在宅看護師のいけない関係

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 十八の時、突然の事故で両親を一度に亡くした私は、少し歳が離れた、まだ中学になったばかりの弟と二人、支えあって生きてきた。
 親が残してくれた古くて小さな一軒家があったものの、生活は苦しく、私は念願だった大学への進学を諦め、お給料のいい看護師になることにしたのだ。
 病院でバイトをしながら、看護学校に二年間通うという日々。准看護師の資格を取る前も、取った後も、とにかく必死で働いた。
 自分のほしいものなど何一つ買ったことはない。同年代の友達とも遊ばなかった。そんな贅沢、私のような境遇の人間には許されなかったから。 
 そして今年は、特にお金がいる。大学受験を控えた弟の学費を捻出する必要があるのだ。
 弟は小さい時から成績優秀で、ある意味、生き甲斐だった。彼が立派に成長していくのを見るのが、親代わりでもある私の、何よりの希望でもあった。
 こんな節約三昧の、ギリギリの人生だから、もちろんこれまで男性と付き合ったことなどない。
 時には、医師や患者さんに食事に誘われることもあったけど、とても私と弟の未来を託せるとは思えなかった。 
 捨てられるのがわかっていて、遊びで恋愛する余裕など存在しなかったのだ。
 バストが人より大きいことで、軽いだの、男性経験が豊富だのと、噂されることもあった。だが、実際には未だに男性経験はなく、キスさえもしたことがない。
 だから、いくら専任の在宅患者とはいえ、毎日のように体を触られるのは正直苦痛だった。
 大学病院での藤堂氏は、品のいい穏やかな老人という印象だったが、この豪邸に戻ってからは人が変わったみたいだ。
 もしかして私にエッチなことをしたくて、在宅看護師に指名したのだろうか。バストの大きさだけが目的で……?
 そう考えると、少し情けなくなった。

 豪華なシャンデリアがある広々とした寝室に、その老人は横たわっていた。国内最大級サイズの、特別仕様の介護用ベッドに。
 私が体を拭き始めると、決まっておっぱいに触れてくる。
 今日も、両手のひらでふくよかな乳房を持ち上げ、掴むように揉みしだいたかと思うと、その中心を攻めてきた。
「全く、感じないのかね」
「……」
 表情ひとつ変えない私が面白くないのか、藤堂会長はつまらなさそうに聞いてくる。
「あんた、セックス経験が多過ぎるのか、それともないのか、どっちかね」
「えっ?」
「看護師という仕事は、裸や性器を平気で見るから、不感症になる人も多いと聞くが、そうなのか?」
「……別に、そういうわけじゃ……」
「こんな看護師、初めてだよ」
「ということは、別の人にも?」
「これも給与のうちだ」
「そんな……」
 納得いかない彼の論理に、私は少しムッとした。
「しかし……こんなにそそられた女は、あんたが初めてだよ」
「え……」
「あんたには、人の心を惹きつける、魔性の魅力があるからね」
「はぁ……」
 方向性を大きく取り違えている気もしたが、私はちょっとだけ嬉しかった。今まで看護を担当してきた女性と差別化されたのだ。
 私はこの人に、認められている……。
「それに山本さん、私はあんたが心配なんだ。お色気ムンムンの、性的に一番盛んな年頃なのに、そんなに無反応じゃ……」
「え?」
「将来、男をうまく操れないぞ。せっかく魅力あるおっぱいをしてるのに」
「そう、ですか……」
「どうだ、私が開発してやろうか? あんたのこと」
「そ、そんな……結構です!」
 私は逃げるように、老人の体を拭いていたタオルの手
を引っ込めた。しかし遮るように、腕を掴まれる。
 藤堂会長は話を聞く様子もなく、一方的に巨乳を撫でまわした。
「それに死ぬ前に一度だけ、一度だけでいいから……ナマであんたの大きな乳をしゃぶってみたいんだ。ダメかい?」
 さっきは上から目線だったのに、今度は哀願するように見つめてくる。
 実は私は、こういった気力の衰えた患者さんの頼みごとに弱い……。
 看護師という職業を選んだのには、もちろんお給料がいいというのが大前提だったが、昔から困っている人を助けてあげたい、悩みに耳を傾けてあげたいという性格にもあった。
 会長はここ最近、同じようなことばかり言っている。
 これは体の自由が奪われ、いつ死が訪れるかわからない老人の、恐怖に怯えた悲痛な叫びなのかもしれない。
 そう思うと、この人が急に可哀想になってきた。
 同時に、『望みをかなえてあげたい』という元来の職業的責務が頭をかすめる。
「考えてみてくれ、弟さんの学費がいるんだろ」
「どうしてそれを」
「あんたのことなら、何でも知ってるよ。今まで良く、頑張ってきたね」
「え……」
 そしてこのいたわりの一言が、ついに私の急所を突いた。
「これからは悪いようにはせんから」
 悪いようにしないということは、お給料を少しはあげてくれるのだろうか。
 でも、やっぱり……。 
「私、今まで、男性に触れられたことがなくて……」
「処女なのか、あんた」
 私はコックリと頷いた。
「それなら、三百万。三百万出そう」
「さ、三百万!?」
「昔から初物は、高い値がつくもんなんだ」
「……」
 確かに三百万もあれば、当面の生活、弟の学費の心配もなくなる。
「それに、妻はもう死んでこの世にはいない。あんたを好いて恋愛感情を持ち、金銭面で援助したところで、誰に文句を言われる筋合いでもないんだ」
「つまり、私が好きっていうこと、ですか?」
「そうだ、好きだ。入院してた時から、あんたのことが瞼から離れんのだよ」
 老人のストレートな求愛に、なぜか動揺した。
 トキメキのようなものさえ、感じている。信じられないけれど。 
 それにこの人は、そんな大金を払ってまでも私を求めている。つまり必要とされているのだ。
「ホントにおっぱい、触るだけでいいんですか?」
「ああ、怖がらせるようなことは絶対にしない」
 どちらにしても下半身が麻痺しているので、この人に男としての機能は備わっていない。つまりセックスはできないということだ。触ったり、舐めたり、それが限界なのだ。
 提示された金額が衝撃的だったのも事実だけど、私はそれ以上に、この哀れな老人の願いを聞き入れてあげたいと純粋に思った。
「そんなに私のことを?」
「ああ、そうだよ、山本さん。あんたが好きだ。あんたのおっぱいを触れるなら、今すぐ死んでも後悔しないよ」
 見ると、藤堂会長は目にうっすら涙を溜めている。この気持ちは嘘ではないようだ。
 今なら、一緒に暮らす息子の秀明さんは会社だし、彼の妻である祥子さんも出かけている。この豪邸には、台所を任されたコックとヨシさんという家政婦しかいない。 
 昼食が終わったこの時間なら、大声で呼びでもしない限り、絶対に部屋には入ってこないだろう。
 私は念のため、ドアロックした。
「いいのかね」
 私は静かに頷いた。
「本当は少し、怖いです。何の経験もないので。でも、こんなに思っていただけているんだから、勇気を出します」
 そういうと私は、白衣のボタンを上から一つずつ外していった。上半身、ブラだけになる。
 少しだけ肌寒さを感じたが、それよりも恥ずかしい感情の方が勝っていた。
 老人は、ブラに包まれた深い胸の谷間に顔を近づけ、
「おぉ」
 と感嘆の声をあげる。
 そして、羞恥に消えてしまいたい私の胸元に視線を釘づけたまま、
「ベッドを起こしてくれ」
 と静かに言った。
 リモコンのボタンを押す。
 指示通りの角度にベッドの背を立てると、会長は足を投げ出し、座ったような姿勢になった。
「ここへ来てくれ」
 指示されたベッドサイドに向かう。
「若くてきれいな肌だ、美しいよ」
 そういうとその老いた指は、ブラのヒモをなぞるように動き出した。かと思うと、胸の谷間からズブリと中に手を差し込んだ。
「あ……」
 ブラの中でもぞもぞと動く、年老いた手。
 何かに焦ることもなく、これまで弄んできた数々の女を思い出すかのように、ゆっくりと私を気持ちよくさせていく。
「ここは、どうかな?」
「や……」
 乳輪の淵を虫が這うようになぞられて、ジワジワと快感が昇ってくる。
 私の神経は真ん中にある突起に集中していた。なのに、そこには触れてくれない。
 女の下半身はそのもどかしさからか、なぜかゾクゾクと疼き始めた。
「これが、感じているようだね。気持ちいいかい?」
「は、はい……」
 静かな官能の波。
 老人は一気に、私のブラをお腹の下まで摺り下げた。
「キャッ……」
 ぷりんとした乳白色のたわわな乳房が、その人の目の前に露出する。中心にはきれいな桃色に発色した乳首。
「嬉しいよ、ありがとう、山本さん……」
 そういうと会長は両手両指を使い、柔らかな私のおっぱいをむにゅむにゅとカタチを変えながら、揉みしだいた。
 極度の緊張状態にありながらも、私の息はあがっていく。
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作家:早瀬らいむ
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