彼の背中

「え・・・何とか言ってよ!」

今度はあたしが不安になる。

どうしてだまっているの?本当にあたしの思い描いていた最悪のシナリオ通りなの?

あたしは、もしかしたらリュウは他の女の子と付き合っているかもしれないと思いはじめていた。

だって、リュウは背も高いし、頭もいいし、しかも顔だって悪くない。

そんなリュウがあたし一人のものでいられるわけがないもの。

あたしは、一番じゃなくて二番でもなくて、三番目くらいの女のかなあって、

勝手に想像してはここのところずっと落ち込んでいたのだ。

「あのさあ、おまえ、俺のことそんなにうたがってるわけ?」

「うたがってるって・・・そんな、うたがいたくはないけどさ・・・。

あたし、何のとりえもないし料理だって出来ないし、足も遅いし・・・。

いつも周りから人気のあるリュウがあたしだけのものじゃないっていつも感じていた。

信じられないくらい幸せだった。

でも、あの日、リュウが他の知らない女の子といるところをみて、

なんか、やっぱりなっていうか、仕方がないのかもって、諦めがつくっていうか・・・」

だんだん自分が情けなくて、あたしは必至で涙をこらえた。

リュウをうたがっているわけじゃない。

あたしが、あたしの魅力がたりないのがくやしいんだ。

もっとかわいくて、もっと頭が良くて、もっと人気のあるもてもてな女の子だったら

きっとこんなばかみたいな嫉妬もしないんだろうな。

くやしくて泣きそうになった。

リュウの背中が動いたかと思うと、リュウの顔があたしの真正面に向いていた。

「正直に言うけどさ、あの日、その友達に告白はされたよ。

けどな、断った。

だって、これにはおまえがいるじゃん。

俺のこと、こんなに好きになってくれるのもおまえだけだろ?」

「リュウ・・・!!」

あたしは、リュウのその言葉が本当に嬉しくて、ついこらえきれなくてなみだをこぼした。

「ほらあ、ずっと思ってることを口にしないで、どんどん悪い方向に考えるのはお前の悪い癖だって、

前から言ってるじゃん」

そのなみだをリュウが制服で優しくふいてくれる。

「ありがとう」

あたしは素直に、リュウに感謝の気持ちを伝えた。

これからは、ちゃんと、気になったことは逃げないで口に出そう。

もっと自分に自信を持とう。

このあたしと一緒にいてくれるリュウと言う存在をもっと信じようって心から思った。
荒久 連
作家:荒久 連
彼の背中
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