京浜ツェッペリン

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川中  「どうですか、諸君。現在一般に考えられているイメージとは全く違うでしょ

    う。」

    生徒たち、驚きの表情で見入っている。

 

     [町外れの山の畑]

 

            松井と阿川が待ち構えているところへ、他校の生徒が二人やって来る。

松井   「待たせたな。」

他校生A  「おう、おめえ、でけえ面すんじゃねえぞ。」

松井   「馬鹿野郎、おれの足ふんどいてふざけたこと言うな。」

他校生B  「おめえが電車のなかででけえ態度してるからじゃねえか。」

阿川   「でけえ態度はおめえたちだろ。パプー面しやがって。」

他校生A  「なにを!このやろう!」

      A、阿川に殴りかかるが松井がすばやく応戦して殴りつける。

      四人で殴り合いになる。

      松井、Aをおもいきり殴りつけ、Aが仰向けに倒れる。

      松井、なおも殴りかかる。

      阿川、Bを殴りつけ、山の急な斜面に突き落とす。

      A、不利と見て逃れる。

      B、斜面をはいあがってくるが、その顔を阿川が蹴飛ばすと悲鳴をあげて転がり

      落ちる。

      はいあがってくるBの顔を、阿川、また蹴飛ばし、B、転がり落ちる。

      B、泥だらけの顔に鼻血を流して泣きながらはいあがってくる。

松井   「(阿川に)おい、もういいよ、かんべんしてやれ。」

      B、はいあがり、逃げ去っていく。

 

     [ 高校の中庭 ]

 

             吹奏楽部の生徒たちが楽器の練習をしている。

 

     [ 売店のある廊下]

 

             女生徒たちがパンを買っている。

      義雄、たちどまって原稿を読んでいる。

      廊下の先から着物に袴の老女教師、糸魚川清子がやってくる。

      ふりむいた義雄、糸魚川におじぎをする。

      糸魚川もしずかにおじぎをかえして通りすぎていく。

      いれかわりに後輩の田川弘が弁当箱をかかえ、ホルンをさげてやってくる。

田川    「あっ、先輩、今日、朝練にこなかったですね。」

義雄    「ああ、ちょっと偉い人と会ってたんだ、またな。」

      田川、足早に去る。

      見送る義雄の背後から、「山下!」と声がかかり、義雄がふりかえると、担任

      の遠藤茂雄教諭がいる。

遠藤    「おまえ、今朝遅刻したろう。」

義雄    「はい」

遠藤    「鞄、電車に置き忘れたんだろ。音楽だ芝居だとやるのもいいが、大学に行くん

      ならもっと気を締めろ。もう二年で修学旅行もすんだんだからな。」

義雄    「はい」

遠藤    「ところでおまえ、阿川のことでなにか聞いていないか。今日休んでるんだ

              が。」

義雄    「いいえ・・・べつに・・・」

遠藤    「あいつ、一年のときは生徒会の副会長までやったくせに、今年になってあの落

      第生の松井と付き合いだしてからはどうもいかん。

      おまえ阿川と付き合っとるみたいだが、(立ち去りながら)あんなやつのまね

      をしたらいかんぞ。(立ち止まってふりかえり)

      おまえもだめになっちまうぞ。」

義雄    「はい」

      遠藤、義雄に背を向けて去る。

      そばに永島優子が来ている。

優子    「山下君」

      義雄、優子に気がつく。

優子    「山下君、阿川君にたのまれた台本考えていて鞄おきわすれたんでしょ。」

義雄    「そりゃ、引き受けたんだからな。」

優子    「阿川君、今日来ていないわね。山下君、本当は知っているんじゃないの?」

義雄    「なにを」

優子    「阿川君たちのこと。今日どこへ行ってるか。顔に書いてあるわよ。」  

            

 

     

義雄  「・・・馬鹿いえ」

優子  「わかってるわ。ケンカにいったんだわ。私、山下君には責任感じてるのよ。

    私が山下君を演劇部のためと思って阿川君に紹介したんだから。

    山下君、才能あるからそうしたんだけど、阿川君、松井さんとつきあいだして

    からどんどんおかしくなっていくわ。

    山下君に迷惑がかからないかと思って・・・」

    英語の小柳愛子教諭がやってくる。

小柳  「あーら、山下さん、またお芝居書いてるの?今年の送別会でやったみたい

    な私をだしにしたお芝居、また書かないでくださいね。

    私が入れ歯をとったらまるっきりバアさんとか、日本語に通訳がいるとかっ

    て。あのとき大笑いしてた人たち、もう卒業しちゃったからいいけど。」

義雄  「はい、もう書きません。」

    義雄と優子、吹きだす。

 

     [運動場 ]   (放課後)

 

    ブラスバンドの演奏するタイケの「旧友」が流れている。

    運動部の生徒たちが練習をやっている。

 

     [理科室の前の廊下]

 

           掃除当番の男子生徒たちがふざけあい、一人の生徒をみなで理科室に押し込ん

    で戸を閉める。

    閉じ込められた生徒、下の戸を開けてとび出すと、そこに来た白衣姿の理科の竹

           中金三教諭に出くわす。

竹中  「(大声で)アッ!コラ!なんだっ、アホッ!」

    生徒、逃げ去る。

 

     [吹奏楽部の部室]

 

           義雄の指揮でブラスバンドが演奏している。

    講師がそばの椅子に腰掛けて演奏を聴いている。

    演奏が終わる。

    講師が立ち上がり、義雄のかたわらに来て、生徒たちを見る。

講師  「この曲もだいぶうまくなったな。

    トロンボーンはさらに音程が正確になるように、ポジションをしっかりおさえ

    て音を出す練習をしなさい。

    ユーホ二ウムは出番が多くて面白いだろう、この曲は。

    山下君の指揮はうまいからよく見て従うように。

    タイケの曲をもうひとつやっておきなさい。今日楽譜をもってきたから。」  

    -楽譜「ツェッペリン伯爵行進曲」-

講師  「ツェッペリンだ。テレビのスポーツニュースのバックミュージックでしょっ

    ちゅうやっているから、みんな知ってるだろう。

    どこの学校のバンドでもよくやってる曲だ。

    いそがなくていいから練習しときなさい。」

     

     [京浜急行追浜駅プラットホーム] (夕方)

 

    義雄、立ち食い蕎麦の店に入る。

 

     [ 蕎麦屋の店内]

 

           上級生の下山幸吉が蕎麦を食っていて、義雄に気ずく。

下山  「山下君」

義雄  「あ、下山さん、(店員のおばさんにむかい)てんぷら蕎麦お願いします。」

下山  「おばさん、おれももう一杯。

    おれ、この近辺の駅でひととおり食ったけど、ここが一番うまいよ。」

店員  「どうもありがと。」

下山  「山下君、今日電車に鞄おきわすれたんだって?」

義雄  「もう伝わったんですか。」

下山  「君、有名だもん。川中のせんちゃんの前で、前途有望を証明したこともね。

    職員室で先生たちみんな大笑いになっちゃったんだって。」

義雄  「・・・・・・・・・」

 

 

 

 

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