不貞寝トリップ

 「ねっ! 楽しいでしょ」
「楽しいでしょ! じゃないよ! 黒髪の俺はどこに行った?」
 目の前に立っている俺は、顔立ちこそ見慣れたそれだったが、髪の色は――言ってしまえば、ファンタジー世界の住人のような姿をしていた。
 綺麗な白髪だ。さらっさらだ。透けるようだ、銀に近い。
「さらに、魔法をかけるっすよ」
 ほい、とメルは俺を指差した、と思った次の瞬間、青い光に俺の体は包まれた。
「うおお」
 ほのかに暖かい。自分が魔法にかけられる経験なんてもちろんなかったため、不覚にもテンションが上がってしまった。いい夢だ。……まだ夢だと、信じている。
 青い光は、数秒俺を包んだかと思うと、するすると重力に逆らえなくなったかのように、地面に落ちていった。服装は、もう学生服ではなくなっていた。
「おお……」
「勇者様みたいでしょう?」
 得意顔で言う彼女に、そんなわけあるか! と返したいところだったが、残念ながらそんなことはあった。勇者だ、ファンタジーに興味が無くても、勇者のイメージぐらいは頭の中にある。たくさんのイメージの中に、もしかしたらこの姿の勇者も含まれていたのかもしれない。
 軽装備だ。白い服に、焦げ茶色のズボンは本当に軽い。肌触りがいい、何の素材だろう? 腰には藁で編んだような紐が縛ってあった。こんな服、初めて着る。
 手先は、茶色のグローブが包んでいる。革でできているのだろう、ひじより少し前までの長さだ。安心感がある。靴は茶色のブーツだった。ズボンよりも明るい色をしている。その場で足踏みをする。軽い。飛べそうだ。
 首には、白い服と同じ色をしたマントが巻いてあった。スーパーマンのように真後ろに布を巻いているのではなく、右肩にマントの中心が来るようになっている。俺を包み込むようなそのマントは、しっかりとした素材でできていた。少し重いが、苦にはならない。
 そして、足元には剣が置かれていた。シンプルな剣だ。持ち上げると、ずしりと重かった。柄は金色に輝き、鞘は少し黒ずんでいる。
「かっこいいんじゃないの」
 俺の言葉に、彼女は嬉しそうに歯を見せてにこっと笑った。先ほどの妖艶な笑顔からは想像も出来ない、子供っぽい笑顔……まったく、表情豊かだ。
「しかし、どこに向かうんだよ。ずっと歩くのか? 地平線の先まで?」
「安心してください、勇者様」
 口調を変え、おどけたように彼女は言った。
「さっき、この世界は本みたいって言ったっすよね? 勇者様は今、本で言うと最初の行にいるんです。向かうは最後の行。本来なら、この世界に来た人は一行一行楽しんでいかれるんですけど、勇者様ははやく帰りたいみたいですし、全ての過程をふっとばします」
「なんだ、そんなことができるのか」
「これでも優秀な妖精なんっすよ、私は」
「なるほどね、しかし、すっとべるんなら、勇者になった意味ないんじゃないか?」
「………………さぁ、行くっすよ!」
「待て! なんだ今の間は! 不安になるだろうが!」
「行ってからのお楽しみっす」
「何かあるんだ! 素直に帰れないんだな!」
「静かにしててください今から最後の行に向かいますそーれー!」
 彼女は両手を足元まで下げ、ぐいと勢いよく上に押し上げた。彼女の手に引っ張られるかのように、体が宙に浮いた。いきなりの出来事に、後ろにひっくり返りそうになる。
「あっ」
 ――と言う間だった。文字通り。目の前が真っ青になったかと思うと、次の瞬間別の場所に移動していた。
 ふわり、と地面に着地する。
「うわっ」
 あたりを見渡す。先ほどの緑の一面とは一転、そこは白い草原だった――雪が積もっているのかと思ったが、足元をよく見ると、そうではないらしい。白い色の草が生えているようだ。見たこともない、きっと、俺が元いた世界にはないような種類の植物なんだろう。足を少し動かすと、その草はふっと宙に浮いた。羽のようだ、とても軽かった。
「到着っす」
 綺麗でしょう? と妖精は笑った。
「綺麗だな」
 俺は素直に認め、周りをぐるりと見渡す。左、真正面、右、どこを見渡しても白だ。もちろん後ろも――「うおおおおおお!」
「あ、気がついたっすか」
「いやいやいやいやいや! のんきか、お前!」
 俺の真後ろには、この白い世界には似合わない赤茶色のドラゴンがいた。
「これドラゴンだよな?」
「正解っす! これなんて失礼ですよ。この方、っすよ」
「この方ね! 知るか! うおおおおい! どういうことだよ!」
 ドラゴンは、座った状態でこちらをぎろりと見ている。金色の綺麗な目と、俺の目が完全に合っている。視線を離したら、おそらくだがその隙に攻撃されそうだ。だから俺は目を逸らすことができなかった。一歩一歩、ゆっくりと後ろに下がり距離を取るしかできない。
 俺の何十倍もありそうな巨体は、何を思っているのか、しげしげとこちらを眺めているだけだ。観察されているのか? こいつなかなか美味しそうだ……とか?
「この世界に来た方は、ゆっくりこの世界を楽しむって言ったっすよね? でも、勇者様はそれを吹っ飛ばして最後の行――この世界という物語の最後まで飛んできちまったんす。最後はもちろん、ゲームで言うとボス戦っすから」
「こんな強そうなのが現れたってことか!」
「ご察しの通り!」
「ふざけんな! おい! どうすりゃいいんだ!」
「とりあえず剣を抜いてください」
「戦うのか!」
 震える手で、俺は剣を抜いた。ゆっくりとドラゴンに向ける。両手で持つが、それでも剣はずっしりと重い。こんなのを持って本当に戦えるのか?
 ドラゴンは、長い尾を左右に揺らした。喜んでいる犬のようだったが、その尾がさっと触れただけで、白い草はぼっと燃えあがった。ドラゴンの周りに、赤い火が灯る。
「うわあああ」
 弱々しい叫び声しか出なかった。なんだこれ、どうすればいいんだ。
「さぁ、レッツトライ、ラスボス!」
「気楽だな妖精はよ! というかお前の魔法で倒せないのか!」
 確かにな。
 はっきりと声がしたが、それは俺のものでも妖精のものでもなかった。

 

 空耳かと思ったが、続けて「面白い男よ」と低い声が聞こえる。
「えっ、えっ?」
 俺がきょろきょろとしていると、ドラゴンが長い尾をもう一度左右に振った。火がふっと消える。焼け跡は残っておらず、白い草原が燃える前と同じようにそこに存在していた。
「俺だ、勇者の格好をした男よ」
「あ、えと、その」
 ふっとドラゴンの口から炎が出た。それと同時に「俺だよ」ともう一度声がする。その声は、ドラゴンの方向からするのではなく、四方八方から響き渡って聞こえるようだったが……それでも、彼が喋っているのだろう。
「戦いはせんのだろう? 男よ、武器をしまえ」
「あ、すいません」
 大人しくドラゴンの指示に従う。まだ剣先は震えていた。
「おい妖精よ。こいつは俺とは戦わないんだろう」
 ドラゴンに話しかけられたメルは、こくりと頷いた。なんだ、知り合いか。
「はい、すぐに元いた世界に帰られるそうです」
「ほう、それは残念だ。剣を抜かせたのはどうしてだ?」
「戦ったことが無かったみたいなんで、形だけでも楽しんでもらおうかと」
 くつくつ、と喉の奥で笑うような音がした。ドラゴンが笑っているのだろう。俺は、改めてその巨大な生き物を上から下までなぞるように見た。ごつごつとした体が、何も寄せ付けないような力を秘めているようだった。
「君は、おもしろいやつだよ」
「お褒めに預かり光栄っす」
「勇者よ、この度は唐突にこの世界にやって来てしまったのだろう」
「は、はい」
「妖精の誘導があったとはいえ、ご苦労だったな。思い出と言っては何だが、これを持って行け」
 ふっとドラゴンが宙に向かって炎を少し吐き出すと、その先端が個体となって地面に落ちた。ドラゴンはそれを口で咥えると、俺にずいと顔を近づけた。
 息が止まりそうだった。神々しいこの生き物が、俺のこんな近くにいる。
 ドラゴンの口から、そっと赤い石のようなものを受け取った。サッカーボールほどの大きさがあったが、俺の手の上でするするとそれは小さくなり、豆ぐらいの大きさになった。
「土産だ。俺の炎の塊よ」
 ドラゴンは鼻を俺の頭に一度擦り寄せ、硬直する俺を見てくつくつと笑った。
「この世界に来たことが信じられなくなったら、それをお前の世界で見ればいい」
「あ、ありがとうございます」
「信じるかどうかはわからんが、お前の隣の席の人にも見せてやると、喜ぶんじゃないか? ん?」
「えっ」
 俺の隣の席の人って――――高坂さん?
 訊くより前に、ドラゴンは大きな翼を広げ何度もそれを上下に揺らした。大きい、雄大だ。その光景に、思わず言葉を忘れてその姿を見る。
「またな」
 そう言って、ドラゴンは勢いよく上に飛んだ。風が俺を襲う。驚いて一瞬だけ顔を腕で覆うと、次の瞬間にはもう、ドラゴンは空高く舞い上がっていた。
「……夢みたいだ」
「夢の国でしょう、勇者様の世界じゃ、ここは」
「確かに」
「さ、最終イベントも終わりましたし、帰るとするっすよ」
「どうやって?」
「こっちっす」
 メルは、にこりと笑うと凄い速さで左手に飛んだ。
「待って!」
 俺の隣の席の人って、どういうことだかを聞きたかったのに、そんな暇も与えてくれなかった。メルは、ひゅん、と風のように居なくなってしまった。左側の遠方に彼女の姿がかろうじて見える。白い草原でよかった。青い髪がよく目立つ。
 俺は走り出した。羽のような白い草が舞う。懸命に走った。青い髪の彼女は、ある地点で止まると、くるりと回って下に急降下した。白い草原に降り立ったのだろうか、姿が見えなくなる。
「どこいったんだよ、おい!」
 返事が無い。急に不安になる。どういう事だ? 腰の剣を確かめる。また、手が震えていて嫌になる。もつれそうになる足を懸命に動かしながら、俺は走った。走って、走って――「あっ」俺は足元の異変に気がつき、その場に止まった。メルが消えた地点は、この辺だったはずだ。
「すげぇ……ここか?」
 草原の中に、穴がぽっかり空いているようだった。よく見ると、それは穴ではなく、水たまりだった。風が水面を撫でていた。揺れるその水たまりの中に見える景色は、空ではなく、古い建物だ。

  その建物は、中心にある小さな楕円形の広場をぐるりと囲んでいた。建物の側面には、窓が無数に見える。エメラルドグリーンの窓だ。中に何があるのかはよく見えない。その窓に監視されているような広場は、薄いオレンジと白の四角いタイル模様だ。建物の窓と窓を、いくつかの紐がつないでいる。その紐には旗が結び付けられているようだった。俺の知っている国の旗は無い。オレンジと赤のしましま模様の旗や、赤に黄色のドット柄、オレンジの三角の旗など、カラフルな旗が風に吹かれている。
 オレンジ色の広場に、青い光がふっとちらついて消えたように見えた。おそらく、ここに彼女は飛び込んだのだろう。出口なのかもしれない。
「……飛び込んで大丈夫なのか、これ」
 俺は、水たまりに少しだけ足を踏み入れた。水面が小さく揺れる。
 左手で、剣をしっかり握る。右手には、あの赤い石がある。
 もう一度青い光が見えた。俺を呼んでいるのかもしれない。「何してるんすかぁ!」という彼女の声が聞こえるようだ。
「大丈夫だろ」
 その自信の理由や根拠は無いに等しいが、あるとしたら、ここはファンタジーの世界だから、だ。
 俺は勢いよく上に飛び、水たまりの真ん中に両足で着地した。とぷん、と体がその中に入る感覚がした。寒気がする。あっという間に俺は水たまりの中に入てしまった。カラフルな旗とエメラルドグリーンの窓が目の前を凄い速さで過ぎていく。
 叫ぶ余裕もなかった。両手を握りしめ、ひたすらに急降下していた。
「凄い勇気っすね。ほんとに勇者になれるんじゃないっすか?」
 突然、目の前にメルが現れた。にかっと笑うと、俺はその瞬間青い光に包まれた。ふわりと体が急に宙に浮かぶ。
「うおっ」
「なかなかの決断力でした」
 ふわふわとゆっくり降りていった。俺は上を見あげた。空がとても高い場所になる。ぞっと背筋が凍る。
「今さら怖くなったっすか?」
「びびったわ。助けてくれてありがとう」
「いえいえ。試したんすよ、どうするかなぁって」
「ドラゴンの時といい、お前は少し意地悪だな」
「妖精なんてそんなもんじゃないすか?」
「知らん」
 ふふ、と意地悪な笑顔を見せる彼女は、とても楽しそうだった。まったく、と俺はため息をつく。ふわふわと地面が近づいていた。もう、足を延ばせば届くだろう。
 俺は足をついて着地すると、すぐに周りを見渡した。今度は何にも背後をとられてはいないようだ。
 たくさんの窓がある中、一つだけ扉があった。俺の真正面にある。木でできたような、茶色の扉だ。
「あそこが出口っす」
「おう。出ればいいの?」
「出れば帰れるっすけど、その姿のまま帰っちまう事になりますよ?」
「あ、それはまずい」
「戻しますね。でもその前に、約束していただきたいっす」
「約束?」
 神妙に頷くと、メルはくるんと前に一回転した。突然何かと思ったら、青い光が今までにないほどまばゆく光った。
「わっ」
 俺は思わず目を瞑った。まぶしい。何があったんだ?
「この世界のことを、誰にも話さないでください」
 ドラゴンの時と同じだ。四方八方から声がする。でもこの声には聞き覚えがある、絶対に、メルの声だ。
 俺が目を開けると、目の前には俺より背の高い女性がいた。青い髪に青い髪の毛はメルと一緒だが、彼女とは似ても似つかない。青い髪の毛は結んでおらず、服装は白いシンプルなドレスだ。手には金色の長い杖を持っている。
「……どなたですか?」
「私っすよ。普段はあの姿っすけど、最後だけは力を使うんで、この姿になるんです」
 見た目に似合わぬ口調で、彼女は言った。
「違いすぎだろ」
「姿がいくつもあるなんて、こっちでは珍しいことじゃないっすよ」
「そうなのか……それで、なんだっけ? この世界のことは誰にも話さない? 分かってるよ、話したって誰も信じてくれないだろうし」
「よろしく頼むっす。でも、いいですか勇者様」
 神妙な顔つきで、彼女は言う。
「あなたの隣の席に座っている女性にだけは、話してください」

 

「は?」
「この世界であったこと。私は勇者様に、ひとつだけ嘘をついたっす。魔力の暴走のことですけど、あれは嘘っす。彼女は、意図的に貴方をこの世界にひっぱりこんだんです」
「彼女って、彼女ってまさか」
 まさか。
「あなたに、ファンタジーの素晴らしさを知ってほしかったんすよ」
 くるん、とメルは持っていた杖を軽く回した。淡い光が俺を包む、あっという間に俺は元の姿に戻っていた。
「どういうことだ?」
「彼女に、ここでの経験を話してくださいね! 絶対すっよ。楽しかったって、言ってあげてください。彼女はこの世界を、心から愛してるんすから」
「おい、待てよ!」
 俺の言葉に返事はせず、彼女はにこりと笑い、手を振った。
 もう一度、彼女の杖がくるりと回る。
「ちゃんと説明してくれよ!」
 扉が勢いよく開いた。扉の向こうは暗闇だ。引きずり込まれる。彼女の力だろう。
 待てよ、ともう一度叫んだときには、すでに闇の中だった。
 耳の奥に、彼女の声が小さく聞こえた。
「創始者様に、よろしくお伝えくださいね」

 はっと目を開けると、そこは元いた教室だった。変な汗をかいている。顔を勢いよくあげたからか、斜め前の生徒が俺を横目でじろりと見ていた。俺は慌てて、何もなかったかのようなそぶりを見せる。
 とんとん、と肩が叩かれた。隣の席の高坂さんだ。ノートの切れ端が渡される。俺は黙ってそれを読んだ。
「昼、屋上に来てもらっていい?」

 昼休み、俺は彼女が教室を出て行ってから少しだけ待って、後を追った。昼にだけ、屋上は解放されている。その日はあまり人がいなかった。彼女は扉を出てすぐのところで待っていた。
「奥で話そうか」
 と、俺と彼女は屋上の隅っこに行った。柵によりかかりながら、彼女は「いきなりごめんね」と苦笑した。
「びっくりしたでしょ」
「……夢じゃなかったんだよね」
「うん、首のやつ」
「そう、ドラゴンがくれた」
 俺はそっと、首にかけてあるネックレスを彼女に見せた。妖精が俺の服を戻す時に、ついでにやってくれたようだ。あのときは夢中になって気がつかなかったが……粋なプレゼントだ。
「夢じゃないって、信じてくれてありがとうね」
 彼女は言った。俺は慌てて首を横に振る。
「いや……このネックレスもあるしね。……なんか、その、さっきはごめんね。ファンタジーにあんまり読まない、とか」
「ううん」
 風が吹く。あっちの風の方がさわやかだった。
「私こそごめん。ファンタジーあんま読まないって聞いて、私、あぁいう世界を創ったから、寂しくて悔しくて悲しくて、授業中にこっそりあの世界に牧野君を送っちゃった」
「びっくりしたよ。高坂さんは、魔法使いなの?」
「うーん、そうとも言えるかもしれないけど、私の認識としては、魔力がたくさんある人間って、それだけ。運動神経のいい人間がいるみたいに、魔力がたくさんいる人間もいるの。こっちの世界で魔法は使わないけど、私の作った世界とか、魔法がある他の世界とかでは、時々使うよー」
「へぇ、そうなんだ」
 この世界で、自然にそんな会話をするなんて、つい数十分前までは考えもつかなかった。
「まぁ、特別なもんじゃないから、普通に接してくれるとありがたいな」
「うん、そうする」
 ありがと、と笑ったその笑顔は、どこかあの妖精に似ていた。
「楽しかった?」
「え?」
「私の世界」
 不安そうに、高坂さんは訪ねてきた。俺はうん、と即答した。彼女が嬉しそうにほほ笑む。
「よかったあ。じゃ、今度牧野君に、ファンタジーの本を貸しても困らない?」
「うん、多分のめりこんじゃう。あんな体験しちゃったからね、想像力が追い付かないなんてことはないよ」
「想像力、それが理由かぁ」
 なるほどね、と彼女は興味深そうに頷いた。
「本の世界には、きっと今回牧野君が体験したこと以上のことが、わんさか起こるよ」
「まじで」
「うん。だからすぐに、想像力が追い付かなくなっちゃったりして」
「それは困るなぁ」
「私も困る、だから、えーっとあの」
 もごもごと、彼女は言った。
「よければまた今度、一緒に私の世界に行かない?」
「え、え?」
 突然の誘いに、俺はうまく返事ができない。な、なんだって?
 彼女は、俺の顔を覗き込んだ。少し不安そうだ。
「行かない? 二人で。きっと向こうの世界のみんなも喜ぶと思うんだけど」
「行く! 是非!」
「よかった、じゃぁ次は、私が案内するね」
 と、彼女はとても嬉しそうにそう言った。
 幸運にも俺は、こうして彼女と仲良くなるだけでなく、デートの約束まで取り付けたのだった。

村咲アリミエ
作家:村咲アリミエ
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