結局のところ、一つ年下の理史(まさふみ)とは、幼稚園から高校まで一緒ってことになった。
理史と私は同じマンションでしかも隣同士なわけだから、その歴史は長い。
おまけに、マンションの間取り上、私の部屋の壁一枚向こうが理史の部屋なのだ。
こうなってくるともう、理史と私は姉弟みたいなものだ。
うん、そう。
理史は弟。
――弟、なはずなのだけど。
「莉子、シャーペン貸して」
「……シャーペンって。あんたいったい、何しに学校に来ているのよ」
二年の教室だっていうのに、理史は物怖じすることなくその入口に立っている。
私は理史にそこで待つように言ったあと、急いで自分の席に戻りペンケースを開けた。
何の因果か、一年の理史のクラスと二年の私のクラスは隣同士だった(あぁ、家だけだなく学校でも)。
その気安さのせいか、高校に入ったとたん、理史は忘れ物常習犯になった。
やれ、コンパスだ定規だ、辞書だ美術の道具だの。
確実に貸してくれる相手を確保したとばかりに、利用してくるのだ。
忘れるのは、勉強道具だけじゃない。
あろうことか、お弁当まで家に忘れ、おばさんに頼まれた私が理史の教室まで届けに行くなんてことも、決して少なくはないのだ。
二年の女子が、一年の教室(しかも相手は男子)に行くのは、何かと目立つ。
ちゃっかり私よりも背が高くなった理史は、小さな頃からのほよよんとした顔つきにもかかわらず、その造りはそれなりにいいため、一年女子のあいだでは密かに人気があるのだ。
そして、その人気は爆発的でないが故に本気モードの子が多く、このところ立て続けに「もしかして、理史くんの彼女さんですか」なんて、真剣な顔で聞かれてしまっていた。
勿論、毎回きっちり自分の立場(幼馴染で姉的存在)をアピールするわけだけど、なんというか、だんだんと苦しくなってきた。
これはひとえに、私の問題だ。
私の気持ちの問題なのだ。
理史を、弟と思えなくなっいている私の。