3.
「え……あれっ!?」
気が付いた時には、黄昏に染まる田舎道の上で。
銀弥は、ただ一人ぼんやりと突っ立っていた。
「え、あれ!? 俺……今まで社にいて……え、えぇっ!?」
まさか、立ったまま寝てたとか!? そう混乱する彼の視界に、ふわりと桃色の花びらが一枚……。
「あ……」
思わず、目で追いかける。しかし、それはすぐに空に溶け、消えてしまった。
「……夢、じゃなかったのかな?」
ぽつりと、一言。そうして、なにげなくきっかけとなった伝承の本を出そうと鞄の中に手を伸ばし――。
「えっ!?」
そこには、桃色に輝く桜の花びらが積もっていた。
ボロボロのあの本は、何処を探しても見当たらない。
「あ――」
小さな、声。まるで銀弥が気付くのを待っていたといわんばかりに、変じた花びら達は黄昏の空に舞っていく。
『……ありがとう――』
舞い散る花びらの中に、小さく、可愛らしい少女の声が聞こえた気がした。
それは、ひょっとしたら夏の暑さが見せ、聞かせた幻だったのかもしれない。しかしそれでも、銀弥は小さく笑い、目に見えぬ少女へ言葉を送った。
「どういたしまして、真白様……」
そう、これは誰も知らない。
真夏の昼が見せた、サクラ色の名残夢……。
了