背中あわせ

ゆかりには3歳上の姉がいます。ゆりこって言います。今、難病を患ってて……その命もそう長くはないんですよ。うちの家族はここで毎年、花見をするんですけどね……ゆりこは桜が大好きで……だから、桜の下に眠ってもらおうって夫と決めたんです。ゆかりに聞かれていたんですね」

「……ありがとうございます。十分です」

 声を詰まられている母親を見て、思わず出た言葉だった。

「ゆかりにはそのうち話すつもりなんで。また遊んでやってください」

「……はい。ゆかりちゃん、言葉使いもしっかりしてて、いい子ですね」

 それから、母親に連れられて少女は帰っていった。

 

 

「そういうことか。俺たちの心のモヤモヤは少し晴れたけど、何も解決できていないような気がするよ。足を踏み入れなきゃ良かったかな」

 その気持ちは分からないわけでもない。

「また、ここにデートに来ようよ」

「真実を知った、ゆかりちゃんに何て言葉をかけるんだよ?」

「それはこれから考える。あっ、ネットの力は借りないよ」

 この一週間。ネットでも現実でも多くの出会いがあったなと物思いにふけっていう自分がいた。亮介から「背中合わせ」と言われたことが、今でも強く心に残っている。ネットの世界はいくら正面で向かい合っているつもりでも、結局は背中合わせで話をしているのかもしれない。だが現実も一緒だ。正面に向かい合っていても人間の真意など見抜けない。「亮介って、私を呼び出して直接、告白してくれたよね?」

「なんだ、いきなり?」

 それでも顔を突き合わせば、伝わることが必ずあるはず。

香城雅哉
作家:香城 雅哉
背中あわせ
0
  • 0円
  • ダウンロード

13 / 13

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント