M.シュナウザー チェルト君のひとりごと  その1

二章 伊豆の生活・子犬のころ( 17 / 17 )

20.海の花火 ビックリしたなー

花火.jpg

 

 僕の怖いものはドンドン減っていった。それだけ立派な犬になってきたんだと思う。

 

 でもやっぱり怖いものはあった。

 

 一番怖いもの、それはお父さんの叱る声でもなければ、ゴツンでも、チックンの注射でも、でかい犬でもなかった。怖かったのは、時々、遠くでゴロゴロいうかみなりってお父さんが言っていたがものだ。そのゴロゴロというでかい音が、空中に広がっていって、僕のよく聞こえる耳では、とてつもない大きな音なのだ。ゴロゴロは、近づいてくると、ドッシャーン、ドッカーンという大きな音と稲妻が近くの空を走る。

 

 怖かった。僕はソファーの下にもぐりこんで、耳を前足でふさいでがたがた振るいえていた。お父さんはそれを見て、バッカダナー、家には落ちやしないいよって言っていた。そんなお父さんだって、近くに雷が落ちて、パソコンと電話をダメにされたときは、イヤーまいったねといっていた。お母さんは、そんなときは全てのエアコンのコンセントを抜いてまわっていた。

 

 そんなある日、お父さんが、おかあさんに、伊東ででかい花火大会があるから、みんなで見に行こうか…っていていた。僕は花火大会って、なんだかわかっていなかった。わあーい、みんなでお出かけだと、オデカケ、オデカケって喜んでいた。

 

 その日、夕方ちょっと前に、僕たちはスバルで伊東の町を越えて、宇佐美というところに向かう途中の海岸に出かけた。食べ物も持っていたし、飲み物もあったから、うれしくなって僕は車の窓から外を見ていた。他にも、沢山の車がその広場をだんだん埋めていった。

 

 僕たちは早く来たから、伊東の湾が良く見える一番海に近い場所で待っていた。僕は、何がはじまるんだろうって思っていた。楽しいことに違いないと持っていた。近くの車には子供たちが、ゆかたといういつもはみんなが着ない姿でうれしそうにしていた。お弁当を食べている家族もいた。

 

 夕暮れになっていくと、だんだん、海の上の船たちがよく見えるようになってきた。僕たちが、ご飯を食べ始めると、ちょうど、伊東湾に大きな船、光の塊が入ってきた。これが僕が初めて船を見た時だ。お父さんが、でかいな、さすが「飛鳥」は、といっていた。その大きな船は伊東の海上花火をお客さんに見せるために、お客さんをいっぱい乗っけて、伊東の海までやってきたのだ。まぶしい光をいっぱい灯けていた。

 

 夕闇が濃くなって、もう夜になった。と突然、ドッカーンと大きな音がして、火花が空に打ちあがっていった。そして、高く上がって、ババババーンと、またとてつもなく大きな音がして、目の前に火の粉が散って大きく開いた。お父さんは、きれいだなと言って、手をたたいていた。周りの人たちも空を見上げて、大きな声でしゃべったり、拍手したりしていた。

 

 これが花火だったのだ。僕は雷を思い出して怖くなった。ドカーン、バリバリっていう音と光が続けざまに何度も起きて、空は明るくなった。これが花火なんだって僕はやっと分かった。

 

 僕には怖いことだった。もぐりこむソファーもないし、狭い車の中では隠れる所もない。ただ、お母さんにしがみついているしかなかったのだ。お父さんとお母さんは、きれいだねぇって言って、花火を見ていた。僕は怖くて、体が震えてきた。お母さんが大丈夫って僕を抱きしめて撫でてくれたけど、僕は怖くてオシッコをもらしそうになった。

 

 お母さんが、この仔、怖がっている見たいって、お父さんに言った。まぁ初めてだからしょうがないかって、笑いながら話している。冗談じゃないって、僕は思った。

 

 そのうちに、ドカーンというのが続くようになった、ドカドカドカドカとひっきりなしにでかい音が続いた。それに一緒になって、バチバチバチバチと休みなしになってきて、くさい匂いも車の中に入ってきた。雷のいなずまを何百倍も明るく大きくした光が空じゅうを駆けまわっていた。僕は泣いていた。怖いよ怖いよ、早くお家に帰ろうよとお父さんに言った。でも分かってくれなかった。

 

 最後のものすごい音と光が消えて、見に来ていた人たちがパチパチと拍手をしていた。海が静かになって、どこかの車の中でだれかがウオーンって吠えているのがやっと聞こえた。その犬も怖かったのだろうと思った。でもその犬にむかって、ヒヒーンと鳴く元気も僕には残っていなかった。

 

 やっと車が通れるようになって、夜遅く、僕たちは静かな伊豆高原のうちに帰ってきた。やっとお家だと僕はほっとした。

 

 この夜、もう絶対に花火というものには、僕は行かないと心に決めた。たとえ、みんなと一緒で、おいしいものがあっても騙されないぞと…。とにかくビックリした夜だった。

 

 こうして、雷より怖いものが、僕に現れたのだ。

 

三章 青年の犬のころ( 1 / 20 )

21. ユニー、買い物、素敵なこと

 Certo庭.jpg 

 

 僕んちは大体、週に二回は買い物の日と決まっていた。

 

 最初の頃は、僕はお留守番だった。僕の役目は、番犬をかねてるんだからしょうがないかと思っていた。でも、一人のお留守番はつまらない。

 

 もうその頃はバリケンから出してもらっていたから、お水も飲めるし、リビングと玄関と廊下と階段(一度おっこったから怖くて登らなかったけれど)は自由に動き回ることが出来た。だからワニさんと一緒に遊んでもいた。でもつまんない。

 

 ある日、お父さんが、一度チェルトを買い物に連れて行ってみるかと言い出した。買い物って言葉は知っていたけど、本当のことは分からないでいた。僕はみんなと一緒が大好きだから、どこへでも連れて行って欲しかった。僕は早速、玄関ホールに出て、お父さんとお母さんが支度するのを待っていた。

 

 買い物用の大きなバッグを2つ持って、僕たちはスバルに乗って出かける。僕んちから、ユニーというショッピング・センターまでは7キロくらい離れていた。スバルでお母さんが運転すると、20分ぐらいの道だ。

 

 最初は、見慣れた「アリスのレストラン」とか、「大室ショッピングセンター」の前を通って、もうせん何度か行った「日東光器の」グランドを過ぎて走る。もうその先は、僕にははじめての道。急な坂を下りていくと、美術館やレストランなんかが建っている一碧湖にでる。この坂が、けっこう怖かった。お父さんにしがみついていた。

 

 一碧湖を過ぎて、道は狭くグニャグニャと曲がっている坂道を走る。そして大きな通りに出て、左に曲がると、もうそこは「デゥオ」というユニーのショッピング・センターだった。

 

 僕はお店には入りたいけど、もちろん入れない。車で一人待っていることになる。僕は、みんなと出かけるのが大好きだけれど、この車の中で、ひとりぼっちの待てが嫌いだった。僕んちのスバルは、他の車のいっぱいいる中に停まってるんだから、周りの車に人が近づいてくる。

 

 そんな時、僕はどうすればいいのかいつも困っていた。僕の家だったら、家を守るために、ワンワンって吠えればよかった。でも、車の中は、僕のうちの中のようだし、でも家とは同じではなく、僕にとっては外かも? 吠えるのがいいのか、吠えないほうが良いのかが分からない。だから僕はヒンヒンと鼻を鳴らすしかなかった。

 

 時には、僕のそんな気持ちに関係なく、ガラス越しに、わぁかわいいって、僕をなでようとしたりする人もいる。僕は誰かになでてもらうのは大好きなんだけれど、車の中に閉じ込められているから、それは出来ない。大好きですと、しっぽを振るのもなんだか変だしなぁ…。

 

 早くお父さんとお母さんが戻ってこないかなぁと、二人が入っていったユニーの入り口のほうを見張るしかなかった。

 

 お父さんたちは、一時間近くもかかって、二つの買いものバッグをいっぱいにして帰ってくる。やっと帰ってきたと、僕はうれしくなる。

 

 時には、うれしいこともある。お父さんとお母さんが、アイスクリームを買ってくるのだ。二人は、車の中で食べ始める。ミルクの良い匂いがして、僕はよだれが出てくる。ちょうだい、ちょうだいと、身をよせて行く。すると車に乗っけてある僕の水飲み用のボールに、お父さんが小さなスプーンで、ポトリとアイスクリームを落としてくれる。

 

 みんなで一緒に食べるのは、うれしい。ガンバッテ、待っていてよかったと思う。

 

 帰りは、スバルをお父さんが運転する。お母さんに較べるとスピードが速い。今度はお母さんにしがみつくことになる。ビュンビュン飛ばして、お家に帰る。

 

 もしその日、お父さんがお肉を買っていたら、僕は最高の気分になる。

 

 1キロの牛肉の塊をお父さんがキッチンで、大きなナイフを使ってステーキ(これも僕の大好きなもの)用にスライスしていく。僕はじっと我慢で、お父さんの足元にくっついている。きっと良いことがあるに違いないと信じている。

 

 お父さんが、ステーキを切り終わると、小さな肉の切れ端がいくつか残っている。僕の食事用のボールをお母さんが持ってくれば、やったあ!!だ。

 

 お父さんは、その肉の塊をポトン、ポトンと僕のボールに落としてくれる。でも直ぐには食べられない。儀式があるのだ。

 

 スティって、僕は待つように命令される。きちんと座ってお父さんを見上げる。お父さんは親指と人差し指をくっつけて、自分の目の前に持っていく。その指を僕は下から目で必死に追う。

 

 OK! が出て、僕は生肉にありつく。おいしい。やはり肉は、生に限るのだ。

だから、僕はユニーが大好きだ。僕が連れて行ってもらえなくても、時々はこの生肉が、僕のボールにポトリと落ちてくることがあるからだ。

 

 

 

三章 青年の犬のころ( 2 / 20 )

22.伊豆高原テディベア美術館の近くに…

ローズテラス.jpg

 

 僕は瀬田のケンネル・エイトで、おとうさん犬や、おばさん犬のシュナウに別れてから、その後一度もシュナウに会ったことがなかった。

 

 伊豆高原には、いっぱいワンちゃんや猫ちゃんたちがいるけど、シュナウはいなかったかった。

 

 例えば、お散歩のとき、おっかない顔のおばさんに抱っこされていたシーズーだとか、リリーちゃんのお母さんと一緒に毎日、散歩していたおばあちゃんの連れていたシーズーやトイ・プードル、そして猫たちだとか。

 

 そういえば、1億円以上の値段が付くといわれていた別荘に時々来て、僕と鼻を合わせてくれたのはでかいスタンダード・プードルのパブロフ君。

 

 彼の庭には、プールと大きなハンモックがあった。僕んちと較べるとと、すごくデカくて立派だった。パブロフ君も、トイ・プードルしか知らなかった僕は、ぼくの体高の3倍もあるでかいプードルが、トイ・プードルと全く同じように刈り込まれていてビックリしたんだ。スタンダードも、プードルは同じカットだったのだ。でもちょっと似合わなかった。

 

 他には、アンナちゃんの家の隣の家に来ていたデカイ真っ白なピレニアンのマリリン。彼女は意志が強くて、動かないときめたら、マリリンのお母さんが力いっぱいひっぱても、地べたに座ってびくともしない。

 

 本名はイチゴちゃんなんだけど、お父さんがミルクちゃんと呼んでいた、よく吠える白い犬はマルチーズだったし、後になって現れた、僕を見つけるとよろこんで走って飛び出してきていた後輩のコロちゃんはミックス。それにロールスロイスがあるペンションには、大きなイングリッシュ・シープドッグがいた。さらに後なって姿を見せたアリスちゃんはヨークシャーだし、みんなシュナウではなかった。

 

 大室山のほうに登っていく散歩の帰り道に通る、ジャーマン・アイリスがいっぱい咲いたうちの犬は、ラブラドール。僕が通るのを、お留守番をしながら毎回、二階の窓から羨ましそうに見下ろしていたのは、ラブちゃんという名前のゴールデンだったり…。

 

 だから、僕はシュナウザーの臭いを忘れかけていたんだ。

 

 ある日、お父さんとお母さんの3人で、伊豆高原で有名なテディベア美術館に行った。でも、僕は入れなかったから、スバルの中でつまんないお留守番。

 

 美術館のお客さんは、若い女の子達が多いから、僕がスバルの中に座っているのを見つけると、いつもの「キャー、カワイイ、ヌイグルミミタイ」が始まる。なでられるのは大好きだから、少しだけ開けてある窓の隙間から、僕は鼻を出して臭いを嗅ぐ。

 

 美術館はそれほど面白くはなかったらしく、お父さんとお母さんは、あまり僕を待たせずにスバルに返ってきた。

 

 

 

 つまんないから、ちょっといろいろ見て行こうかって、お父さんが言った。美術館の近くに、何だか、いろんなものをいっぱい売っている、素敵な木造のお店があった。これが、ローズテラス。ここにでも入ってみるかって、お父さんが言った。でもヤッパリ、僕はスバルで留守番だった。つまんなぁと思いながら、うとうとしかけた。

 

 そのとき、お父さんが、早足で戻ってきた。なんだろうと思って窓の外に鼻を出したら、いきなりドアが開いた。僕は、お父さんに抱かれて、その店に入った。バラの香がするところだった。お父さんが、降ろしてもいいですかとお店の人に訊いていた。いいですよ、ってその女の人は僕が床を歩くのを許してくれた。

 

 そのときだ、美人のシュナウザーが僕の目の前に現れたのだ。僕はビックリした。そして、懐かしいシュナウの臭いをかいだのだ。それがアミちゃんだった。

 

 アミちゃんのほうが、すこし僕よりお姉さんだったと思う。僕はうれしくなって、アミちゃんが店の中をどんどん走るのにくっついて追いかけた。お店の人も笑いながら、二匹のかけっこを見ていた。僕は伊豆で初めて会ったアミちゃんが大好きになった。シュナウは、まだここでは珍しくて、なかなかとお友達には会えないんですよといっていた。

 

 大体、店の中の様子がわかったところで、いろいろな外国の小物達とか、ジャムだとかの他に、もっと魅力的なものを僕は見つけた。それは、バラの香りのするアイスクリームだった。大好きなアイスクリームだから、匂いで僕には直ぐアイスクリームだとわかった。

 

 テラスでだったら、犬も一緒に食べられるんですよとお店の人が言った。本当は、犬はお店の中は歩いてはいけなかったんだけど、アミちゃんがシュナウだったから、僕は特別に許されて店の中を歩くことができたのだと、そのときやっと気がついた。

 

 お父さんは、ばらの香りのするアイスクリームを買ってくれた。そして、店の前の木陰のテラスで、僕たち3人はそれを食べ始めた。楽しかった。

 

 そんな時、僕は、もうアミちゃんのことを忘れていた。そうと知ったら、アミちゃんには怒られそう。お父さんと店の人は何だか親しく話していた。

 

 その店の二階に、「土火天」という陶芸家の作品が展示してあって、ヨーロッパにいらしたことがない方がお造りになったんですよと、店の人が説明していたミニチュアのヨーロッパの町がお父さんのお気に入りになった。素朴だけど、人がよく捕らえられている作品だとお父さんが言っていた。。

 

 その後、ローズテラスは、僕達、みんなのお気に入りのお店になった。僕は、美人のシュナウザーのアミちゃんに会えるし、バラの香のアイスリームは食べられるし、みんなと一緒だったし、僕に楽しい店になったのだった。

 

 伊豆急の線路を越えて、南に行くときには、何度かこのお店には連れて行ってもらった。

 

 先日、お父さんが電話したら、心臓が悪かったアミちゃんは天国に行ってしまっていた。僕の初恋は、実ることなく空に消えた。

 

P.S.

ローズテラスのURLは http://www.roseterrace.co.jp/ です。よかったらのぞいて見てください。

 

三章 青年の犬のころ( 3 / 20 )

23.松川湖

松川湖.jpg

 

 

 僕のお気に入りの遊び場をいくつか紹介します。

 

 伊豆高原の僕んちの近くには、「さくらの里」があって、何度もお散歩に行きました。この「さくらの里」話は、これからの僕のひとりごとの中にも、何度も出てくると思います。

 

 今日は、僕がかなり気に入っていた場所のお話。ちょっと家から離れていて、スバルで20分ぐらいかかるところで、トンネルを通っていくのです。僕がトンネルっていうことろを通ったのは、ここが初めてではないのだけど、明るい陽ざしの中から、急に真っ暗なトンネルに入ると僕はビックリした。いつもは聞こえないスバルのゴウゴウっていう音も大きくなった。

 

 みなさんは、犬用のシートベルトって知ってます? お父さんが僕のためにシートベルトを買ってくれたんだ。胴輪のような、僕の首と背中と前足を平らなベルトで覆ってくれる。僕の両方の前足がすっぽり入って、カチッとワンタッチで体に付けられる。

 

 その首の所に、大きな布の取っ手と、リングがあって、そこにリードをつければ、そのままハーネスになってお散歩が出来る。僕が駆け出しても、リードが体全体にブレーキをかけるので、首輪の時のように首がしまって苦しくならないすぐれものだった。

 

 このシートベルトを僕がつけて、スバルの本物のシートベルトを、そのリングに通して固定すれば、僕はちゃんとしたシートベルトをつけたことになる。急ブレーキを踏まれても、助手席の前の空間にドンと投げ出されることはなくなった。僕は本当は助手席が大好きなのだけど、このブレーキで落っこちるのがイヤで、お母さんに譲ったりしていたんだ。

 

 このシートベルトのおかげで、僕も遠出ができるようになった。

 

 最初に僕にこのシートベルトをつけて、お父さんが連れて行ってくれたのが、松川湖っていう湖だった。伊東を流れる松川の上のほうの谷に、奥野ダムっていう石を積み重ねたロックフィル・ダムがあった。このダムに溜まった水が作り出したのが松川湖だった。そこは公園になっていて、広い草原が広がっていた。

 

 僕たちがスバルを止めて、大きなログハウスの所から見下ろすと、湖と周りの公園は、とても広い。そして、下まで降りる階段も急そうで、僕はしり込みをしていた。お父さんは、僕用のシートベルトにリードをつけて、さあ行くぞって、その急な階段を降りだした。僕は急に怖くなって、止まってしまった。だって、ちっちゃい時にうちの階段の上から下までおっこった嫌な思い出があるから、体が動かなくなった。階段は嫌いだったのだ。特に下りは怖い。

 

 お父さんは僕をひっぱていた。しょうがないから、一歩ずつ僕は降りていった。降りるとそこは広い野原と、広い湖が広がっていた。

 

 僕は早速、広場の草原にオシッコをして、匂いをつけて、回りを嗅ぎまわった。いっぱいワンちゃんのにおいがしている。友達に会えるぞと、僕は元気が出た。誰もいなかったから、僕のリードをお父さんは離してくれて、自由にその草原を走り回れた。とても広くて、気持ちよくて、お父さんとお母さんをほったらかにに、草原を夢中で駆け出していた。そして、湖まで行ってみた。静かな水のうえを風が渡ってきて、気持ちいい。近くには魚釣りの人がいて、長いさおを、湖に向けて静かに待ったいた。

 

 僕は、近くの草原をみんな走ってしまったので、どこかに行こうよって、お父さんたちに近づいた。お父さんは、じゃあ探検してみようって言って、広い公園をダムの方に歩いたり、つり橋を渡ったりした。でも、ワンちゃんは見つからなかった。あのオシッコの匂いからすると、きっといっぱいワンちゃんたちが来ているに違いないと僕は思ったのだけれど。

 

 僕は、ドンドン、さっきオシッコの匂いがしたほうに、みんなを引っ張っていった。それは、ダムに流れこんでいる川の上のほうに向かっていく道だった。

 

 ザワザワザワと音がする。歩いていったら、その先にはもう道がなかった。川は勢いよく、湖に流れていた。そして、その川の中には、三つほどの大きな石がおいてあった。お父さんが、飛び石だって言った。僕は何だか分からなかった。

 

 お父さんが、ホラって言いながら、岸からはじめの石に飛び移った。さらに、お父さんは跳んで向こう岸まで行ってしまった。お母さんと僕は、こちらでお父さんが向こうの岸を登っていくのを見ていた。

 

 僕は父さんみたいに川を飛びたかった。ザワザワザワと勢いよく水は流れているし、僕には最初の石にだって飛べなかった。怖かった。でも行きたい、お父さんのほうに。隣のお母さんを見上げた。目に力を込めて、僕も行きたいようって言った。

 

 向こうの岸から、お父さんが石を飛んで帰ってきた。そうか、まだチェルトには無理かなって言った。それで、ハーネスをつけた僕を抱いて、その川を石を飛んでわったった。お母さんも飛んできた。これでやっとみんな一緒になれた。

 

 その道を登るとそこは、広い草原になっていて、ワンちゃんたちが何匹もいたのた。ヤッターと僕は叫んでワンちゃんたちのほうに走っていった。みんな初めてのお友達だ。みんなが僕の周りに集まってきて、ご挨拶。僕は大きな犬でも怖くなかったから、ドンドン、挨拶をしてまわった。ゴールデン、ラブ、シェパード、ミックス、セロちゃんに似たセッターなんかもいた。僕はうれしくなった。

 

 お父さんが、ここはドッグランになっているんですかって、他の人に聞いていた。ここは犬が逃げられないから、天然のドッグランになってるんですって、その人が答えた。みんなが追いかけっこをしながら、走り回っている。僕もみんなと走りたい。みんなと一緒に走り始めたけど、まだチビだった僕はみんなにはかなわない。

 

 その中にジャック・ラッセル・テリアがいた。体の大きさも、そんなにシュナウと違わない。このワンちゃんと、僕は友達になろうって追っかけた。でも、その仔はとても早くて、おおきなワンちゃんたちもかなわない。だから僕の周りを、その仔はビュンビュン、走り始めた。目が回ると思った。早かった。

 

 僕の初めてのドッグランは、こうして松川湖で始まった。あそこに行けば、いっぱいワンちゃんに会えるし、リードもはずしてもらって自由に走れるから、大好きなところになった。

 

 でも、僕には問題があった。あの飛び石は僕は飛べなかった。その日の帰りも、みんなと、また会おうねっていって別れてから、僕はスバルのあるほうには渡れなかった。お父さんに抱いてもらって、やっと川を渡ってきた。本当に楽しかった。

 

 こんなきっかけで、松川湖には何度も出かけることになった。そんな中に、大変なことも起きたのだけど、そのことはまた話します。

 

 

 

徳山てつんど
作家:德山てつんど
M.シュナウザー チェルト君のひとりごと  その1
5
  • 0円
  • ダウンロード

22 / 44