M.シュナウザー チェルト君のひとりごと  その1

三章 青年の犬のころ( 20 / 20 )

40.清里のペンション「トウトウ」

清泉寮.jpg

 

  僕が一番遠くまで遊びに行ったのは、清里のペンション「トウトウ」に行った時だったと思う。

 

 チェルトも大きくなったから、お泊りで八ヶ岳にでも行ってみるかとお父さんが言った。僕がお泊りって??と思っているうちに、お父さんはパソコンで何か始めた。

 

 僕の名前が出てくるし、お泊りって言葉は知っていたから、お父さんがパソコンをやっている側に座って、何をやっているんだろうとみていた。

 

 お父さんが、あったぞといった。「トウトウ」っていうんだとお母さんと話している。犬と一緒に泊まれるんだって、と言っている。トウトウって、フランス語で犬って意味だって。ちょっと遠いかなぁとも言っていた。

 

 僕はみんなと出かけるんだったら、どこでもうれしい。

 

 バリケンもいらないんだって、と言っている。八ヶ岳が見えるかもねとお父さんが言っていた。八ヶ岳ってなんだかわかんなかった。

 

 スバルに僕のリード、おもちゃとか、ボールだとか、そしてお水を積み込んで、お父さんとお母さんのでかい荷物も積んで、ある朝、スバルで出発した。

 

 大仁へお父さんたちがワインを買いに行くとき、よくつれて行ってもらっていたから、そんなつもりで、お出かけお出かけと僕ははしゃいでいた。

 

 でもそれは違っていた。

 

 

 長い間、本当に長い時間、スバルに乗っていた。

 

 前にミッレミリアの時に走った伊豆スカイラインのくねくね道をお父さんは飛ばした。箱根に着いたけど、まだまだ走った。御殿場とか山中湖とか言っていて、気持ちが悪くなりそうになった時、急にスバルのスピードが上がった。びゅんびゅんお父さんは飛ばした。それが中央高速だった。けしきがどんどん後ろに飛んでいく。

 

 もう大丈夫だと思った。もう少しで、僕はお母さんの運転の時のように、よだれが出そうになった。途中の休憩所で、僕はやっと車から降りた。おしっこをして、食べてるお父さんからなにかをもらって食べた。空気がひんやりしていた。

 

 清里の「トウトウ」に着いたのはもう3時ごろだった。ぼくんちから6時間ぐらいはかかったと思う。僕は車から降りて、ペンションのワンちゃんたちに出会った時には、足がガタガタ震えていた。

 

 僕たちの部屋に入った。僕たち3人が同じ部屋でお泊りするのは初めてだった。僕の丸いベッドがあって、お父さんとお母さんのツインベッドがある。一緒に寝られる…とうれしくなった。僕んちでは、お昼寝の時にお父さんのベッドで寝ることはあったけど、こんなの初めて。

 

 部屋の前の廊下をほかのワンちゃんが通っているのがわかる。吠えていいのか、この部屋はぼくんちなのか、どうなのかわかんなかったから、一応吠えておいた。するとお父さんにダメって言われた。

 

 その日の夕食、ダイニングルームに下りて行ったら、いっぱいワンちゃんがいた。ビーグルとか、大きなレトリバーとか、マルチーズだとか…。

 

 お父さんとお母さんが夕食を食べている間、僕も、テーブルの下でご飯を食べていた。でも僕の心の中では、ちょっと落ち着かない気持ちだった。こんなにたくさんのワンちゃんと一緒に食事したことがなかったからだ。

 

 食事が終わってから、ミーティング・タイムだった。ほかのワンちゃんとご挨拶するのだ。でも僕は、なんだかわからないけど、怖かったのか、ワンワン吠えていた。興奮しているのはわかったけど、吠えるのやめられなかった。うんと吠えたので、口の両方の端っこから白いあぶくが出てきた。みんなに見られている中で、僕だけが吠えていた。「トウトウ」のスタッフが笑って、「こわいのね」と言っていた。

 

 こんなの初めてだった。僕は、家の外でほかのワンちゃんにあったら、ちゃんと匂いを嗅ぎ合って、あいさつできるのに。やはりまだ子供だったのかなぁ。今でも、なぜだったのかわからない。

 

 次の日は、お父さんたちと、ドッグランに行ったり、牧場で大きな牛さんやヤギさんを見たりした。

 

 一番僕がびっくりしたし、うれしかったのは、目の前でうさぎさんを見たことだった。清泉寮というところで、アイスクリームをお母さんからもらってなめていた時に、目の前のフェンスの先に白いうさぎさんがいたのだ。でも、僕は全く気がついていなかった。

 

 動くものに気がついたら、耳が長い、ぴょんぴょんと動く動物がいた。お母さんにわかんなかったんだって、笑われた。

 

 「トウトウ」の二番目の夜は、最初の日のように興奮はしていなかった。ミーティング・タイムは、ほかのみんなとご挨拶ができた。昨日はどうしたんだろうと自分でも不思議だった。

 

 次の日、帰りは最初の日と違う道をお父さんが走ったので、もっと時間がかかった。富士川をずっと山梨から降りてきたのだ。大室高原の家に着いたときは、僕はしっかり疲れていた。ご飯を食べたら、僕は自分でバリケンに入って眠り始めた。

 

 楽しかったなぁと思ったのは、次の日だった。

 

 

その1のあとがき( 1 / 1 )

こうして、M.シュナウザーのチェルト君は成犬になりました。

チェルト君のひとりごとはまだまだ続きます。

チェルト君のひとりごと その2 をお楽しみに…。

 

著者プロフィール( 1 / 1 )


著者プロフィール

 

徳山てつんど(德山徹人)

          

1942年1月1日 東京、谷中生まれ

1961年 大阪市立大学中退

1966年 法政大学卒業

1966年 日本IBM入社

 

  システム・アナリスト、ソフト開発担当、コンサルタントとして働く

  この間、ミラノ駐在員、アメリカとの共同プロジェクト参画を経験

      海外でのマネジメント研修、コンサルタント研修を受ける

 

1996年 日本IBM退社

 

1997年 パーソナリティ・カウンセリングおよびコンサルティングの

   ペルコム・スタディオ(Per/Com Studio)開設

 

EMailtetsundojp@yahoo.co.jp

HP: http://tetsundojp.wix.com/world-of-tetsundo#

 

著書

 

Book1:「父さんは、足の短いミラネーゼ」 http://forkn.jp/book/1912/

Book2:「大学時代を思ってみれば…」    http://forkn.jp/book/1983/

Book3:「親父から僕へ、そして君たちへ」 http://forkn.jp/book/2064/

Book4:「女性たちの足跡」               http://forkn.jp/book/2586/

Book5:M.シュナウザー チェルト君のひとりごと その1」                

                         http://forkn.jp/book/4291

Book6:M.シュナウザー チェルト君のひとりごと その2」

                                                              http://forkn.jp/book/4496


 

 

                 

徳山てつんど
作家:德山てつんど
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