盗んでやるぜ!

ドアから離れると、背の高い木が近くにあるのが見えた。

そうだ。ここからなら・・・。

オレはまよわず木に登っていき、塀の高さまで上がった。
そして勢いをつけ、木から五~六メートル向こうの塀の上へ飛び移る。

「これを、こーして・・・と」

用意しておいた縄ばしごをフックで引っかけ、司が登ってこれるようにたらした。

「司、これを使っ、て?」

上がってこい。と司に声をかけようとしたら、司の姿はなかった。
辺りをさがすオレ。すると、後ろから司の声がした。

「葵、こっち」

見ると、塀の外側にいた司が、いつの間にか内側にいるのが分かる。
オレは司の近くに飛び降りる。

「司、どうやって中に」
「ドアノブ回して引いたら普通に開いたけど」
「あ、そうなのか?」

あのドア引いて開けるのか。オレ押してたわ。

まぁ、とりあえず二人とも中に入れたから結果オーライだ。

「しかし・・・警備員とか全然いないな。せっかく『怪盗ブルーバード』として予告状出しといたのに」

ちなみにこの『ブルーバード』はオレの下の名前、葵(=青い)のブルー。名字の羽鳥(=バード)からきている。
これを思いついた時、我ながらナイスなネーミングセンスだと思った。
「今までしょっぱい結果しか出してないからじゃないの?」

オレは今までの戦績を振り返る。

たしかに、予告状出したらメッチャ警備員が集まって、ビビって仕方なく庭にあった盆栽盗んだりとか。それすらもできずに新聞の隅っこに『窃盗予告・悪質なイタズラか』って書かれたりしたけど。

今日、ここで。

「世界で活躍するジュエリーデザイナー、風間俊之の家から宝石とか盗めば、怪盗ブルーバードの名前も世界に知れわたるだろ」

言わば今日は、オレ達の知名度と株を上げる大チャンスなのだ。
大きな野望を語るオレ。しかし、司はテンションが低い。

「やめとこうよ、葵。捕まったら人生終わるよ?」

そんな司を、オレは焚きつける。
「そう言うなよ。ここは風間俊之のいとこで小説家の・・・風間、せいじ? だっけ? も住んでるんだろ?」
「せいじじゃない。さ・と・し。風間聖志さん」
「そうそう、風間聖志」

侵入ルートを探りながら話を続ける。

「お前、その小説家のファンなんだろ? 生原稿とか手に入るかも知れないぜ。欲しくないか?」
「・・・欲しくないって言ったら・・・ウソになるけど」
「よし、決まりだな」

意思が一枚岩になったところで、オレは一つだけ開けっぱなしになっている窓を見つけた。
あそこから入ろう。目で司に合図し、オレ達はすばやく、かつ静かに窓から中に入る。
床に降り立つといくつものドアが並んでいた。どうやらここは廊下らしい。
藤堂千草
作家:藤堂千草
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