「ま、そんな所だね。へへへ。お母さん、成績の事は反省しています。努力しなかったと言う事が写しの成績表が届いていると思うので、解ってしまっていると思います。しかし、今回からアビゲイル先生に補習を見てもらう事になったので、来学年からは違ってくると約束します。自分の息子をもう一度信じてみない?なんてね。ほんと、次から頑張るからね。」と言って、見せびらかし専用の成績表と希望へのパスポートである補習通知をお母さんに見せたんだ。
アルリードもその見せびらかし専用と希望へのパスポートを覗き込んでいたんだけど、覗き過ぎて穴を開けるなよ、って言う前に覗くのを止めてくれたので一安心ってね。ま、穴が開いても明日が見える成績表に格上げされるだけなのかもしれないけどね。そっちの方が良いかな?なんてね。
「そうですか、明日から補習に行くのですね。解りました。次の学年で成績が上がっていなかったら、その時にまた考えることにしましょう。親の仕事をしなければいけないと思っていたのですが、次の機会までお預けですね。」
「親の仕事って?」なんて聞かなきゃ良かったんだけどね。
「親の仕事ってのはこれです。」
「ガツン!」って拳骨を一発、スパゲッティー入りの僕の頭を叩かれた!いたたたたっ。ちなみに何でスパゲッティーかと言うと、こんぐらかっているって事なんだけどね。そうなんだね。親の仕事ってのは、たんこぶを作るのがお仕事らしい。僕の息子にも作ってやるぞ!
「明日から心を入れ替えて勉強するのですよ。子供の仕事は遊びと勉強です。大人の仕事は労働と勉強です。遊びだけではダメですよ。お母さんもたんこぶを作ると言う労働はもう結構ですから。」
「は~い、反省しています。」
「はいもういいですから、早くお夕食を食べましょう。」ってたんこぶ一個で済んでほっとした。
「あのね、兄さんの成績は僕より悪いみたいだから少し真面目に勉強した方がいいよ。」なんて真面目に心配してくれるアルリードがやっぱり家族って良いなって思わせてくれるね。たんこぶもお母さんの心配の証だからね。
「今日の夕食は何かな~」なんて言いながら今日の扉は閉まるのでした。
まあ、この後布団の中で明日からの補習で手に入るかもしれない良い成績と言う希望の光に心を満たされていたから、なかなか寝付けなかったんだけどね。
でも、おやすみ~っ。
むむっ、何かが目蓋を刺激する!むむっ、お昼を待ちきれない太陽が僕のお母さんの体重より重たい目蓋を叩いているみたいだぞ。アリシアんちの雄鶏は今日は出張かな?いつもなら…って目蓋を開けてみると、完全に遅刻じゃないか~っ!目覚まし鳥が今日からバカンスだったのを忘れていたよ!アビゲイル社長はご立腹だろうか?そうだよね。怒っていらっしゃるよね。じゃ、このまま明日まで眠っていようっと。
なんてもう一度片目だけで時計を見たら、長針と短針を見間違えていたみたいだ。まだ少し時間があるのか。今十時四十三分って思っていたからね。実は八時五十四分の間違いだった。あと六分もあるよ。三度寝にはもってこいの時間だな。なんて悠長な事やっている場合じゃないんだよ!「遅刻だ~っ。」
なんて叫びながら頭に制服突っ込んでじゃなかった、制服に頭を突っ込んで、靴下に腕通してじゃなかった、靴下履いて、オナラを一発ひっておいて、顔洗って歯磨いて、朝食は朝日を充分に浴びた新鮮な空気とアビゲイル先生の寝ぼけた顔にしよう、って思いながら、階段を二段飛ばしで駆け下り、「朝食はいらないから~っ、行ってきま~す。」って玄関を飛び出すと、今日もキュートなアリシアが待っていた。
「遅刻常習犯の予定通りの行動ね。ウィズはいつも単純で解りやすくてステキ。」なんてそれほんとに褒め言葉かよって思いながら、時間がないので、「一緒に来る気?それとも冷やかし?あっ、忘れていた!おはよう。」
「おはよ、順番は逆だけど、ま、いいわ。つまり一緒に行ってもいいって事ね。」僕の寝起きの間の抜けた顔を見ても笑わないアリシアが一緒に来るって事はどう言う事か解らないまま「うん」って言っちゃった。
朝の僕の頭は風船みたいだからね。えっ?勿論中身が空っぽって事なんだけどね。軽いってのもあるし、軽率な判断しか出来ないって事なのかもね。ま、いいじゃん。ってそれが軽率なんだけどね。ま、いいじゃん、ほれまたそれ!なんてね。
アリシアと千鳥足じゃなくて駆け足で学校へ向かっていると、新装開店のお店が眼に入った。ふ~ん、今度チェックしなきゃね。なんて思いを空っぽの風船の中に詰め込みながらちょっとはみ出し気味の校門をくぐり抜けた。何がはみ出しているかって?そんな細かい事に気を回していると禿げちゃうぞ。
「アリシア、まずアビゲイル先生の所に行かなきゃいけないと思うんだけど、多分職員室にいらっしゃると思うんだ。」
「そうね、だったら図書室を探した方が良いね。」
「なんでそうなるんだよ~っ。」と疑問いっぱいの僕。
「だって、ウィズの勘は九割外れるからね。」って当然という顔のアリシア。
「え~っ、そんなに酷くないよ。八割くらいだよ。」
「それじゃ、譲歩して八割五分ね。」
「うん、それがいいね。じゃ、図書室だね。」なんて言いながら幽霊の出るかもしれない、本より埃の数のほうが多い図書室に向かった。
「えっへん、おっほん、ぶはっ、いっきしん、へ~っきしゅん、ぐじゅん」
「なんか盛大な音が聞こえない?」図書室に向かう廊下を走っていると、ガタンゴトンの音に混じりながら、何やら奇妙な音が聞こえていた。
何かな?と二人して図書室を覗き込むと、アビゲイル先生が図書室をサングラスが要るくらいピカピカな禿げ頭よろしく、床を磨いている最中だった。