■■■ 5 ■■■ 連鎖
白い部屋では、清掃が行われていた。
『ハカセー。カレ、大丈夫でしょうかー?』
部屋の中央に設置された白いイスが、合成音声を発する。
博士と呼ばれた白衣の男は、真っ赤に染まったモップを片手に首をかしげる。
「さあ? ダメじゃないかな。なんだい、シーマ君は彼が心配なわけ?」
白いイスは考え込むかのように、大きなディスク部分をくるくると回す。
『だってー。カレ、ここに来るのもう5度目でしょう? あんなにしょっちゅう中身が入れ替わってたら、身体の方に不可がかかりすぎて壊れちゃうんじゃないかって思ってー』
「そうだねぇ。どうしてあのボディは、そんなに人気なんだろうねぇ。人間、顔がイイっていうのも善し悪しだよねぇ。ほかのお客さんと違って、彼の場合は大抵、合意の上じゃないから、こうやって毎回、施術後、無用な死体が出ちゃうしねぇ」
『ハカセは、ごくフツーの見た目で良かったですね!』
「……シーマ君。シーマ君の人工頭脳も隣の部屋のターサ君のと入れ替えてあげようか? ドライバー1本で済む分、人間よりずぅううっと簡単にできるんだよ?」
『いやぁああ! ごめんなさいハカセ。ハカセは世界で一番かっこいいですー!』
「シーマ君、微塵も心の籠もってないお世辞は、誰の心にも響かないよ?」
『籠もってます。籠もりまくってますうー!』
「はいはい。じゃあ、シーマ君もアームあるんだから、少しは手伝ってくれるかな? 血ってさ、時間が経つとこびりついて落ちにくくなるんだよ。午後からのお客さんが来るまでにキレイにしないとねぇ」
『はぁあーい!』
「じゃあ、シーマ君。次の施術もがんばってね」
シーマ君と呼ばれた白いイスは、もう1度無邪気な返事をした。
END