堕ちこぼれウィズと魔法の成績表

ゆ、夢が叶うよ!( 4 / 11 )

ひ・み・つにしてよ!

 「そう、彼女の父親の血筋は東洋の忍者の出だ。魔術師としては二流と言われておる。では、その異国の文化に化け学と言うものがあるのをしっておるかな?」

 「化け学」という言葉は僕も聞いたことがあった。魔法を使えない人たちだけの文化で、魔法より劣っているとされて、この国では軽んじられ、使われていない事ぐらいは、いくら生ウニみたいな脳味噌の僕でも知っている常識だった。美味しそうだからって食べないでね。

 「はい、魔法より劣っている異国の文化ですよね?先生」とお茶も濁さずに応えると、

 「社長とお呼び!、いいね。よろしい。そうそう、そこがポイントなのだよ。ウィズ君!ここからが大切な秘密の部分なのだが、秘密に出来るかな?」と仰るので、好奇心から早速秘密という言葉の虜になった僕は身を乗り出し、声のトーンを少し落として「はい、秘密は守ります。」と誠意が伝わるように眼を見て言った。間近に迫るモテそうにない顔に頬も赤らめずにね。

 「うむ、よろしい。実は化け学が魔法より劣っていると言うのは一般的に言われておる間違った常識というものでね。真実を語ると一概に劣っていると言えないのだよ。」と少し得意げに瞳を煌めかせて仰った。問題の核心に迫る高揚感に満たされながら、僕はもしかするとホーリーみたいになれるのかな、と期待し始めていた。

 「君はこの成績表によると、攻撃系の魔法がからっきしダメみたいだが、この化け学と魔法をミックスする事で、攻撃魔法も使えるようになる。どうだ?少しはやる気が出てきたかな?」

 僕の胸は産まれてこの方感じたことのない程の期待感と希望で、ドッキンコと脈打っていた。眼からはキラキラ星が飛び出していたんじゃないかな?

 そして言葉が出ないほどの興奮だったので、大きく何度も頷いてやる気を見せた。頷き過ぎてしばらく頭がクラクラした。

ゆ、夢が叶うよ!( 5 / 11 )

社長に独占取材!

 「よろしい、それでは具体的な方法は明日から教えてあげよう。ここに補習に来ることにしておけば誰も怪しまないからね。学校の側にもその様に報告しておきます。補習通知も書いてあげるので、ご両親に渡しておくように。ただし!ここでの秘密は厳守する事!ご両親にもですよ。この方法が公になれば君はトランタンを見返してやる事が出来ないばかりか、更に馬鹿にされる事になるだろう。そして更にこの魔法社会全体のバランスをも崩しかねない事態にまでなるかもしれない。それ程重大な秘密だ。どんな事よりも秘密の厳守が最優先事項だ。わかるね?」と仰るので、僕は顔に水がかかったら眼を瞑るのと同じ素直さで、疑問を投げかけた。

 「はい社長、質問が三つあります。」

 「うむ、よろしい。全てに答えよう。では順番に聞いてゆこうかな。一つ目の疑問はなんだね?」と黝い瞳を覗き込まれた。そう、僕の瞳は黝い色をしているんだ。ちょっと気に入っていたりするんだ。お父さんは赤黒いんだけどね。やっぱりお母さんの血なのかな?そこで僕はまず始めになぜそんな大切な秘密を僕なんかに教えてくれるのか?聞いてみることにした。「僕みたいな冴えない一生徒に、なぜそんな大切な秘密を教えてくださるのですか?」と言うと、社長!じゃなかった、アビゲイル先生の瞳の奥で何かがキラリとした気がした。まるで獲物を見付けた鷹の瞳って程鋭くはないんだけど、お菓子を見付けた僕の瞳に似ていた。色は違うけどね。先生の瞳は少し濃い目の珈琲色なんだ。

 「その事だが回答は二つある。私はトランタンの様な生意気で天狗になっている人間が好きではないと言う事。この理由だけでも充分なのだが、もう一つ大きな要素がある。それは・・・」と言って言葉を切り、運命の人に告白する男さながらに真に迫った顔でその普段なら笑ってしまう顔を近づけてこられた。僕も何だかその気になり、いつものにやけた顔をポケットに片付け、よそ行きの生真面目な顔を引っ張り出して、僕も前に乗り出し、その重大な要素を聞く準備は整った。

ゆ、夢が叶うよ!( 6 / 11 )

大した事ないのか?

 「私は以前から秘かに化け学を研究しているのだが、今人間の血に興味を持っていてな。君の血にというより君の家に代々伝わる吸血鬼の血にも勿論興味があるのだ。そこで、察しも良くもう解かっておる様だが、君に化け学をミックスした魔法を教える代わりに、君の血を少し調べさせてもらえないだろうか?と言う取引をしたかったからなんだが、ちょっと恩着せがましいかな?」

 僕はもっと重大な秘密かと思っていたので、少しがっかりして、やれやれと言った身振りをした。

 これじゃ、化け学をミックスした魔法も大した秘密じゃないぞと思い、期待感が萎んでゆき、休暇中に補習に来なければならない義務感に逃げ出したくなった。

 しかし、僕は刹那主義者ではないのでね。もう少し疑問を解消してからでも断るのは遅くないと思い、二つ目の疑問を先に投げかけてみようと思った。ちなみに刹那主義者ってお菓子を沢山もらったら即食べてしまって、後のことを考えない人の事だったと思うよ。まるで僕みたい!って言わないでね。

 「取引の事は他の疑問に答えてもらってからで良いですか?社長」と尋ねると、

 「うむ、勿論それで結構。二つ目の疑問はなんだね?」と仰るので、僕の取り柄の素直さでもって疑問をぶつけてみた。

 「先ほど魔法社会全体のバランスが崩れるとか何とか仰いましたが、それってどう言う事なんですか?」

ゆ、夢が叶うよ!( 7 / 11 )

ホーリーへの告白が先!

 「うむ、その事なんだが簡単に説明しよう。ホーリー君の父方の祖国ではその昔化け学が発達しておった。魔法が使えない人たちの国だったからね。そして一時文明は栄えに栄えたのだが、その化け学の力を悪しき心を持った者たちが使い、戦争が起こり国が壊滅してしまったのだ。今では生き残った数少ない人たちが暮らしているそうだが、国は衰退してしまっている。そんな国を滅ぼすほどの力を持った化け学を恐れ、我が国では魔法より劣っているとして普及させないでおいたと言う経緯があるのだよ。我が国スタークル王国は今、栄え、平和を維持している。このバランスを崩すような事は私の望むことではない。君もこの平和な生活を乱したくはないだろう?」と問いかけてこられた。

 「はい、スタークルの生活に不満がないわけではありませんが、国が滅びるのは嫌です。ホーリーにまだ告白もしていないし。でもそんなに強大な力を僕が使えるようになって、僕が悪さをする可能性もあったりしますよね?」と不安を漂わせながら新たに生まれた疑問をまたまた素直に口にした。

 「そうじゃ、君が悪さをする可能性もある。それはまだわからないね。だが、君に魔法以外に考え方や生き方を同時に教えることも出来ると言う事だ。それに先程のトランタンとのやり取りを見ていて解かったのだが、君は一緒にいた連れの女の子を守ろうとしていたね?そう、この力は誰かを守る時にこそ使って欲しい力だと思っておる。君には素質が備わっていると見たからこそ、この力を教えても良いと判断したのだ。納得したかな?」と言う話を聞いて、僕は少しやる気になったが、果たしてこの僕に秘密が守れるだろうか?とこの三つ目の疑問を更に不安に思った。

 「そして君が秘密を守れるかどうかだが、君が確かに力をつけたと判断するまで使わなければ秘密の存在すら気付かれる事はない。いいね。ホーリー君もこうして勉強中だ。どうだ、これで少しは納得したかな?」

星兎心
作家:星兎心
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