程なくして、俺に泥棒猫が土下座していた。
「すいませんでした……」
背中のひょうたんの方が大きくて、覆い被さられている感じがする。
「ホントにもう! 今度こんなことしたら花見に連れてきませんからねっ」
「そそそそそそれだけは! それだけは、どうかお許しをっ」
猫の頭が地面についていた。
「うちのミモリがすいません……もし、よろしければコレを使ってください」
女の子が頭の後ろをごそごそして、一枚の絆創膏を渡してきた。
「あ、ありがとう」
絆創膏には、デフォルメされたウサギのキャラクターがプリントされている。
少しもったいない気もしたけれど、早く使ってくださいと言いたげなイナバの視線に、俺はついつい負けてしまった。
絆創膏をつけた手の甲をさすっていると、イナバが満足そうな笑顔になった。
「えっと、イナバさん? 花見ってなんですか?」
「一年に一度、処暑の夜にだけ咲く桜の樹があるのです。ミモリと一緒に毎年来ていて、これから行く所だったのですよ」
俺の目の前にいる女の子は、電波か何かを受信しているようだ。
残暑が残る今の時期に桜?
しかし、イナバの表情からは、どうも嘘をついているようには見えなかった。