『大震災の翌日から、アルバイトのシフトが削られました。節電や、経費削減の影響で、深夜に働いていた人たちの多くが、生活を維持することが出来なくなりました。深夜のシフト削減の影響は、昼間に働いているアルバイトたちにも及びました。正社員たちのシフトを維持するために、昼間に働いているアルバイトたちのシフトが削られたのです。あるホテルでは、レギュラーとして働いていたアルバイトの人たちが、月に2,3日しかシフトに入れないようになりました。大震災による節電や、経費削減の影響は、夜だけではなく、昼にも及び始めたのです。
マスコミや、政治家たちは、この事実を全く報じませんでした。
クレジットカードを持つことが出来ず、頼れる人が居ない人たちは、別のバイトを探し始めました。けれど、仕事はありませんでした。面接にすら辿り着けない。そんな状態が、何ヶ月間も続きました』
『テレビや、新聞に係わっている人たちは、繰り返し、繰り返し、言いました。
「いまは、みんなが心を1つにして、頑張りましょう!」
「電気なんかなくても、人は死にません!」
そんな上っ面と、汚い金に塗れた言葉の裏側で、多くの人たちが、どこかへ居なくなり、犯罪に手を染め、心と、身体を壊し、死んでいきました。
俺たちは、存在していないんだ。
そのことが分かった時、いままでにあったはずの、楽しかったことや、嬉しかったことや、感動が、俺の中から消えました』