政治を嘆き

   悔しくてもその現実を受け入れるしか方法はないのです。

   もちろん、派遣社員や期間契約社員となっている非正規雇用社員は真っ先に問答無用で

   お役御免となります。 こうなると経営側としては、簡単にクビを切れない正規社員をどう

   やって大量に辞めさせるかを本気で考えるしかなくなりますよね。

   (長期円高はアメリカ富豪層やユダヤ人の策略だという説もありますが、それは割愛して)

   

   何をどう嘆こうが、これは現実としての現実です。

   しかしここで、ちょっとひとつ考えてみたい事があります。

   

   経営者はリストラを敢行して、社内のスリム化をはかり、会社が破綻しないようにベストを

   つくすようになりますが、ということはそれをする事で自分が生き残ることができるという

   事ですから、それって経営者的には 「自分のため」 って事ですよね?

   ですが仕事一筋に生きてきて、会社の技術だけしか稼ぐ手段を知らなくて、安定した給料

   のみが自分の生活手段であり、子供をいい学校に出さなきゃならなくて、家賃が高い

   マンション(あるいは持ち家)に住んでいて、

   フラット35とかの近い将来にアホみたいな高金利に化けてしまう金利据え置き型住宅ローンを

   たんまり残額で持っていて、いいクルマを持っていてそれもローン残高が多くて、その支払

   のほとんどがボーナスで消えていくような仕組みを作っている真面目で勤勉で優秀な

   サラリーマンは、生き残るために今後その生活を一体どうすればいいのでしょうか??

 

   その前にまず、こういう立場になったサラリーマンはどういう行動を取るでしょうか。

 

   他人事なら冷静に客観的に考えられますが、

   いざ自分がその立場に立たされていて、現実に来月の支払いが給料振込み口からガンガン

   毎月引き落とされる姿を見慣れている、いつもの我が家の普段の光景であれば、リアルに

   冷や汗しか出てこないのではないでしょうか?

   時間と共に、残高が、ゆっくりと、しかも確実に、容赦なく減少していきます。

   こうなると、今までほとんど気にしていなかった「支払い額」自体が増えているような錯覚

   を覚えるような精神状態になってしまうわけです。

   

   旦那さんであれば、ほとんどの多数派はこう思います。

   「うっわ、ボーナス減っちゃってる、ってか手当てなんか少なくなってね?やばいもっと残業

   する方法がないかな…」 

   奥さんであれば、ほとんどの多数派はこう思います。

   「ちょっとこれってマジ?来月隣の奥さんとプチ旅行する約束したのに…クルマも家も養育費

   もすべて大事な予算だから、そうだ旦那の小遣いをもっともっと減らさなきゃやばいわ」

 

   こうやって、幸福で何の変哲もなかった家庭は、徐々にいがみ合うようになり小さな摩擦が

   頻繁に起こることになっていくのです。

   そこへ、会社からある日突然の通達がなされます。

 

   「早期退職希望者募集、早期退職者には2割増しの退職賞与を支給」「今後残業の禁止」

   そして最後は肩叩き…。

   さあいよいよ決断の時です。

   嘆願して意地でも社員として保留する代わりに、まったく経験のない部署へ異動されたり、

   あるいは子会社へ出向などの名目で補充されたり好きなように扱われても従うか、

   または潔く早期退職を果たして転職の道を選ぶかということになります。

 

   入社以来真面目に仕事を覚えて、会社に従って、会社のために尽くして来て家庭を築けた

   これまでの人生を振り返ると、会社が経営不振になったというだけで、従業員という立場

   の者は、どちらに転んでも奈落の底に突き落とされるような仕打ちを選択するしかない事

   になってしまいます。

   …でも、もう喚いても足掻いてもどうしようもありません。

   ここで、テコでも会社にしがみつくというのなら、次に待っているのはボーナスももう頂け

   ない年収大幅ダウン+サービス残業の嵐という正念場か、

   または心機一転、新たな雇い主を探し求める新たな人生の旅か、ということになります。

 

   しかし、

   人間十年以上も同じ生活と、徐々にステップアップしてきた人生生活環境を突然に一転

   させる事などそう簡単で生易しいことではありません。

   「真面目に一筋にやってきたのに」と愚痴をこぼすしか方法がないというわけですよね。

   さあ…

   ここが実は、サラリーマンという職業よりも、「人間力」が相当試される分岐点となります。

   減収されようが左遷されようが最低最悪な部所へ異動になろうが、またどんなに過酷な

   サービス残業を与えられてもものともしない不屈の精神力でもって、組織の人として生き

   抜くという、これまでの会社の恩義に従って人生を一途に貫くのか、

   あるいはこれを転機と考え、世の中、経済の流れを冷静に判断してドライに割り切って

   自分が正しいと思う新たな人生を踏み出すのか。

 

   この答えに正解はありません。 どうしても大好きな、自分の一生を捧げるべき仕事だと

   思い、どんな苦難にも立ち向かう決意と理念があるならば会社と共に苦楽を共にすべき

   ですし、また大好きな仕事に縁をいただいた会社に残留することが誇りでもありプライドを

   持てる、それはそれで立派な生き方と人生戦略だ、と私ははっきり断言します。

黎明堂
貧乏な人にならないための基礎知識 ~社畜人生を振り返って~
6
  • 0円
  • ダウンロード

15 / 26

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント