夢桜

*
 夢を見た。
 夢の中には大きな桜の樹があった。
 その桜の樹の下。あの子が居た。
「翼っ」
 私は名前を呼ぶ。
 翼は振り返らない。
 あの日以来、行方不明になってしまった幼なじみ。
 どうして私は、受け入れてあげられなかったんだろう。大事な幼なじみだったのに。
 私の声は翼には届かないようだ。何度名前を呼んでも、近づいても、翼は振り返らない。
 どこからか、不思議な格好をした女の子が現れる。
「レポーロ」
 翼は彼女を見て、幸せそうに微笑んだ。
 彼女は翼の手をとって、どこかへと歩いていってしまう。
 待って行かないで。
 追いかけようとして、目が覚めた。
 翼はもう帰って来ないのだろうか。そう思った。
 耳元で誰かが囁いた。


「翼はもう、私のものだよ」
小高まあな
作家:小高まあな
夢桜
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