トラックが羅列されたデータの瓦礫を乗り越えるたびに、ガタガタと車内が揺れる。俺はシートにしがみつきながら、リュカに耳打ちする。
「そ、そういえば…、俺の体はどうなるんだ?」
「7回も失敗したんだから、もうニューエにも現実にも戻れないわ。不適合遺伝子として、あなたの肉体は凍結若しくは抹消されるわね」
「死ぬ、ってことか?」
「肉体だけの話よ。ニューエには辿り着けなかったけど、実際にここにあなたの意識は存在してる」
「ニューエと現実の狭間の世界、か…」
「現実に戻りたい?」
リュカの問いかけに、俺は首を横に振る。窓から吹き込む風に靡く髪をかき上げ、リュカは小さく口の端を上げる。
「これから大変ね。ニューエの追尾プログラムやガードシステムも既に起動されてる」
「逃亡者ってことか。まあ、行くところまで行ってみるさ」
俺はポケットから取り出した銀色のロザリオを、リュカの首にかける。
「お守りだ」
「赦し、ってこと?人間らしいわ」
リュカは手にしたロザリオを暫く見つめた後、そっと服の中に入れた。
「あんさん達、世界はニューエだけじゃねえさ。わしだって自分の体がどこに在んのか、もう覚えてねえ」
「聞いてたのか。やっぱりあんたハッカーだろ?」
俺の言葉にげらげらと笑いながら、老人はおぼつかない様子でハンドルをガタガタと切る。
「姉さん達、これからどこ行くんじゃ?」
「そうね…」
リュカは揺れる車内で体を支える俺の手をそっと握り、言った。
「世界の果て、かしら」
(終)