「気が早くないですか? お母さま達にまだ何も言ってませんし」
「別に言わなくても良いじゃない。言う前に行動してたほうが、反対されずに済むわ」
楓は言いながら、そうするしかないと思った。彼女の両親は娘たちが遠出をすることには寛容ではない。楓が学校行事で長期の合宿に行くときでさえ、良い顔をしなかった。
華蓮が自ら動くことを避けるのは、彼女の天性だけではなく両親のせいもあるのだろうと思う。その彼女はまた後ろ向きな発言をした。
「買った物を没収されることになるかもしれませんよ」
「そうなったら、ただ阻止すれば良いだけよ。そんなに外に出るのが嫌?」
後半、強く言うと、華蓮はうつむいた。楓も逸れ以上は言わず、沈黙が落ちる。が、二十秒もしないうちに楓が痺れを切らせた。
「言い過ぎたなら謝る。けど、旅のことについては行く方向で考えてほしい」真面目に言い、華蓮に背を向けた。「じゃあ、また後で」
「待ってください。私も行きます」
何も言わないと思っていたが、華蓮は意外にも手早く止めた。楓はその意を決した声に、ドアに手をかけたまま振り向いた。
「良いの?」
「この歳で隠居みたいなことはしたくありませんから」
真っ直ぐに楓の顔を見て言う。彼女は、本当に、と、訊き返したい気分だったが、あまり珍しがっていると、華蓮は発言を訂正するかもしれない。そう思い、彼女の決意だけを
飲んだ。
「明後日、本当に行くわよ。よろしく」
言い残し、部屋を出る。自室に戻る足は軽い。楓は嬉しさ半分にほっとしていた。
学校にも女子はいるが、彼女たちは楓のおぼろげな展望には理解を示さない。それよりも、将来にも絡むパートナー探しに夢中になっている。
結局のところ、どこか世間知らずな華蓮だけが理解者だということになるが、それで十分だった。博識な彼女と力を合わせれば、何か良い化学反応が起こるだろうと期待もしている。