雛菊の剣(#1)/お前が笑っている時、俺も笑ってる

「あ!?」
雛菊は途方に暮れてしまった。

昼休み。雛菊は陽子と一緒にお弁当を食べたが、一言も話はしなかった。もう昼休みも終わろうとする時間に雛菊が教室を出た。雛菊をつける陽子。雛菊は階段を上り、屋上へ出た。陽子は、雛菊が閉めた屋上へのドアをゆっくり開けようとしたが、ドアはびくともしなかった。

雛菊が一人屋上に立っている。祈るように両手を組み、目を閉じてつぶやいた。
「いるのなら出てきて」
雛菊は背中にあの背中が触れるのを感じた。
「振り返るな」
「それがあなたのルールなの?」
「お前を守るためだ」
「私を?」
「そうだ」
「私を守るためにあの人たちを殺したの?」
「…」
「答えて」
「…」
「私には覚悟ができています」
「…」
「私の彼氏が殺人者だとしても愛する覚悟ができています。自首する気になったら言ってください。私はあなたを祝福し、あなたについていきます。私の涙はもう涸れてしまいました。もう私は泣きません」
「話はそれだけか?」

「あなたの名前を教えて」
「名前を教えるわけにはいかない。『影』とでも呼んでくれ」
「ハゲ!?はげてるの!?」
雛菊はポロポロと涙を流す。
「涙は涸れたんじゃないのか?」
「あまりにも意外だったから」
「ハゲじゃない。影だ。か・げ」
「影…可愛くない」
「ただの呼び名だ」
「そういうわけにはいかないわ。そうだ!二人の意見の間を取って、パゲってのはどう?」
「パ、パゲ!?」
「そう、パゲ。決定!」
「二人の意見の間って…まあいい、好きにしろ」
「パゲはどうして私を助けてくれたの?」
「世の中には知らない方がいいこともある。聞きたいことはそれだけか?」
「どうして顔を見せてくれないの?」
「俺が誰だか知らない方が、お前を守りやすい」
「もし私を守ることができなかったら、どうなるの?」
「兄貴の一人が俺を殺しに来る。兄貴に殺されるか、兄貴を殺して兄貴の仕事を奪うかのどっちかだ」
「そんな…そんなこと…」
「分からなくていい。知れば知るほど、不幸になる」
「パゲは、私のこと好き?」
「ああ、好きだ。お前が笑ったり、微笑んだりしてるのを見てると、自分の運命と向き合える」
「ずるいな」

「?」
「パゲは私の笑顔を見てるのに、私はパゲの笑顔を見てないんだよ」
「お前が笑っている時、俺も笑ってる」
「そっか」
雛菊が微笑んだ。彼も微笑みを浮かべる。
「お前の友達が心配している。行ってやれ」
雛菊の背中から彼が消えた。屋上入口のドアが開き、陽子が現れた。
「雛、何してるの!?」
雛菊は駆けより、陽子に抱きつく。
「パゲと話してたの!」
「パゲ!?」

合唱部の練習が終わり、陽子はいつものように雛菊と帰ろうとするが、雛菊は陽子を引き留める。
「どうしたの?」
「パゲがまだ出るなって」
「?」
「正門に豊高の不良がいるの」
「え!?」
「私たちを探してるのよ」
「そんな…どうやって私たちを探すのよ」
「あの時の中学生と警官を連れてきてるって」
「警官が不良の言うこと聞いてるってわけ?」
頷く雛菊。
「そんなばかな」

「お願い。少し待って」
雛菊のお願いだよぉな顔に陽子が頷く。

校庭で不良二人と中学生がカラスを追っている。カラスはスマホをくわえて飛んでいる。あの時の警官がジャージ姿で門のところに立っていた。その顔は狂気を帯びていて、ふらりと門から去っていった。カラスはドアが開いていた部室に飛び込んだ。カラスを追って、三人が部室に入った途端、ドアが閉められた。真っ暗な部屋の中、ドアの辺りから声がする。
「あいつらの死体を残しておいたのは警告だった。お前らも死にたいのか」
「シネー!シネー!」
カラスが騒ぐ。クスクスと笑い声が聞こえる。
「お前、バカじゃないの?暗闇だと思ってるかもしれないけど、はっきりと見えてんだぜ」
「俺にも見えてるぜ、その可愛いクリクリヘアーが」
「俺もだ。お前一人で俺たち三人とどう戦うつもりだ?」
「お前らは上の命令で動いているのか?」
「何のことだ」
「仲間の仇討ちってことか…他にも仲間はいるのか?」
「いっぱいいるぜ」
「なるほど。お前たちを殺せば、仇討ちは止まりそうだな」
「コロセー!コロセー!」
「ふざけたことぬかしやがって」
中学生がサバイバルナイフをパゲの心臓めがけて突き刺す。渾身の力をこめて突き出されたサバイバルナイフはパゲの胸に当たってはじけとんだ。パゲが右フックを中学生の側頭部に叩き込むと、グシャッという嫌な音がして中学生は倒れ、その体は意味なく痙攣していた。
「貴様…」

愛のままに我がままに
作家:愛のままに我がままに
雛菊の剣(#1)/お前が笑っている時、俺も笑ってる
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