『風車に乗ったコウタくん』

『風車に乗ったコウタくん』


その村のはずれには、大きな風車が立っていました。

そこに、村中のみんなが集まっています。

みんなが、今か今かと待っていました。

今日は子どもの日。

そして、コウタの夢が実現する日。

村にそびえる4つの風車のうちの1つ、その風車の羽根の1つには、小さなゴンドラが

くくりつけられていました。

「ゴンドラというよりも、大きなハンモックみたいだな」

とコウタは思いました。

去年の秋、パパとキャンプに行った時のことを思い出して、コウタはちょっと悲しい気持ちになりました。

「来年のゴールデンウィークが来たら、遊園地にに連れて行ってやるぞ」

パパはそう言っていました。

でも・・・

コウタのお父さんは、去年の暮れに事故で死んでしまったのです。

コウタはそれからずっと泣いてばかり。

ママも、おじいちゃんも、おばあちゃんも、みんな困り果てていました。

そんなコウタが春休みの宿題で書いた、「夢の遊び」という作文が、全国のコンクールで金賞をもらいました。

友だちはみんなビックリしていたけど、1番ビックリしたのはコウタ自身でした。

担任のケイコ先生はもちろん、校長先生からもほめてもらいました。

でも、何よりうれしかったのは、ママにほめてもらったことです。

「コウタはママの自慢の息子だよ。パパも天国で喜んでるよ」

って言って、コウタをぎゅっと抱きしめてくれたから。

「泣いてばっかりで、パパも心配してたと思うよ」

それから、作文のことが有名になって、村長さんと発電所の人たちが、コウタの夢を

実現させようって話になりました。

「それじゃ、そろそろ始めましょうか?」

村長さんが言うと、村のみんながコウタに注目しました。

ゴンドラに乗ると、消防団のおじさんが命綱を結んでくれました。

コウタはドキドキです。

「じゃあ行くよ」

発電所のおじさんの合図で、コウタの体はふわっと浮き上がりました。

風車が、ゆっくりと回り始めたのです。

(やっぱり、こわい)

コウタは心の中で思いましたが、ガマンしました。

もう泣かないって決めていたから。

青い空は果てしなく、ぽこぽこと羊の大群のような雲が、風に押されてゆったりと流れています。

風の力で風車も回ります。

ぐんぐんと地面が遠くなって、みんなが小さくなっていきます。

そして、ついにてっぺんまで昇りました。

その時、コウタはお腹にいっぱい空気を吸い込んで、思いっきり大声で、青空に向かって叫びました。

「パパ~!見てる~? ぼくだよ~!!」

空も雲も、何も答えてくれなかったけど、コウタには分かりました。

太陽がまぶしくて、コウタからは見えなかったけど、パパは見ててくれたって。

今度は地上に向かって羽根が回りだしました。

もうコウタは怖くありませんでした。

「ジェットコースターや観覧車よりすごいぞ!」

だって、風車に乗ったのなんて、ボクが始めてだよってコウタは思いました。

ゆっくりと1周してきたコウタを、みんなが拍手で迎えてくれました。

コウタは得意げに、ママの所へ戻りました。

「ママ、ボク、天国のパパに1番近い所へ行ってきたんだ。パパ、ちゃんと見ててくれたよね?」

「うん。ビックリして見てたと思うよ。泣き虫のコウタが、こんなにすごいことしちゃったんだもん」

ママはそう言って、コウタをぎゅっと抱きしめました。

おじいちゃんとおばあちゃんも、ほっと一安心して、コウタの頭をなでてくれました。

「さあ、次の人~! みんな1列に並んで~!」

村長さんの掛け声に、子どもたちみんなが歓声をあげて集まってきました。

風車を見上げる子どもたちは、みんな笑顔でした。


おわり

北城 駿
作家:北城 駿
『風車に乗ったコウタくん』
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