星を見つけた君ハートを見つけた僕

プロローグ( 3 / 7 )

「じゃ、グレープフルーツを買うの、付き合ってくれる?」
彼女と一緒に居るのが嬉しい僕には、心に電気が通ったみたいに、心の接点が復活した。

「うん、僕でよければ」と、言い終わらないうちに桜が左少し斜め前を足早に歩いて行く。
 どっちが男なんだか分からないな。なんて思いながら小柄な彼女に追いつくのはそれ程時間はかからなかった。
 桜の右の腕に、そっと後ろから合図して、振り返った瞬間に位置を入れ替え、右側に彼女の位置を誘導し、並んで歩く。
「何?」
「ううん、なんでも」

 緑のアーチをなすポプラ並木を仰ぎ見る余裕もない様子で、桜はぐんぐん進んでゆく。化粧箱を探す女冒険家さながらの勢いだったが、その時ミュールのヒールがアマグレートに挟まり、今度は膝とアマグレートがキスをしていた。手を差し伸べる暇もなかった。

「うっ」
うずくまる彼女に大丈夫って声をかけると、涙を湛えた眼で見上げ、頷くのが精一杯の様子だった。

そこでしばらく風が痛みを運び去るのを待ちながら、一緒にポプラ並木に腰を下ろして話を始めた。

プロローグ( 4 / 7 )

「どうしてそんなに急ぐんだよ。桜はウサギを追いかけてる訳じゃないよ」
「そう?ここは不思議の国よ。グレープフルーツも売り切れちゃうわ」
「ははは、ほんとにそんな理由で急いでたの?そうは見えなかったけど・・・・・・」
そう言った途端、桜の作り笑いが消え真面目な顔になり、
「本当のことを言うと、ちょっと前にぶつかった時の口実は嘘なの。早く貴方に会いたかったから家を走って飛び出して来ちゃったのよ」
 なんて頬を名前の由来の花びら以上に桜色に染めて言ってくれた。
 僕もなんだか頬が赤くなるのを感じつつ、
「そう、とっても嬉しいけど、でもその後そんなに早く歩かなくてもよかったじゃない?」
なんて愚問だったかな、と思いつつ聞いてみると、
「正直になれなかった自分に腹が立ったのもあるけど、本当は貴方の歩幅を感じたかったの」
「それじゃさ、僕に桜の歩幅を教えてよ。それがこれからの僕の歩幅になるからさ」

「うん、ありがとう」

 と言って、立ち上がろうとする桜に手を差し伸べて、少し強めに握ると応える様に握り返してくれた。

「じゃ、嘘じゃないように今日のデートは、グレープフルーツの特売のお店を見つけに行こうよ」


プロローグ( 5 / 7 )

なんて言って、手を繋ぎながらこの街を探索したんだっけ。それで見つけたのがこの少し冷房が強めのスーパーだったよな。
 桜は今何しているのかって?
 僕の子供の世話をしてくれているんだ、お腹の中のね。
 あと一ヶ月で「我夢」と挨拶出来るんだ。
 これが僕たちの子供の名前なんだけど、少し変わっているでしょ?ガムなんてね。
僕たちの夢、希望って意味なんだけどね。


そのスーパーで見つけたのはガムって訳じゃないんだけどね。
 その時ふと思いついたアイデアが、アーモンドを口でキャッチボールするみたいに、相手に投げて口で受けて二人で楽しもうって思ったんだ。

「あっ!僕はこれが好きなんだよね。アーモンド。これも買っていいかな?」
「どうぞ、でも少し変わった好みね。ビールなんか飲んでいるんじゃないの」

 その時桜はふと、何かに気付いたらしく、僕に更に楽しそうな顔を見せてくれて、込み合うレジにカートを押して行った。
 そんな会話を交わしながら、十二個のグレープフルーツをかごに入れている桜を見ていた。

プロローグ( 6 / 7 )

 そして十二個のグレープフルーツを一袋に詰め込み、もう一袋にアーモンドを入れて、
「これは君が持っていて」と言ってアーモンドの袋を差し出した。
「こっちは僕ね」と言って、グレープフルーツの袋を持ち上げた。それなりの重さだった。

 彼女はそれなりに重そうな事を隠している、僕に気付いているみたいで、でも嬉しそうに話を続けた。

「アーモンドなんてホントは好きじゃないんでしょ?」
なんてそれも見抜いているらしく、桜は僕に悪戯を企んでいる子供のような顔を見せていた。

「だから十二個も買ったのよ」なんて言って更にカラカラ笑う。

「ごめん、アーモンドはそんなに好きじゃないよ。でも桜の嘘と相殺するのかなってね」
 驚いた顔をした桜も可愛かった。
「そんなのいいのに・・・・・・」って少し涙を浮かべて考え込む桜もやはり可愛かった。

 その時、この公園に辿り着いたんだ。夕日を背中に受けるひとつだけベンチのある公園に。


星兎心
作家:星兎心
星を見つけた君ハートを見つけた僕
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