星を見つけた君ハートを見つけた僕

第2章 回想( 3 / 12 )

「うん、ありがとう。ごめんね。亜紀にこの星見せなきゃ」って言って頬を染めた膝小僧ほどでもないが、桜貝の色になった頬に笑顔を浮かべて足早に友達の方に走っていった。
 それを見て、大丈夫だなと思うよりも先に、可愛いなって思いながら泳ぐと決めていたことを思い出し、打ち寄せる波を飛び越えながら腰の高さくらいまで行って、得意のクロールで泳ぎ始めた。
 気分の高揚は本物だった。それを太陽に暖められてはいるが僕の沸騰した血液よりは温度の低い海水が心地よく、冷静さを取り戻させてくれた。
 十分ほど興奮を冷ましながら泳いだ後、連れの総司郎たちの元に戻っていった。

「先程のお相手はどなたですか?」なんてにやけ顔の総司郎が僕を冷やかしながら攻撃してきた。
「うん、転んだところを思わず声掛けたんだけどね。誰なんだろう?」
「なにやってんだよ・・・・・・。じゃ、今から先生が課題を出しま~すっ。俊介君。彼女の名前を聴いてくるように。以上!」と担任の武藤先生の真似をして「以上!」という口癖をしっかり付け加えて僕の背中を後押ししてくれた。
「そうだね。よし」と言って武藤先生の体重よりちょっと軽い友情の義務感という勇気を得て、先程の彼女を探しに浜辺を少し歩き回った。

 しかし、彼女は直ぐに見つかった。他の人より数段煌めいていたから、こんなに沢山の人ごみの中でもあなたしか見付けられないと言った感じで再会が出来た。


第2章 回想( 4 / 12 )

「あの~っ、膝は大丈夫だった?」というとっても声をかけやすいアイテムを持っていたので、再会は始め思ったより容易だった。
「あっ!先程はありがとうございました」なんて今度はちょっと冷静な対応に驚いた。
「いや、僕はなにもしてないよ」
「うそ~っ、ハートをくれたじゃない?」
「あっ!そうだった。ごめん」と言ったが、少し遅かった。
「あれは本心じゃなかったのね」なんてメロドラマの主人公よろしく、嫉妬している風体を装って、僕をいじりだした。

 その頃の僕には余裕と言うものがないので、このチャンスを!という焦りから、
「えっ、いや、あの、そんな事ないんだけど・・・・・・」と彼女が転んだときに思わず声をかけたのと同じ素直さで、困惑顔をしてみせた。
 彼女はそのちょっと不自然で不調和な雰囲気を楽しんでいたみたいで、上目遣いで僕を見ていたが、我慢しきれなくなってあの時の笑顔を取り戻してくれた。
「冗談だよ。あははっ。先程はありがとね」と言ってペコリと音がするような綺麗なお辞儀をして感謝を表してくれた。
「いや、こっちこそごめん。忘れたわけでも嘘ついたわけでもないんだけど・・・・・・」といって少し苦手なゴーヤチャンプルーを食べた時の様な顔に、笑顔のスパイスを混ぜた顔をした。
「今度同じ事したら怒るけど、今回は許してあげる」なんてとっても素敵な、思っても見なかった返事が返ってきた。
「今度って事は、僕たちまた会えるの?」と飲み込んだゴーヤの事を忘れてしまったような笑顔だけの僕はカメレオンよろしく、顔を笑顔色に塗り替えた。

第2章 回想( 5 / 12 )

「ここにハートをつけてもいい?」と彼女の隣を指し示した。
「そこは、亜紀のハートがあるけど、今度はあなた色のハートが欲しいな」って言ってくれた。
 彼女の隣を友情から恋愛に変えてくれたのかな?ってちょっと疑問を持ちながら、
「ありがとう。じゃ、お言葉に甘えて」と言って彼女の隣にもう一度ハートをスタンプした。
「ごめんね。まだ名前を名乗ってなかったね。僕は栗原俊介って名前。現在中学三年生なんだ」
「私は冬野桜って言います。同い年だね」って言って柔らかそうな右手を差し出す。その仕草がいかにも女性を感じさせ、妙に思春期の心をくすぐった。
「ありがとう」って言って僕はその小さな手の平を生まれたてのヒヨコを持つ時のように、優しく握り返した。やはりマシュマロのように柔らかかった。


第2章 回想( 6 / 12 )

「しかし、冬の桜ってなんか青いバラみたいに不可能の象徴っぽい名前だよね」って僕が笑って問いかけると、
「うん。でもそこには必ず夢があると思うから、私は気に入っているんだ」と桜さんは嬉しそうに応えた。
「そうだね、青いバラは実在するって話だしね」
「ええっ?ほんと?」
「うん、知り合いが見たって言ってた」
「そうなんだ。じゃ、冬の桜もいつか咲くかもね」
「うん、そうなるといいね。その下で君とまたこうして話がしたいね」
「あいては俊介君だろうか?」なんてちょっと悪戯顔で僕の眼を覗き込んでくる。僕は少し照れながら、
「その時にならないと解らないよね」と少し不服だが、正直に応えると、
「な~んだ」なんてちょっと場が白けた。
 そこで、話のベクトルを戻してみることにした。

星兎心
作家:星兎心
星を見つけた君ハートを見つけた僕
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