星を見つけた君ハートを見つけた僕

 この作品で僕は東京でかなり勇気付けられたものだった。ほんとにいい友達をもってうれしい。ありがとう。

 披露宴の後、ホテルの一室で桜と二人きりになった。
「なあ、桜。今日は疲れただろう?」と僕は桜に声をかける。
「ええ、でもまだ大丈夫」と力瘤が出来ない細い腕に力瘤を作る仕草をする。
「びんがたの衣装は今持っているよね?」と僕。
「うん、持って来たよ」と桜は応えてくれた。
「じゃ、僕たちの今のお願いを書こうよ」と僕は桜に提案した。
「ペンはあるの?」と桜が聞いてくる。
「うん、総司郎たちがちゃんと準備してくれたからね」と僕。
「じゃ、私から書くね」と言って衣装にうつぶせに伏してしまった。
「見ないで」というから僕は桜が何を書いているのか、解らなかった。
「じゃ、今度は俊介ね。こっちの楓の裏に書いて」と言って自分のお願いが見えないようにして僕にペンを手渡した。
 僕は書くことはもうずっと前から決めていた。二つあった。
 
「桜のお母さんに孫の面倒を見てもらえますように」それと、
「桜に星がみつかりますように」


プロローグ( 1 / 7 )

 季節感のない食材の並んだ店内の冷房に凍えながら、すれ違うちょっと素敵な女性に目を奪われた。
 それはあまり有名でもない普通の高校に通っていた当時、お付き合いしていた女性にどこか漂う雰囲気が、既視感を私の心に残したからかもしれない。
 そんなイメージを心に宿しながら、今夜の夕食の献立に並ぶ食材を選んでいた。

 その時、ふと目に留まったのが一つの無広告の袋にパッケージされたアーモンド達だった。


 再び彼女の近くで付き合い始めてまだ二週間目に当たり、もう一度呼び捨てにする所までは彼女に受け入れてもらえたのだが、いまだに彼女の好みの全てを把握できていない事に、少しの焦燥感が興奮にも似た感情で僕の心を満たしていた。

 僕は母親の影響で花の名前ぐらいは覚えている。この道にはカオリバンマツリの花が咲いていたはずだと、この道を選んで歩いてゆくとやはりとても心地よい甘い香りが漂ってきた。この香りが焦燥感を払拭してくれればいいのだが、そうもいきそうにないな。

 その角を曲がれば彼女の家までは直線で結ばれる位置に辿り着くな、なんて思いながら携帯電話を準備した。僕が玄関に着いた事を知らせる為に。


プロローグ( 2 / 7 )

 カオリバンマツリの香りの主張の強さを支点にその角を曲がろうとした時、向こうからも人が来ていたらしく、思わずぶつかってしまった。

「ごめんなさい」と向こうから先に声がした。僕は平気だったが、相手の方はお尻とアスファルトがキスをしていた。その柔らかい感触で女性だとは思ったが、それが彼女だったことはその時はまだ気付いてなかった。

「お怪我はありませんか?」とあの時怒らずに言えた自分は、やはり恋しているのだと後になって思ったりした。

 そして二人がお互いに気付いて、笑顔がはじけたのは言うまでもないことだった。
「あれ、桜じゃないか。そんなに急いでどうしたの?ダイエットに走っているって訳じゃないよね」
「ええっ・・・、だって今日は私の大好きなグレープフルーツが特売なのよ」
「そうなんだ。でもそれって僕との待ち合わせより大事って事?」なんて少し悪戯心と嫉妬心とが混在した言葉をぶつけてみた。

「うん、大事!」なんてウインクしながら笑窪を作ってみせる桜がそこに居た。
「ええっ!」って言った直後、その言葉の後に続く単語が真っ白な頭の中には浮かばなかった。真面目な僕はかなりショックで凄い顔になっていたみたいだ。

 更に深い笑窪と楽しそうな笑い声に僕は苦笑いするしかなかった。


プロローグ( 3 / 7 )

「じゃ、グレープフルーツを買うの、付き合ってくれる?」
彼女と一緒に居るのが嬉しい僕には、心に電気が通ったみたいに、心の接点が復活した。

「うん、僕でよければ」と、言い終わらないうちに桜が左少し斜め前を足早に歩いて行く。
 どっちが男なんだか分からないな。なんて思いながら小柄な彼女に追いつくのはそれ程時間はかからなかった。
 桜の右の腕に、そっと後ろから合図して、振り返った瞬間に位置を入れ替え、右側に彼女の位置を誘導し、並んで歩く。
「何?」
「ううん、なんでも」

 緑のアーチをなすポプラ並木を仰ぎ見る余裕もない様子で、桜はぐんぐん進んでゆく。化粧箱を探す女冒険家さながらの勢いだったが、その時ミュールのヒールがアマグレートに挟まり、今度は膝とアマグレートがキスをしていた。手を差し伸べる暇もなかった。

「うっ」
うずくまる彼女に大丈夫って声をかけると、涙を湛えた眼で見上げ、頷くのが精一杯の様子だった。

そこでしばらく風が痛みを運び去るのを待ちながら、一緒にポプラ並木に腰を下ろして話を始めた。

星兎心
作家:星兎心
星を見つけた君ハートを見つけた僕
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