恋愛の微妙な偏差値

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 モダンなコンクリート打ちっぱなしの外観が、目を惹いた。窓を数えると七階建。しかしそこにはカフェはなく、すべてがオフィス仕様だった。
 諦めて立ち去ろうとした成美の目に、地階を案内する小さな立て看板が飛び込んだ。 
 メンタルクリニック弓永、『性の悩み相談室』 
 どなたもお気軽にどうぞ。
 『お気軽にどうぞ』とは、おもしろい。まるで宮沢賢治の「注文の多いレストラン」のようだ。中で待っているのは、どんな怪物医師なのだろうか。
 それは読書好きの成美をクスリと笑わせた。同時に興味も湧いてくる。
 これまで誰かに、その種の相談したことはない。もちろん今後もそんな予定はなかった。多少のプライドもあるし、どうしてと訊かれると、説明して口走る内容が何より恥ずかしかった。
 それに自分は、絶対に結婚したいというわけでもない。だからセックスが嫌いというのも、それほど深刻な問題ではなかったのだ。
 見ると、心療内科のイメージを一新するような、豪華な待合室の写真が貼ってある。幻想的な大きな水槽に、高級家具、皮のソファーまで。インテリアも好みのカラーで統一されていた。
 ちょっと覗いてみるくらいなら……。
 成美はそのまま地下へと向かい、医院のガラスドアを開けたのだ。
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オリオンブックス
作家:松本るい
恋愛の微妙な偏差値
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