ヒロN式「ヒロN式ガイドブック」

■これ以上ないというくらい凹む

 

 メイド喫茶は楽しかった。

 年頃の女の子たちと一緒に過ごした3年間は、一生忘れないくらい、ボクにいろいろなことを教えてくれました。

 その成果が、「女の子の取扱い説明書」に結実したのです。

 しかし、商売をやってるヒトってのは、わかると思うのですが、こういう商売をやってると、ヒトを騙して、金を巻き上げてやろうという輩が、やたら近づいてくるものなのです。

 で、ボクは、いろいろな奴に騙されて、金をむしられて、3年で、この店を閉じなければならなくなりました。

 

 49歳の時です。

ボクは、それまでの人生、もう本当に数え切れないくらい、いろいろな失敗をしでかしてきて、

もう本当に「自分はダメなやつだなあ」と思っていたのですが、この「メイド喫茶」の失敗は、本当にコタエました。一生懸命、店のために働いてくれた女の子たちをいっぱい泣かせてしまったし、もう身体もダメだし、金もなくしたし、仕事もない。もはやこれまで。

 今、考えてみると、確かに、いろいろ悪い大人たちに騙されたのが、直接の原因でしたが、やっぱり、こういう日銭を稼ぐような店は、オーナーがしっかりして、いつも店に目を光らせて、スキを見せないようにしていなくちゃならない訳で、それが、半病人のヘロヘロ男では、なめられ、よからぬことを考える輩につけ込まれることになります。

 全てを病気のせいにするつもりはありません。

 それまでの人生を考えても、ボクは、本当に、間違った選択ばかりしてバカばっかりやってきました。そのくせ、もっと、始末が悪いことに、わりと自分に自信があったりして、早く言えば、うぬぼれていたわけで。自分は、いつか成功できる、と心のどこかで、常にそんなふうに思い込んでいるところがあったのです。

 でも、最後の望みの「メイド喫茶」をしくじったところで、ボクは、目が覚めたのです。

 

「オレって、つくづくダメだなあ」ってこと。

 で、ボクは、全ての稼業を停止しました。

 

 それからは、ひどい虚無感に襲われました。

 

 なんにもヤル気が起きないのです。(まあ、どうせ、ボクみたいな奴は、やる気を起こしても、ろくなことないけどなあ)

 しばらくは寝て過ごし、それに飽きると、昼の公園に行って、ベンチに座り、鳩を見て、一日を過ごしました。よく、コントやドラマで、会社をリストラされたおとうさんが、ぼんやりと公園のベンチに座っているシーンが出てきたりしますけど、ベタにあれですよ。

 我ながら、あまりにもベタなんで、笑ってしまったですけどね。

 あれ、結構、気分がいいんだ。なんか、憑き物が落ちたみたいでね。

 

 そんなふうで、店を閉めてから、3ヶ月くらい、廃人同様に過ごしました。

 

■そして、作家になる。

 

 何にもない、何にもない。

 やることない。したいこともない。したくないこともない。

ヒトをあてにすることも、ヒトにされることもない。

空白。

 そんな空っぽの状態をしばらく過ごしているうちに、なんだか退屈になってきた。

 そして、本当に自分がやりたいことってなんだろうか?って考えるようになりました。

 少し、元気が戻ったのです。

 

 で、いろいろ考えた。

 ボクは、基本、あほうで、無能力な人間だから、多くのヒトを巻き込むようなことは、もうやりたくないと思ったし、やれない。

 それから、日常的な通院という時間的なハンデもあります。

 あと、この病気というのは、時々というか、頻繁に、ものすごく体調が悪くなる。

 体調がそれほど悪くない時でも、ずうっと疲労感があって、聞くところによると、常人の3倍くらい疲れるらしいのです。というか、疲れるな、本当。

 なにしろ、血液をろ過する腎臓の働きが失われているので、すぐ血が濁る。

 体内の疲労物質も排出されない。

 それから、腎臓というのは、この血液を作る役割を持っているので、この機能が失われると、慢性的な貧血状態になる。

 普通のヒトは、寝不足とか、無理に長時間仕事をするとか、酒を飲みすぎる、とか、理由があって、疲れたり、体調が悪くなったりするもんですが、ボクの場合は、なんの理由もなく、体調が悪くなり、動けなくなったりする。

 そういうことだと、もし仮に、ビジネスなんぞをやっていて、いついつ、この日時に打ち合わせをしましょう、とか、いついつまでに、この仕事を仕上げちゃいましょう、とか言っても、できなくなる危険性が高いわけです。

 シフトとか、拘束時間がある時給仕事に就くこともなかなかできない。

 つまり、ヒトにあてにされるような仕事は基本できないってことになる。

 まあ、おんなじような病気を抱えているヒトでも、ちゃんと仕事しているヒトもいますから、個人的な言い訳に過ぎないかもしれないけど、とにかく、そういう不安を常に抱えているわけです。

 

 そうすっとさあ、本当に、できる仕事ってないんですよ。

 まあ、一度死んだ人間だから、仕方ないけどね。

 で、会社を興すことも、どこかに雇われることも諦めた。

 

 でも、何かやりたい。

 何かをやって生きていたい。

 そう思えるくらいまで、回復した。

 

 それと、逆に、前向きな気分も出てきた。

 つまり、もう社会に用済みの一度死んだ人間なんだから、さあ、もう稼ぎのために生きるのは辞めて、自分の本当にやりたいことだけやって、生きようじゃないか、という気になった。

 それって、結構、いいじゃん。

 食えないかもしれないけどさ。

 

 で、諦めて諦めて、いろんなことを諦めて、最後に、残った選択肢は「書くこと」でした。

 面白いことが書けるか、とか、作家になれるか、とかじゃない。

 ヒトに認められようが認められまいが、基本どうでもいいんですよ。

 だって、今のボクができることってそれしかないんだから。

 

 で、メイド喫茶の経験をベースに「女の子の取扱い説明書」を書いて、作家として再スタートしたわけです。

 まあ、売れないとさ、出版社とか、それを飯の種にしているヒトには迷惑かけちゃうけどさ。

 それはそれとしても、「今のボクにできること」「今のボクがしたいこと」ってそれしかないんだからさ、別にしょうがない訳です。

 売れなかったら、ゴメンちゃいです。

 

 ということで、ボクは、今度は、本当に「死ぬ」まで、こうして生きていこうと思ってるわけです。

 かっこ悪い人生だけどさ。

 ボクは、まあ、結構、満足していますよ。

3) ボクが「ヒロN式」にこだわる理由

ボクは、自分の著作に「ヒロN式」とつけてます。

さすがに、小説にはつけてないけど。

で、今までに、「ヒロN式」とつけた本は、

 

「ヒロN式女の子の取扱い説明書」

「男のダイエット=ヒロN式」

「ヒロN式脱力系シニアライフのすすめ。」

「ヒロN式サバイバル読本『耐災力』」

「ヒロN式女の子の取扱い講座」

「ヒロN式日本昔話」

 

題名を見れば、わかっていただけるかと思いますが、皆、「実用本」「ハウツー本」みたいな題名になってます。

 確かに、ボクは、人生を楽しむためのノウハウを盛り込んでいます。

 でもですね、普通のハウツー本とは、ちょっと違うんですよ。

 普通、ハウツー本ていうのは、その道の権威とか、エライ先生が、

「君たち、ボクの成功の秘訣はだねえ」とか上から目線で、いろいろありがたいお話を教えてくれるって感じでしょ?

 しか~し、ボクなんか、2)を読んでもらえばわかるとおり、人生ダメダメのマダオおじさんだから、「君たちは、さあ」みたいな、上から目線でなんて、とてもとても書けないわけです。

 

むしろ、「このおっさんみたいにおバカな人間でも、一生懸命考えれば、本の1冊や2冊は、かけるんだぞ」っということを見せたかったわけです。

 だから、ボクの書く「ハウツー本」は、「こうすれば、わたしのように成功できるよ」という話ばかりではなく、むしろ、「こういうことをしちゃうと失敗しちゃうよ」という話のほうが多いかもしれない。

 成功体験より、失敗体験のほうが多いんだから、このおっさんは。

 

 たとえば、ボクが出したダイエット本「男のダイエット」だって、たしかに、ボクは30キロもやせたので、「こうすればやせるよ」、というコツが書いてあるんだけど、ただ単に「こうすればやせるよ」という話だけじゃなく、「自制心がなくて、だらしなくて、さんざんダイエットに失敗してきたヒトが、どういう失敗をしてしまうのか」っていうことが、いっぱい書いてあります。

 

この「男のダイエット」という本だけど、裏話をすれば、これは、担当編集者とモメて、出版するのに、ものすごく苦労した本なのです。

なぜなら、この本、ボクは、さっきも書いたとおり、「ダイエットに失敗ばかりしているダメなヒト」向けに、いろいろなエピソードをいっぱい書いて、こんなダメなヒトでも、こうすればダイエットできるよ、という内容に重点を置いて書いたんだけど、これが、担当編集のおっさんには気に入らなかったみたいで、「もっと、まじめに、ダイエットのノウハウを書いてください!」「ふざけた枝葉の部分が多すぎます」みたいなクレームをつけられて、「こんな本は出せん!」とまで言われて、お蔵入りしそうになり、大変な目に遭いました。。

で、このおっさん、ボクを諭そうと思ったのか、自分が、別に編集をやっていた本を出してきたんです。

それは、ある学習塾の先生が書いた本で、題名は忘れちゃったんだけど、「偏差値40の子供を早慶に入れる奇跡の学習法」とかなんとかいう本でした。

つまり、こういう真面目なハウツー本を書きなさいよ。ダイエットに失敗した話、それもネタみたいな話は要らん!というわけです。

 でもさ、と、ボクは思うわけです。

 確かに、ボクは、自分で30キロのダイエットに成功したけれど、はっきり言って、医者でもなければ、栄養学の先生でもありません。ただの素人です。

 そんな人間が、普通に書いたダイエット本なんか、誰が読むというのか?

 単に、専門家が、こうしろああしろ、という本なら、ごまんとあります。

 で、皆、それが出来ないから、ダイエット本は、売れ続けるわけでしょう。

 

 それが出来ない、皆ダメ人間。という前提で、それでもなんとかできないか、という視点で書いた本こそ、ボクが書くべき本だという思いがあったのですよ。

 それが、つまり、ボクのスタンス。「ヒロN式」っていう訳です。

 

 「女の子の取扱い説明書」だって「女の子の取扱い講座」だってそう。

 いい歳して、女の子と目もあわせられない、女の子の気持ちがさっぱりわからない、っていうヒト、いっぱいいると思うんですよね。そういうヒトのために、「恋愛指南本」を書きたい。と思った。

 だから、この本でも、「失恋した時、女の子にふられた時、どうするか」ということも、かなり力を入れて書いてます。

 だって、「こうすれば、目あての女の子は、皆、落ちる」「どんな女の子にもモテモテ」なんて話、ウソに決まってるジャン。女の子と付き合ってれば、ふられることもある。というか、ふられることのほうが多いんですよ。当たり前ジャン。その時、どうするか、どう自分で折り合いをつけるか、ってことは、女の子と恋愛をしていく上で、とっても大切なことなんですよ。

 そういうこと、嘘っぱちばっかり書いてある「恋愛ハウツー本」には、書いてないよ。

 

 そういうヒトの目線に立つ。

というか、ダメ人間代表のボクは、そういう目線にしか立てないわけです。

 だから、ボクは「ヒロN式」にこだわっているんです。

 

 もし、ボクが、受験ハウツー本を書くなら、こうすれば、「誰もが、こうすれば早慶に入れます」なんて本は書かない。だって、早慶定員が決まってるんだから、絶対「誰もが早慶に入れる」なんてことはないんだから。そうでしょ?皆がそのハウツー本を読んで、そのとおり実行したら、結局、定員オーバーになっちゃって、誰かが落ちる訳だから。こんなのは、ウソだ。

 

 だから、もしボクが、受験生やその親向けにハウツー本を書くなら「子供が志望校に入れなくても、こうすれば、子供は素敵な大人になれて、いい人生が送れるんじゃないかな」っていう「ハウツー本」を書きます。それが「ヒロN式」。

 

 「ダメ人間でも明るい生活。」

 「おじさんは出来ない奴の味方だぞ!っと、僕もできないけど」

 それがヒロN式って訳です。

 どうです?読みたくなったでしょ?ヒロN式。

 え?ますます読みたくなくなった?……それは、残念だな。

 

4) ヒロN式書き落語「代官の文箱」

そう言えば、ダイエット本で、担当編集者ともめた時に、ボクが、出版社のエライヒトに言いつけるために、作った「書き落語」を座興に載せておきますね。お楽しみください。

 

「代官の文箱」

 

とかく、ヒトの世は、自分の思いどおりには

いかないものでございますな。

まして、江戸の世では、百姓、町人のたぐいなんざ

吹けば飛ぶようなもんでございまして、普段は

貧乏暮らしを我慢していれば、まあ、それなりに気楽な

もんなんですが、いざ、なんかありますと、

大変な目にあったりいたします。

 

「う~ん、う~ん。」

「ねえ、だんな、うなってばかりいないで、なんか

いい知恵をだしてくださいよ。」

「しかしね、ヒロ造、こいつは、一体なんなんだ?」

「だからね、だんな。それが、あっしにも訳がわかんねえ

んですよ。」

「訳がわかんないって、お前、これは、お前がこさえたもの

なんだろ。」

だんなとヒロ造の前には、カンザシとも文箱ともつかない

品物が置かれております。それは、カンザシの柄の

部分が文箱になっていると言いますか、文箱にカンザシが

ついていると言いますか、とにかく、まあ、見たこともな

い、奇天烈な品でございますなあ。

で、だんなとヒロ造は、この品物の前で、難しい顔で

腕組みをしております。

「一体全体、どうしてこういうことになっちまったんだい」

「いや、だんな、それがね、あっしは見てのとおりの

飾り職人なんで、お殿様からお声がかかったときには、

そりゃあもう、張り切りましてね、一生懸命、カンザシを

こさえたんでさあ。」

「ああ、そうだ。お前みたいな、半端でだらしのねえ男に

お殿様がお声をかけてくれるなんざあ、たいがい考えられねえ

ことだからな。一生懸命やるこった」

「それで、やっと出来上がったんで、お代官さまに

ご検分いただいたんでやんすよ。」

「うむ、それで」

「そうしたら、驚いた。」

「何が、驚いたんだ」

「お代官様が、カンザシを見て、お前何を作っておるのだ!

こんなものを、お城にお持ちすることは罷りならん!すぐに

作り直せ!って、そりゃあエライ剣幕で、こんなピラピラした

飾りはいらぬ、ここに、引き出しを作れ!ここはこうだ、

あれはこうだって。ここだけは勘弁してくだせえ、これがなく

なっちまうと、もうカンザシのていじゃなくなっちまうんでって、

いくらお願いしても、お聞きいれくださらねえんで。」

「だって、お前、お前は、カンザシをこさえたんだろ、こりゃあ

どうみても文箱じゃないか」

「だから、あっしも、地べたに頭こすりつけて、言ったんでさあ、

あっしは飾り職人なんで、指物師じゃあございません。だから、

仰せのものはあっしの手には余りますってね。」

「それでどうした」

「カンザシだろうと文箱だろうと、とにかく、わしの指図どおり

作ればいいんじゃ!の一点張りでさあ、そいで、あっしも泣く泣くお代官

様のお指図どおり、こさえたら、こんなへんてこな代物になっちまっ

たんで」

「う~む。」

「こんなもん、お城にお持ちして、笑いもんにならねえでしょうか」

「笑いもんどころか、お前、首が飛ぶかもしれないよ」

「ひええええ、だんな、どうしましょう。カンザシならなんとでも

作り直しもできやすが、文箱なんぞ、あっしはこさえたことがねえん

で、もうこれ以上のものはできやせんよ」

「しかし、ひどい代物だねえ。カンザシとすれば飾りがさっぱりだし、

文箱とすれば、尺があってない。こういうのをね、角を矯めて牛を殺す

てんだよ。」

「そんな講釈はいいから、なんか考えてくださいよ。いっそお殿様に

直訴して、献上をお取り辞めいただくとか」

「何を大それたことを言ってるんだい、お前みたいなチンケな職人風情

が、そんなことを申し上げたら、それこそ首が飛ぶよ。」

「ひええええ。あっしはどうすりゃあいいんで」

「でも、こりゃあ、お代官様のお指図でこうなっちまったんだろ。

だったら、お代官様にお考えがあってのことだからお前が心配する

こたあないさ。なにしろお代官様にお考えは海よりも深~く、

お志は山よりも高~い、お前みたいな下衆な人間の考えなど

及びもつかないところでお考えになっていることだ。だから、

不平を言わずに、お代官様のお指図どおりにやっていればいいんだよ。」

「そんなもんですかね」

「そんな訳ないだろ」

「じゃあじゃあ、もうごほうびもお褒めのお言葉もいらねえんで、

もういっそお代官様のお名前でお納めいただくとか。」

「そんなことができるかい!」

「いっそ、夜逃げしちまおうかな」

「おいおい、メッソウナコトヲ言ってくれるなよ、

そんなことをしたら、長屋の皆に迷惑がかかるだろ」

「すいやせん」

「それに、お前みたいなハンカな男が、ご城下を

飛び出したって、野垂れ死にするのが関の山だ。」

「ひえええ、どっちにしてもあっしは生きてられないじゃないですか」

「いいか、ヒロ造、ヒトの世てえものは、そりゃあ

理不尽なもんだ。おめえなんかより、もっともっと

理不尽な目に合って命を落とすヒトもいっぱいいるん

だぞ。だから、お代官様に目をつけられたのが、

お前の運のつきと思って、迷わず成仏するんだな。

なんまいだぶ」

「だんな、そんな殺生な!あっしだって、たしかに

バカでハンカな職人ですがね、自分でこさえたカンザシ

で、お咎めを受けるんならまだ諦めもつきやすが、こんな

訳のわからねえ代物で首をはねられるのはいやですよお。

おいおいおい」

「こらこら、いい大人が泣くんじゃないよ」

 

と、二人は、その夜、さんざん思案しましたが、

いい知恵が浮かぶはずもなく、とうとう、お城に

献上品を持っていく日となってしまいました。

 

お城のお庭が見えるお座敷にお歴々が並び、

ヒロ造とだんなは、お庭で、土下座しております。

そして

「殿のおな~り」

 

「早速じゃ、献上の品を見るぞ」

「は」と家来が例の代物にかかった布を取ります。

 

「はあ、だんな、逃げたいよお」

「しっ」

「今、逃げたほうがいいんじゃないでしょうかね」

「いざとなったら、逃げるんだ。あの右の方の木戸だ。」

「さすがだんなですね。もう逃げ道を考えてたんですか」

 

殿様、献上の品を見つめます。

「ふむ。これは、珍奇なものじゃのう。一体これはなんじゃ」

「え~と、これは、カンザシ、」

すると、控えていた代官がじろりとにらんできたので

「ではなく、そのう、文箱のようなものでございまして」

「文箱にしては小さいのう」

「そのう、なんとも一言では言い表せないものでございまして」

「訳がわからぬのう」

そして、殿様が手に取ると、文箱の尺が合わないので、

がたがたとし、ふたが取れてしまったんですな。

で、お代官が、慌てて、ふたを被せようとすると、今度は

うまくはまりません。

「なんじゃ、ふたが合わぬようじゃ。これはいかがしたことか」

「ひえええ」

「これ!ヒロ造、いかがしたことじゃ、答えよ!返答しだいでは

この場で手打ちにしてくれるぞ!」

と代官は、頭のてっぺんまで真っ赤にして、刀の柄に手を

かけて、おこりはじめました。

 

ヒロ造はぶるぶる震えながら、

「へえ、おそれながら、」

「おそれながらなんじゃあ!」

「おそれながら、お代官様、オカドが違っておりますです。」

 

おあとがよろしいようで。

ヒロN
作家:ヒロN
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