『I love you I love you I love you(ひとりよりふたり、ひとりよりふたり、ひとりよりふたり)……』
と、気忙しいくせに単調なドラムン・ベースに乗って、甘ったるい女性コーラスがもう16回も繰り返している。とはいえ、イヤピース・タイプのヘッドフォンから流れるその音声を、男はろくに聞いていない。
ピチャ、チュポッ……。
男の注意が向いているのは、むしろ股間にしなだれかかった女の口唇が立てる音のほうだった。女はナヴィゲーター・シートから痛々しげに躯を捻り、ドライヴァー・シートに大股をひろげて座っている男の腰を抱え込み、股間に顔を埋めている。無理な姿勢が苦しいのだろう、荒い息を吐き、ときおり髪の毛を掻きあげて男の顔を見る。
10代の真ん中、まだ少女と言っていい顔立ちをしていた。
ついさっき、男が階上の200平方メートルの大ディスコフロアが売り物のクラブ〈ディジール〉でナンパした少女だった。
少女は〈軽い〉ことでは地球上で最も柔軟な性モラルの持ち主、ネオ東京の女子高校生であった。
人待ち顔でテキーラを傾けているところを、男が声を掛けた。
後はものの十分もかからなかった。
立体駐車場の男の車に一緒に乗り込み、ひと言ふた言お喋りをしただけで、少女は甘ったれた声を出し誘う目をしてみせた。「ダメよ、ダメ」などと口では言いながら、男のフレンチ・キスをあっさり受け入れた。
「な、頼むよ」
男が優しくささやいただけで、少女は男の下半身をむき出しにして、丹念に口辱奉仕をはじめたのだった。
幼げな外見には似合わない、抜群のテクニックだった。
まず玉袋の皮をひきのばして舐め、睾丸を口にふくんで舌のうえで踊らせる。右手で肉棒をしごきつつ、左手の中指でアヌスをいらう。たっぷりと唾液を垂らし、アヌスの皺のあいだに舌を差し入れて擦る。前立腺を刺激され、みるみる屹立をはじめた肉棒に少女は甘い息を吐きかけ、亀頭溝を舌先でほじくり、ゆっくりと舌をからめ頬張っていく。
(すごい……)
桜色に紅潮した顔を男に向けた少女の瞳がそう語っていた。
おちょぼ口に窄められた口唇に咥えられた浅黒い肉棒が、少女の舌戯によってどんどん怒張を増していくことに感嘆しているのだ。太さは普通なのだけれど、桁外れに長い。20センチは軽くあった。喉奥に当たり、少女の頭を押しあげていく。
男が少女を見つめかえして、ニカッと笑った。無邪気な笑顔だった。浅黒い褐色の肌をしていた。日本人のものではない。年齢は20歳をちょっと過ぎたかどうかに見える。
少女がボディ・コンシャスなスーツを、年齢不相応な化粧で飾り立てて着込んでいるのに対し、男のほうは洗いざらしの綿リンネルのTシャツにブルージーンズのベストとGパンという、そこらへんのチンピラふうの格好だ。しかし、その男はエイリアン・ストリートでは有名人であった。
インドネシアだとかイランだとか、とにかく中東とか東南アジアとかの出身だと噂されてはいたものの、詳細は誰も知らない。ここ1、2年前からネオ東京に出没するようになった、けばけばしいイルミネーションでごたごたに飾りつけた個人タクシーの運転手。〈お喋り〉ナムというのが、男の通り名だった。もちろん、ナムというのが本名かどうかは怪しい。渾名の由来は、ナムのもうひとつの仕事からきている。
それは《情報屋》だった。
21世紀の都市生活者にとって、『情報』は時に何よりも強い武器だった。誰がどういう人物で、どういう人脈を持っており、現在どこにいるか、ある物の価値がいまどこではどうで、どこにもっていけばさらに価値が上がるのか、そういったことを、ナムは驚くほど正確に把握しているのだ。
いつしかナムはその『商品』の上質さによって、いかがわしい出自にもかかわらず、エイリアン・ストリートになくてはならない人物として認知されるようになっていた。
「んあっ」
少女が短い声を出し、肉棒から口唇を離す。
ナムがスカートをめくり、尻肉の合わせ目からショーツの中に指を差し入れたのだ。亀頭と半開きになった少女の口唇からのぞくピンク色の舌先に、透明な唾液が糸をひく。
「あっ、あんっ、あんっ、ああんっ」
ショーツの中で妖しく指が動くたびに、少女はうわずった喘ぎをもらした。
「き、気持ちいい……」
躯を起こしてナムにすがりつき、口唇をむさぼった。媚態と混ぜこぜになった羞恥が、しだいに陶酔へと変わっていく。
「ふむ、はむ、むふう……」
舌を絡め合い、荒い息と唾液が立てる音が、フル・スモークのウインドーを締め切ったタクシーの車内にこもって響く。
ナムが荒々しくショーツをはぎとり、少女は無意識のうちに自分から協力して腰を浮かせ、その小さな白い布切れが右足首にひっ掛かったままでナムの上にまたがった。右手で男の怒張をしっかり握り、すでにしとどに濡れているみずからの花弁を押しひろげて亀頭の先をあてがう。
「そら」
ナムが腰を大きくクラインドさせて下から思い切り突きあげた。
「ひいっ、ひああああっっ……」
ゆっくりゆっくり膣襞を押しひろげながら肉棒が挿入されていくのを、少女は結合部に指を滑らせ確認し、躯を弓なりに反らして愉悦の声をあげた。ひくっ、ひくっ、と断続的に痙攣してナムの両肩にしなだれかかる。
「ひあっ、……ああああっっ」
ナムは両手で少女の尻肉をつかみ、ぐるんぐるん回転させながら肉棒を蜜壺に擦りつけた。
「お、おかしくなっちゃう……」
つぎつぎに押し寄せる快楽の波に、耐え切れなくなって少女は言った。
「まだまだこれからだぜ」
ナムが少女の小さな顎の下を人差し指で押し、欲情に火照りきった少女の顔をあおむかせる。少女の顔は涙と涎でくしゃくしゃになっていた。可愛いくってたまらない表情だ。
ガン!!
そのとき、タクシーの車体、ドライヴァー・シート側のドアを誰かが思い切り蹴った。
「な、なんだァッ……」
衝撃と音にびっくりして、ナムは思わず頓狂な声を出す。
その声に応えて、間髪入れずドンドンドン……とフル・スモークのウインドーがぶっ叩かれる。強化ガラスを打ち割ろうかという勢いの、遠慮会釈のない拳による打擲だ。
「な、何だってんだこのクソ野郎……」
相手の確認もせず悪態をついてウインドーを開けると、10センチばかり開いたところでいきなり腕が入りこんできてナムの首根っこをつかみ、そのまま頸を締めあげて上半身を窓から引っ張り出した。
「ぐっ、ぐえええええええっっ……」
「あっ、な、何これっっ」
ナムの呻き声に、少女の嬌声が重なった。ナムの身体が無理矢理引っ張りあげられたことで肉棒がより深く蜜壺に差し込まれ、少女の微妙な快楽のスポットを刺激したのだ。
「てめえ、ナムよ、携帯OFFにしてこんなところで女とちちくりあってていいと思ってんのか? 探したぜえ……」
首を締めているのはケージだった。
「ケッ、ケッ、ケッ……」
にこやかな笑顔で、それほど力を込められているわけではないのに、ケージの両腕はしっかり急所を押さえており、ナムは白眼を剥き悶絶しながら呻いた。
「調べてほしいことがある。お楽しみを中断してやってくれるか?」
そのままの姿勢でケージがいうと、ナムはコクコクと小刻みに首を揺らした。冗談じみた滑稽なしぐさだったが、本人としては大真面目にうなずいているつもりなのだ。
「よし」
ケージが両腕を離す。
「げほっ、げほっ、げっ、げほっっ」
途端にナムは両手で首をさすり、激しく噎せた。
「ひ、人に物を頼む態度じゃねえよなァ、ったく」
そしてぶつぶつ文句を言う。
「なんか言ったか?」
キラン、とケージの瞳が光った。
「いやいや、べつになにも言ってねえよ」
ナムはあわてて首を横に振る。
「ど、どうしたの?」
そのとき、少女がぼんやりと視線を漂わせてケージとナムを見た。蜜壺はナムの肉棒をしっかり咥えこんだままだ。蕩けた表情で、まだ事態がよく呑みこめていない顔をしている。さっきの衝撃で、さっさとオルガスムスに達してしまい、話をまったく聞いていなかったのだ。脇腹にまでたくしあげられたスカートの下の、汗でしっとりと濡れた尻肉にえくぼが浮かび、膣襞の状態を想像させる淫らな蠢きを続けている。
少女にとってはケージは不意の邪魔者に違いなかった。
「で、仕事って?」
しかしナムは少女の様子にまったく関心を寄せずにケージに聞いた。
「久鬼麗華って知ってるか?」
ケージも少女のことは無視して話を進める。
「ああ、〈D・D〉のボスだろ」
藤堂との会見の後、別室に控えていた梶に渡された資料に、大門豪作の愛人である久鬼麗華が大門美朋の誘拐事件発生のちょうど1週間前から渡米しているとの記録があった。一応観光旅行と記されてはいたものの、宿泊先なども曖昧で、いかにも怪しい。
「殺し好きのヤバい女らしいな」
「連中の溜まり場とかわかるか?」
「ああ、確か新宿のほうだったと思うぜ、旧副都心のゴースト・ビルのどっかだよ」
あっさりした答えに、ケージはいつものことながら感心した。
ネオ東京のチンピラ・グループはもともと戦災孤児の集団だったこともあり、異様なまでに家族的な結束が強く、外部の人間にはその正確な人数や居場所を決してもらさないものだった。したがってナムが〈D・D〉の連中の居場所を知っているということは、直接誰かからその場所を聞いたわけではなく、いくつかの断片的な情報を組み合わせて推論した、いわば任意の動物の巣がどこにあるかを判断するハンターの知恵に等しいのだ。
突然の質問に数秒もかからずに回答できるナムの情報に関する判断力はケタはずれのものだった。
「やつら女子高校生を誘拐してどっかに隠れてるはずなんだ。細かい場所を探ってくれ」
しかしその判断が正しいかどうかは、確認しなければならない。
「ええーっ、俺旧市街タクシーで走んの嫌なんだよなァ、物騒じゃん? あそこ」
ナムが本当に嫌そうな声を出した。
「じゃあ歩いていってくりゃいいよ」
にっこり微笑んでケージは答えた。両手の指を重ねて、ポキポキと関節を鳴らす。
「わ、分かったよ。やるよ」
さっきケージに締められたのがよほどこたえたのだろう、ナムは両手で自分の首を押さえ、真っ青になってうなずいた。
「あ、それともうひとつ」
「何だまだあんのかよ」
今度は何を言うのか? と怯えた表情を見せる。
「貴和美の居場所、分かるか?」
「ああ……」
ケージの質問に、ナムは人差し指を一本、ぴん、と立てて上を差して見せた。
「?」
「〈ガーデン〉だよ、ちょうどさっきからこの上にいるところさ」
首をすくめて言った。
「ねえ……、あたし、どうしたらいいの?」
そのとき、ずっと無視され続けてきた少女が不満げな声を挟んだ。やっと少し正気に戻ったのか、スカートの裾を合わせて男らの視線から股間を隠している。
恥ずかしそうにもじもじしているが、ナムの肉棒とつながったままの蜜壺の蠢きが、少女がもっとして欲しがっているのを明らかに代弁していた。
「悪い悪い、もう用事は済んだよ。じゃ、とにかく調べといてくれよ」
ケージは明るい口調で少女とナムにそれぞれ言った。
「あれ、絵梨香に逢ってかないのか?」
そのまま立ち去ろうとするケージに、ナムが意外そうに声を掛ける。
「ああん? べつに用事もないしな」
ケージの応答は素っ気ない。
本当は嘘だった。夕方のときはうまくごまかしたけれど、きっとケージの態度を怒っているに違いない。
(君子、危うきに近寄らず)
それがケージの本音だった。
「いいのか? なんか絵梨香のやつ、えらく荒れてたぜ」
紫城絵梨香は〈ディジール〉の専属のダンサーで、抜群の人気を誇っているアイドルであり、いまケージとナムの話している立体駐車場の階下のダンスフロアで踊っている最中だった。絵梨香の話題は大抵いつもケージのことばかりだ。先ほど立ち寄った折りにもナムはさんざん絵梨香に愚痴をこぼされたのだった。
「いいんだよ、恋の駆け引きってのは焦らせたほうが勝ちなのさ」
ケージが嫣然とした微笑みを見せて言い、そのあまりにも艶っぽいしくざにナムはドギマギして、
「な、なるほどな……」
と吃って答えた。
「じや、ごゆっくり」
皮肉っぽい笑みを浮かべてケージは言い、少女は真っ赤になって目を逸らす。
「〈ガーデン〉にはアクセスしといてやるよ」
「サンキュ」
短い会話を交わし、ケージがあっさり去った後で、ナムはやっと少女に向かい、
「さあて、待たせちまったな」
と二枚目の顔を作って言った。
「いいの?」
少女は不安げ面持ちでナムの顔を見る。
ナムの仕事のことは少女も知っている。自分は中途半端なままで放り出されるのではないかと思っていたのだ。
「馬鹿だな、女の子を天国に送り届けることより大切な仕事なんてないよ」
ナムは『飛びっきり』の笑みを見せ、少女の頬に顔を寄せてささやいた。そして肉棒に力を込めてブルンッと一回動かす。
「はあんっ」
ブランクを感じさせずに屹立を続けていた肉棒が蜜壺の柔襞を抉り、少女は甘い声を漏らした。そして約束通り少女を天国に送り届けるために、ナムはゆっくりと身体を起こした。
*
〈ガーデン〉は紫城貴和美の移動式架空住居だった。全長50メートルのコンテナ型の建物で、原子力推進の前世紀的な危険な代物だ。
大空を飛びまわり、ひとつところにじっとしていることはめったにない。アクセスをとるには、〈ディジール〉のダンサーで貴和美の実妹でもある紫城絵梨香か、《情報屋》の〈お喋り〉ナムに頼むしかなかった。
ケージが屋上に出ると、ナムからの連絡を受けたらしい不格好な長方体の〈ガーデン〉が、だだっぴろいコンクリートのフロア中央で、ハッチを開けて待っていた。
地上五階のビルの屋上は、海の上の人工島だけあって風がきつい。
微かに油のにおいが混じった潮のにおいに煽られながら、ケージはタラップをのぼり、〈ガーデン〉に足を踏み入れた。自動的にハッチが閉まり、漆黒に宝石をちりばめた夜のネオ東京のイリュミネーションが視界から消える。
見掛けの無骨さからは想像しにくいが、〈ガーデン〉の内部はまるで高級マンションを思わせる造りになっていた。ピットふうの無機質な入り口をぬけて、金属製の分厚いドアを開けると、廊下には真紅のビロードの絨毯が敷きつめてあり、壁にはセイレーンの彫刻があしらった銀の燭台が取りつけてある。
人間の体温に反応して、清楚な微笑をたたえた半人半魚の美女たちの捧げ持った聖杯に光球が点り間接照明で廊下を照らす。相変わらずの凝った仕掛けだ。
「貴和美、奥か?」
ケージが声をかけた途端、あかあかと点いた照明が消滅し、廊下が真っ暗闇になった。
気配が動いた。
出し抜けに闇の中からケージに向かってあからさまな殺気が投げつけられる。
(後ろだ)
思うよりも速く反射的に銃——コルト社製オートマティック——を抜いて殺気を追った。
カッ
銃の先に何か堅いものがあたる衝撃があった。小さな爆弾が破裂したような衝撃。
「ちっ」
舌打ちしてためらわずに銃を捨てた。銃口に何か異物が差し込まれたのだ。銃を捨てたケージの右脇腹を狙って蹴りがくる。その足をつかむと、襲撃者はくるっと身を翻してもう一方の足でケージの頬を払う。
スウェーバックで避け、身体が離れる。間髪入れずに襲撃者が右の拳をケージの顔面に向けて打つ。
軽くかわすつもりが予想外に拳が伸び頬の皮膚を裂いた。
血が飛沫いた。
ケージの鼻孔に錆びついた金属質のにおいがひろがる。全身の筋肉に緊張が走り、
「ヒュッ」
と鋭く息を吐いて規則正しく繰り出される襲撃者のワン・ツー攻撃をかわし、数瞬タイミングを計って右手首をつかまえ逆間節を決めて転がす。
ゴロン、と鈍い音がして床に10センチくらいの鉄の塊が転げ落ちた。
隠剣、通称暗器ともいわれる武具だった。拳の中に隠し持って、敵に素手だと思わせておき使う隠し道具だ。小型だが自由に扱えるようになればかなりの効果が期待できる。実際ケージは間合いを見損なって傷を受けたのだった。
「ちゃんと鍛練はしてるみたいね?」
組み伏せられた襲撃者が、のんびりした声を出した。関節を決められているのに、一向に痛がる様子もない。ケージが手加減しているわけでもなかった。
「これも教育のつづきなわけ?」
ケージはあきれた声を返す。
ポッ、と照明が点いて廊下がふたたび明るくなる。
「ま、ひさしぶりだからね」
襲撃者は女だった。空いているほうの手で決められた間節をポンポンとたたき、ケージが手を離すと、コキコキと間節をくねらせ、立ちあがって答えた。
妖艶、という言葉がこれほど似つかわしい容姿の女はいない。腰まで垂れた潤いのある黒髪、冴えざえとした真白な肌からは麝香の芳香が立ちのぼり、切れ長の瞳と赤い口唇にすべてを知りぬいた女の微笑が浮かんでいる。
全身から色気が雫になってしたたっている美女。
紫城貴和美であった。
黒無地の長袖Tシャツに、リーバイスのブルージーンズを履いている。
普段はドレスしか着ないのだが、どうやら自分が訪ねてくるのを知って、襲撃するためにわざわざ着替えたらしい。しかしそれでも貴和美の妖艶な美しさは、いささかも損なわれていない。
「貴和美、仕事の話なんだ」
ケージは眩しそうに苦笑して女に向き直り、改めて言った。床に落ちている拳銃を拾い、パーカーの内側のホルスターに収める。
銃口には万年筆が突っ込まれていた。点穴針という、使い慣れて自分の『気』がなじんだ道具を、超高度の強度を持った武器に変ずる技を使ったものであり、ひっこ抜くのに時間が掛かる。
「あんたが仕事以外の話で、あたしに会いにきたことがあったかしら?」
貴和美がいたずらっぽい笑みをかえす。
「ま、いいわ。お入んなさい、ホッペタの手当てもしてあげるから」
ひらひらと手招きし、廊下の突き当たりのドアを開けた。
とてつもなく豪華な内装の部屋だった。
毛足の長いビロードの絨毯は紫で、渋茶の4人用ソファーの向こうに、壁にぴったりとくっつけて中世イスラム王候ふうの天蓋つき寝台があり、その脇にシャンパンのボトルとヴェネチアグラスの載った銀盆がある。寝台の枕のある反対側の壁は一面がスクリーンになっていて、いまは夜空の闇を映しだしている。
ソファーの後方にあるちいさな食器棚はヴィクトリア様式の年代物で、ガラスの奥にならんでいる食器類も、ウェッジウッドだのの超高級品に違いない。
寝台の枕のある側の横には巨大な書棚があり、主にフランス語の表記が背表紙に読み取れる典雅な皮で装丁された稀観本の類いが、部屋の主人にだけわかる微妙な配列で収められている。
移動式住居の中とは思えない、やけに高い天井からはシヤンデリア。五色の光を浴びて壁と寝台にショールが掛かっている。
たしかに豪華だし、調度は全部本物の年代物、高級品に違いないのだが、全体の印象としては何となくちぐはぐな、適当により集めてきたキッチュな印象がある。だからといってまったく統一性がないわけではなく、どこか常軌を外れた主人の趣味を感じさせる異常さがあるのだ。
「また物が増えたな」
ケージが食器棚の上に鎮座している木彫りの熊の置物を手にとって言った。
「ああそれね、こないだ絵梨香が長野に行ったときのおみやげよ」
どこからか救急箱を持ってきた貴和美が答える。ソファーに座り、手際良くシールを貼り手当てを済ませる。
「美少年が台無しね」
ころころと笑った。たしかもう30の半ばを越えてるはずだったが、まるで年齢を感じさせないあどけない笑顔にケージは戸惑ってしまう。
「あなたがやったんだろ」
心臓の鼓動が高鳴るのを、ためいきをついてごまかした。
「あらあ、親心よ、親心。あんたの腕がなまってないかって確かめてあげたのよ」
貴和美は動じるふうもなく答え、寝台の上に優雅な動作で座り直した。
「で、仕事って?」
そして聞く。
紫城貴和美は伝説の《掃除屋》であった。まだ乳飲み子だった妹の絵梨香を抱えながら、徹底した仕事ぶりは現在のケージよりも恐るべきものであったという。すでに引退して久しいが、現在も裏世界では隠然たるコネクションと実力を有している。しかしケージにとってはそれ以上に、彼女に頭が上がらない理由があった。
紫城貴和美は、ケージの『育ての親』だったのだ。
今から13年前、場所は香港。ケージがまだ物心つくかつかない幼児の頃のことだ。チャイルド・ポルノを収入源にするマフィア・グループを《掃除》する仕事を請け負ったときに、まさにこれから毒牙にかかろうとしているところを貴和美が救ったのだった。
冷酷非情な《掃除屋》をその気にさせたのは、すでにその頃から常軌を逸して輝きを放っていたケージの美貌だった。
紫城貴和美は『美』をこよなく愛する人間であった。
宝石のごとく美しい子供を、貴和美はまさに磨くように育て、ついには自分をもしのぐ恐るべき技量を有した《掃除屋》として仕事を引き継がせた。兄妹同前に成長したケージと絵梨香が濃い仲になったのは自然の成り行きだった。
貴和美は引退し、《武器屋》になった。戦後体制の続くネオ東京では、銃火器等の規制が厳しく、政府とのコネクションもしっかりと押さえてある貴和美は治外法権を手に入れており、〈ガーデン〉にはほかのどこへいっても手に入らないブツが、よりどりみどりで揃っていた。
ケージは短く大門美朋の事件を説明し、誘拐団襲撃のための武器を購入したいのだと来訪の真意を告げた。
「なるほどね。いいわ、倉庫から勝手に見つくろって持っていきな。ツケとくから、報酬があったらまたおいでよ」
ふんふん、とつまらなそうに聞いていた貴和美はあっさり答えた。5億クレジットという法外な報酬金額にも眉ひとつ動かさない。クライアントの言い値なんて実際に手にするまでは信用するな、とよく忠告されたのをケージは思い出した。
「そういえば、氷室ってやつ知ってる?」
ふと何かを思い出した口調で貴和美が聞いた。
「〈崑崙〉?」
ケージは当然世評高い同業者、氷室葉介を知っている。
「どうもネオ東京にいるらしいわよ。その事件に関わってるんじゃない?」
「かまわないよ、べつに」
余裕の笑みを浮かべて、ケージは答えた。
「もったいないわねえ」
言葉とは裏腹に、貴和美も楽しくってたまらないという表情で言う。一流の《掃除屋》同士がぶつかればかならず片ほうは死ぬ。貴和美はそういう意味で『もったいない』と言っているのだ。
「とにかく、ブツを見せてもらうぜ」
フン、と鼻を鳴らし、ケージはソファーから立ちあがった。
「ちょっと待って」
「なんだよ」
手招きするので寝台まで近より、ケージは聞いた。
「ひさしぶりじゃない、いいでしょ?」
貴和美が鼻にかかって甘えた声を出した。
「ね?」
腰をあげてケージの首根っこを両手で抱え込み、寝台に躯をはべらかす。
「お、おい」
ケージは貴和美にまたがるかたちになって困った顔をした。
(まずいな……)
鼻孔を包む麝香のにおいに煽られてひとりごちる。旧式のスプリングが軋む音が警報に聞こえた。
「ち、ちょっと待てよ」
思わず声が震えた。てのひらをひろげたくらいの距離に、貴和美の顔がある。
「なあに?」
その顔が愛くるしく微笑んだ。
条件反射で、一度は収まった胸の高鳴りが、急スピードでよみがえる。
「あんたは俺の親代わりのはずだぜ」
震える声で言った。
「何いまさら言ってんの?」
清らかな天使の微笑が、一瞬で魔性の笑みに変貌する。
美しい物をこよなく愛する貴和美は、ケージに《掃除屋》の仕事ばかりでなく性愛の技術もたっぷり教え込んだ過去があった。
「だ、だから、こんなこと、不自然だろう? 絵梨香にバレたらどうすんだよ」
無駄だと知りつつ、ケージはそれでも抵抗した。もしかすれば、妹思いの貴和美には通用するかもしれない。
「大丈夫よ、絵梨香には内緒にしといてあげるから」
はかない希望を打ち砕くあっさりした返答だった。
基本的に冷酷な独身主義者である貴和美には、嫉妬心とか独占心とかいうものがまったくなかった。貴和美にとって、ケージは自己の欲望を対象化する、お気に入りの『モノ』でしかないのだ。
「でも……」
「しのごのいわないの」
なおも渋るケージに、貴和美はピシャリと言い切った。そのまま上半身を起こし、ケージの口唇を、伸ばした舌でそっと舐める。口唇を口唇で咥えたりして、口蓋に舌を差し入れて歯腔を舐めまわす。甘い吐息と唾液が混ざり合って音を立てる。
(まあ、しかたないか……)
その音を聞いているうちに、ケージはなんとなくどうでもよくなってしまった。とにかく、いつも蠱惑的な貴和美の舌づかいに魅せられてしまうのだ。
力を抜くと、貴和美は口唇を離し、にっこり微笑んでケージを見つめる。
「やっとその気になったみたいね」
「しょううがないだろ」
いつまでたっても子供あつかいされるのに照れて拗ねた口調になった。パーカーを脱いで肩から吊しているホルスターも外し、いつでも手に取れるようにベッドランプのシェードにひっかけておく。Tシャツも脱ごうとして、
「待って、あたしがやってあげる」
と貴和美がそれを制し、ケージの頭を胸に抱え込んでごろんと転がり、大の字に寝かせた上に、四つん這いに覆いかぶさる格好になる。
「うふふ……」
いたずらっぽい笑みを見せ、服を脱いで下着姿になる。バンザイさせてTシャツを脱がせ、カーペンターパンツと下着とジャングルブーツ、それにソックスを次々と床に投げ捨てていく。
「ケージの身体って、いつも熱いわ。それだけで感じちゃう」
熱い息を吹きかけて真白な肌に頬擦りし、ゆっくりと鎌首をもたげて大きくなりつつある陰茎を、そっと握りながら言う。
「貴和美の躯は冷たいのにな」
「あら、肌の冷たい人間は心が温かいっていうのよ」
「それって手の話じゃなかったっけ?」
くっきりと段のついた腹筋に口唇を滑らす貴和美の言葉に、ケージも軽口で受ける。急所を知りつくした繊細な舌の動きに、官能は否が応にも嵩まっていった。
「ちょっと待っててね」
亀頭に軽くチュッとキスしてから貴和美はブラジャーをはずし、ケージの両足をMの字に開いて内太腿を舐めまわす。
ゆっくりと右足を抱え込み、膝裏からふくらはぎと舌を移動させ、露わになった乳房で足を挟み込んで擦りつけた。たっぷりした重量感のある乳房は、ぴん、と肌が張りつめて、シュッ、シュッと鋭い音を立て、鈍感な脚の皮膚に鳥肌の立つ快感がひろがった。続けざまに踵から足の裏をべろんと舐め、足の指を一本ずつ口にふくみ丹念にしゃぶる。
「ふん、んぐ、ふむ」
目を閉じて陶酔した表情を見せ、肉棒に添えた手に少しずつ力を込めて、ゆっくりしごきはじめる。
「んっ」
腰の奥に鈍痛に近い快感が疾り、ケージは短い声を出した。
「ぷはあっ」
大きな声を出して貴和美が足の指から口唇を離した。右足も離すとNの字に変形していたケージの脚はふたたびMの字に戻り、その後を追ってふたたび股間に戻る。アヌスから陰嚢の縫い目を尖らせた舌先でチロチロと舐めあげていき、横笛を吹くかたちで肉棒の砲身を軽く咥え、亀頭に近づいていく。
「フフッ、ここは正直よね」
表情だけはなんとか平静を保っているケージを上目遣いで見上げ、先走りの透明な汁を分泌し、吐息がかかるだけで、ピクッ、ピクッ、と反応する勃起した肉棒を見つめて貴和美が言った。そして歯を口唇でくるみゆっくりと肉棒を呑みこんでいく。舌を使いながら根元まで咥え込む。チュバ、チュバ、と音を立ててしごき、頭が上下に揺れるのにつれてサラサラの長い髪の先がケージの内股に当たった。
肉棒を包む生温かい口蓋の感触と、くすぐったい髪の質感がべつべつにケージの官能を刺激する。
「ああ……」
ケージの喉から、思わずためいきに似た声が漏れた。
(まずい……)
このままでいいようにされてたまるかと思った。いつもいつも貴和美のペースで進んでしまう。たまにはこちらの思う通りにして、イカせまくってやるのだ。
「き、貴和美ちょっとこっち」
上半身を起こして貴和美の腰を自分に寄せ、シックスナインの姿勢を取った。
「あん」
貴和美が甘い声を出す。
まだ何もしていないのに、パンティーの中央にはすでに楕円形の淫らなシミが出来ている。くねくねと揺れる腰を押さえ、白い布切れをはぎとる。
ぷっくりとふくらんだ花弁がひらき、勃起したクリトリスが内側から包皮を剥いてのぞく。どぎつい朱色に染まった膣口が、ぽっかり口を開けてひくついている。とめどなくあふれ出す分泌液が、秘裂のそこかしこにまとわりついてきらきらと輝く。
「んんっっ」
ケージは尻肉を捏ねて押しひろげ、貴和美が肉棒を咥えたままでくぐもった声を出すのを、嗜虐的な悦びをもって聞いた。
「ふっ、ふうううっっ」
クリトリスから膣口をべろん、と舐めあげてやる。桃尻の全体がブルブルッと震える。
「んっ、ふっ、……ふうううっっ」
舌先を尖らせて肛門をほじくり、唾液をたっぷりなじませてから中指を挿入した。
「いや、そんな、……汚いわ」
いやいやをして貴和美が腰をくねらせる。尻肉にえくぼが浮かび、柔肌からしっとりと汗が滲みだす。抵抗する言葉とは裏腹に、媚肉の反応は敏感極まりないものだった。
「ふうんっ、んぐ、ふっ、ううっ」
苦しげに声を漏らすたびに、肉棒を呑みこんだ喉奥が収縮して亀頭を締めつける。
チュボッ、と大きな音を立て、貴和美が肉棒を口唇から引き抜いた。
「ね、お願い、いっぺん口の中で出して……、それから、それからそっちでしよ?」
欲情に蕩けきった顔でふりかえる。
「その癖相変わらずなんだな」
だらだらと白っぽい液体を垂れ流しつづける膣口から口唇を離してケージは答えた。
7年前にはじめて関係をもって以来、貴和美はかならずケージの精液を飲み干すことからセックスをはじめるのだった。もう何リットルのザーメンが貴和美の胃袋に収まったのかケージには想像もつかないが、いまや貴和美の血と肉の何パーセントかはケージの射精したタンパク質によって出来ているとすら思えた。
「好きなのよ、あたし精液の味っていうか、舌触りとにおいがね」
貴和美は少し恥ずかしそうに答えた。激しく肉棒をしごき立てたために、ルージュがところどころ剥げ、口唇のまわりが涎れに混じってピンク色に染まっている。ほつれた前髪が汗で額にべっとりはりつき、とても浅ましい表情をしているはずなのに、まるで汚れを知らない少女が何かスポーツでも一生懸命やっている最中の表情に見える。
「いいよ、でも俺もこのところご無沙汰だからかなりの量が出るぜ」
わざと冷淡に言った。
「嬉しい」
そんなケージの態度にはまったく頓着せず、貴和美は瞳を輝かせて言う。嬉しそうに頬擦りしてから肉棒を咥え直した。てのひらで睾丸を転がし、アヌスに指を滑らせながら一心にしゃぶる。口の中に唾液を溜め、微妙な舌づかいでことさら淫猥な音が立つように工夫しながら頭を振った。
腰の奥に溜まった快感の塊が、血液になってどんどん肉の凶器に流れ込んでいき、行き場を求めて暴れはじめた。
もう限界だ。
「い、いくぜ」
ケージが短く宣言する。
「ふん、……ふん、う」
貴和美は肉棒を咥えたままでうなずく。
その瞬間、貴和美の口中で亀頭がぶわっと膨脹する感触があって、ビュッビュッと精液が喉奥に向かって放出された。次から次にあふれ出す液体を舌で受け止め、大量の精液をこぼさないように口唇を窄めてじっとしていた。
長い長い射精が終り、貴和美はゆっくり喉越しの感触を楽しみ一滴残らず飲みくだした。亀頭溝を舌先でほじって強く吸い、肉棒に残った精液まで絞り出して啜る。
「うっ」
ごくごく、という嚥下音まで聞こえる強烈な吸引に、ケージもぶるっと身体を震わせて短い息を吐いた。
しかし怒張はまったく衰えず、さらなる刺激を求めて屹立している。
「いくわよ」
肉棒から口唇を離して貴和美が言い、ケージには背中を向けた姿勢でまたがり直し亀頭を膣口にあてがった。そのまま躊躇なく腰を降ろす。
肉棒はさしたる抵抗もなく膣口を押しひろげながら埋め込まれていく。あいかわらず入り口は締めつけがきついが、内部はぬるま湯の中みたいにとらえどころがない。陰茎に押し出された愛液が膣口からあふれだし、ケージの下腹から陰嚢、肛門から尻に伝ってシーツを濡らした。
「はっ、あ、あ、あああ〜ん」
長く尾をひく喜悦の声を上げ、貴和美は躯を弓なりに反らしのたうって悶えた。真っ白な背中の上で長い黒髪が悩ましげに揺れる。生温かい膣襞が痙攣して蠢き、肉棒をどこまでもどこまでも吸い込んでいく。
「はっ、はっ、あんっ、ああんっ」
根元まできっちり咥えこんだのを確認して、貴和美は断続的に短い声を出し、自分から腰を大きくグラインドさせはじめた。
「くっ」
ケージは上半身を起こし、背中から貴和美を抱きかかえる姿勢を取った。裸の胸と背中のあいだで踊る髪の感触が心地好い。両脇から手を差し入れ、ぼってりとふくらんだ乳房を揉みしだいた。
「ああっ、くっ、いいっっ」
つん、と尖った乳首をケージが指の腹で転がすと、貴和美は躯をよじらせ感極まって叫ぶ。
「はぐ、うむ、ふっ」
首をひねってケージの口唇にむさぼりついた。もどかしそうな貴和美の舌の動きが、平常ではない官能の嵩ぶりをあらわしている。同時にみずから股間に手を伸ばし、クリトリスをいじくりはじめた。
ジュブジュブと白っぽい分泌液が泡だって淫猥な音を立てる。
「気持ちいい……、気持ちいいよう……」
目を閉じて一心に快楽を訴える。
「あんまりひとりで勝手にイクなよ、俺のほうもちょっとは楽しませてもらうぜ」
完全にこっちのペースだな、と得心してケージは言った。桃尻を抱えて身体を起こし、その拍子に膣口から肉棒が抜けた。
「ああんっ、いやっ、早く入れてっ」
犬の姿勢で四つん這いになり、貴和美は腰を揺すってはしたない懇願をする。
ケージは有頂天になった。自分の育ての親にして、仕事上の『師匠』、そして『はじめての女』でもある高慢ちきな紫城貴和美が、はいつくばって腰をあげ、やって欲しいと懇願しているのだ。尻肉をひろげ、だらだらと垂れる白っぽい分泌液にまみれた秘肉はぽっかりと口を開き、ひくつく肛門まであからさまにケージの視線にさらしていた。
「これが欲しいの?」
わざとのんびりした調子で聞き、ちょん、と亀頭の先で秘肉に触れる。
「そうよ、それっ、早く入れて、お願い」
それだけの軽い刺激で、貴和美は腰をがくがく震わせて叫んだ。
「分かったよ」
ケージは楽しそうに言い、肉棒の根元を握って軌道を定め、バックから一気に挿入した。
ブブブブブブ……、と、膣口から空気が漏れる間抜けな音が響く。
「はっ、はああああ……」
がくんがくん、と貴和美は髪を振り乱し頭を上下させた。
「ダメ、ダメ、イッちゃう、またイッちゃうう……」
両手が躯を支え切れなくなり、シーツに顔を擦りつけて呻く。ケージは背後から覆いかぶさって貴和美の耳殻を口にふくみ、耳の穴に舌を差し入れて舐め、指をつながっている股間に伸ばしてクリトリスを捏ねた。
「いやっ、あああっ、あああおうっっ」
連続して突き入れられる肉棒の動きと、秘芯をひねりつぶすほどの指責めに、貴和美の理性はふっとんだ。
「俺もそろそろイクぜ」
空いているほうのてのひらで乳房を揉みしだき耳元でささやく。
それが合図になった。
「ひゃああああああああ……」
「ううっ」
ひときわ高い声を出す貴和美の、痙攣する膣襞の奥にケージはたっぷりと精を放った。
「ああああああああっっ……」
子宮口に白濁液がたたきつけられて、貴和美はもう一段上のオルガスムスに垂直に落ち込んでいく。ズルッと糸をひいて肉棒が引き抜かれ、たちまち膣口から精液がだらだらしたたり落ち内腿を濡らす。
「あああん……」
貴和美は力なくシーツの上に崩れ落ち、満ち足りた声を出して寝そべった。
「最高だったわ……」
薄目をあけて微笑む。いつもの妖艶な微笑だった。
「これも教育の賜物だよ」
肩をすくめてケージは言った。本当ならためいきのひとつもつきたいところだ。結局、貴和美のいいように操られていただけだったことを、その微笑を見れば理解せずにいられなかった。
「じゃ、教育ついでにもうひとつ忠告しておくわ」
そんなケージの内心にはお構いなく貴和美は言う。
「なんだよ?」
「あんたこのところ銃に頼り過ぎてるよ。もっと慎重に動いたほうがいいわね」
「ちぇっ」
ケージは思わず鼻を鳴らした。どれだけ肉体を重ね、さんざん自分のペニスでめくりかえしても、この女にはかないっこない。
「ね?」
貴和美が弾んだ声を出した。
「わかったよ、気をつける」
「そうじゃなくって、どうせナムに探らせてるんでしょ? こっちに連絡いれるようにいってあるからさ、もう1回しよ?」
ぴん、と人差し指を立て、小首を傾げたコケティッシュな上目遣いで見つめる。
「やれやれ……」
いうまでもなく、ケージは貴和美には逆らえないのであった。