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小川( 1 / 9 )

『大震災の翌日から、アルバイトのシフトが削られました。節電や、経費削減の影響で、深夜に働いていた人たちの多くが、生活を維持することが出来なくなりました。深夜のシフト削減の影響は、昼間に働いているアルバイトたちにも及びました。正社員たちのシフトを維持するために、昼間に働いているアルバイトたちのシフトが削られたのです。あるホテルでは、レギュラーとして働いていたアルバイトの人たちが、月に2,3日しかシフトに入れないようになりました。大震災による節電や、経費削減の影響は、夜だけではなく、昼にも及び始めたのです。

 

マスコミや、政治家たちは、この事実を全く報じませんでした。

 

クレジットカードを持つことが出来ず、頼れる人が居ない人たちは、別のバイトを探し始めました。けれど、仕事はありませんでした。面接にすら辿り着けない。そんな状態が、何ヶ月間も続きました』

小川( 2 / 9 )

『テレビや、新聞に係わっている人たちは、繰り返し、繰り返し、言いました。

 

「いまは、みんなが心を1つにして、頑張りましょう!」

「電気なんかなくても、人は死にません!」

 

そんな上っ面と、汚い金に塗れた言葉の裏側で、多くの人たちが、どこかへ居なくなり、犯罪に手を染め、心と、身体を壊し、死んでいきました。

 

俺たちは、存在していないんだ。

 

そのことが分かった時、いままでにあったはずの、楽しかったことや、嬉しかったことや、感動が、俺の中から消えました』

小川( 3 / 9 )

『目の前で、次々と、人が壊れていく。その出来事は、俺にとって、津波に飲み込まれていく街を見た時と同じくらいに大きな衝撃でした。人が壊れ始めると、いままで見たこともない勢いで、闇金融屋たちが動き始めました。

 

けれど、この事実も、マスコミや、政治家たちは全く報じませんでした。

 

底辺世界の人間が、いまよりも上の世界に行ける仕事に就ける可能性は、20パーセントもありません。仮に上に行けたとしても、大半の人たちは、数年以内に、また底辺へと戻ってきます』

小川( 4 / 9 )

『最低賃金で働いている40代、50代の人たちの日常を見たことがあるでしょうか?その人たちの背中を見ている30代の人たちの日常を見たことがあるでしょうか?

 

「甘ったれるな!」

「自己責任だ!」

「50社でも、100社でも、面接を受け続けろ!」

「寝ないで勉強しろ!」

「酒や、タバコを止めろ!」

 

そういう人たちがいます。でも、底辺世界の住人たちに、そんな余裕はありません』

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