「眠り病にかかるとは、なさけない」
「すみません」
部長が怒っていないのはわかる。目の下のクマが薄らと見えた。
「原因は摘み取ったから」
意味が通じてないとわかったのか部長が言葉を添えてくれた。
「花壇に咲き乱れていたマーガレットを覚えてる。あれを撤去した。花に罪はないけど眠り病をまき散らす以上ほってはおけないでしょう」
「まさか花粉が原因?」
「そう。マーガレットが突然変異したのか、それとも故意に何者かが花粉に細工したのか」
僕が原因ではなかった。
「他の生徒はどうなりました」
「心配無用、原因がわかれば対処魔法もあるし」
部長の力は折り紙つきだ。力を持たない僕とは違う。
授業再開か、少し残念な気がした。
「花粉症の季節、たちの悪い花粉が我が校にやってきてしまった。そうそう、これからは念のためマスクをしておいて」
右手の呪縛をとき、部長が魔術書を抱えベッドを離れる。
「ありがとうございます」
忘れないうちに感謝の気持ちを素直に伝えた。
「特別な魔法を使い、圭介の理想の相手を救出に送った。どうだった彼女」
いたずらっぽく舌を出し部長が笑う。理想の相手。そうかもしれない。
「部長。今度、恋愛相談にのってくれますか」
「もちろん。ただし、美優はダメ。あの子は小悪魔だから」
僕の気持ちを知ってか知らずでか、いいたいことだけ言って部長が退散する。感覚の戻った僕の右手には、由紀から渡されたハンカチが握りしめられていた。