【ISIS Selection 08】ゴスペル期アシスタントが語るディラン

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はじめに( 1 / 1 )

はじめに

 数年前に6人の俳優がボブ・ディランのさまざまな時期を演じ分けた映画『アイム・ノット・ゼア』が作られましたが、私の記憶では、ゴスペル期に関してはあまりカッコイイ描かれ方はされていなかったと思います。ケイト・ブランシェッドが1966年頃のフォーク・ロック期のボブを演じたシーン、幻想的アメリカーナのシーン等、面白かった箇所もありましたが、そもそも、複数の人格に分割するという制作側のボブ観自体が陳腐でした。表面的、形式的な違いの裏において脈々と存在してきた頑固なまでに変わらぬ部分にこそスポットライトを当てて、一つの首尾一貫した人格としてまとめあげたほうが、壮大な物語になったのではないでしょうか。
 世間的には迷走扱いされているゴスペル期ですが、これも首尾一貫性という点から考えると、目先の利益を追わず、支持基盤を失うことを恐れず、やりたいと思ったことをやる、ということで、エド・サリヴァン・ショウ出演辞退、1965年のニューポート・フォーク・フェスティヴァル、カントリー、ローリング・サンダー・レビュー、1978年ワールド・ツアーなどと何ら変わりはありません。
 特にニューポートや翌年のヨーロッパ・ツアーに関しては音楽史を変えた出来事として、今もなお頻繁に取り沙汰されていますが、ボブのキリスト教転向と『スロー・トレイン・カミング』『セイヴド』『ショット・オブ・ラヴ』のリリースは、クリスチャン・ロックの確立という点で、フォーク・ロックの登場と同じくらい画期的な出来事だったという意見もあります。『Dylan Redeemed』の著者スティーヴン・H・ウェブは、福音派キリスト教徒の立場から、この点を熱烈に述べています。
 アメリカのキリスト教は長らく政治には興味を持っていませんでしたが、今では保守派の政治家にとっての重要な票田として無視出来ない勢力になっています。レーガンあたりから宗教保守派の台頭が目立ち始めたといいます。ボブのゴスペル期も丁度この頃ですし、ジョン・レノンとヨーコ・オノの音楽活動復帰作『ダブル・ファンタジー』もサウンド的にゴスペルの影響を強く受けています(歌詞で神は賛美していませんし、ジョン&ヨーコはボブの改宗に批判的でしたが…)、フランク・ザッパも『You Are What You Is』で、バリバリのゴスペル・サウンドに乗せて当時の拝金的な宗教界を痛烈に批判しています。一方、その数年後にはストライパーというヘビーメタル・サウンドに乗せて神を賛美する歌を披露するバンドまで出現します。1980年前後にはブルーグラス界でもゴスペル色が強くなるような動きがあったと聞きます。
 今月紹介するのは、この頃ボブのアシスタントを務めていたデイヴ・ケリーのインタビューです。彼はクリスチャン・ロック黎明期に、その先駆的なバンド、アークのメンバーだった人物で、そうした経歴も買われてアシスタントの職を得たのだそうです。4年前にこの記事を訳した際には、ネット上で検索しても何も見つからなかったのですが、現在ではアークに関するページが簡単に見つかりますし、youtubeでは彼らの曲も聞けます。
 ボブのゴスペル期を当時の世の趨勢とからめて何か気の利いたことを語りたいという気持ちは山々なのですが、私の中ではまだ、以上のような複数の点が少しずつ線で結ばれつつあるかなあ…というレベルであり、音楽界や政治、宗教思想の動向とからめて語るだけのデータ収集もその整理も全く出来ていない状態です。今回紹介する記事が、それをしようとしているもっと学究肌の方の参考資料になれば幸いです。もちろん、ゴシップが大好きな人も楽しく読めますよ。ジョージ・ハリスンが逃げるようにホテルからチェックアウトしたとか、ボブのママがユダヤ教のラビを差し向けたとか、ボブ本人のロマンスとか、面白い逸話満載ですから。

2012年10月
加藤正人

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