「しかし……こんなにそそられた女は、あんたが初めてだよ」
「え……」
「あんたには、人の心を惹きつける、魔性の魅力があるからね」
「はぁ……」
方向性を大きく取り違えている気もしたが、私はちょっとだけ嬉しかった。今まで看護を担当してきた女性と差別化されたのだ。
私はこの人に、認められている……。
「それに山本さん、私はあんたが心配なんだ。お色気ムンムンの、性的に一番盛んな年頃なのに、そんなに無反応じゃ……」
「え?」
「将来、男をうまく操れないぞ。せっかく魅力あるおっぱいをしてるのに」
「そう、ですか……」
「どうだ、私が開発してやろうか? あんたのこと」
「そ、そんな……結構です!」
私は逃げるように、老人の体を拭いていたタオルの手
を引っ込めた。しかし遮るように、腕を掴まれる。
藤堂会長は話を聞く様子もなく、一方的に巨乳を撫でまわした。
「それに死ぬ前に一度だけ、一度だけでいいから……ナマであんたの大きな乳をしゃぶってみたいんだ。ダメかい?」
さっきは上から目線だったのに、今度は哀願するように見つめてくる。
実は私は、こういった気力の衰えた患者さんの頼みごとに弱い……。
看護師という職業を選んだのには、もちろんお給料がいいというのが大前提だったが、昔から困っている人を助けてあげたい、悩みに耳を傾けてあげたいという性格にもあった。
会長はここ最近、同じようなことばかり言っている。
これは体の自由が奪われ、いつ死が訪れるかわからない老人の、恐怖に怯えた悲痛な叫びなのかもしれない。
そう思うと、この人が急に可哀想になってきた。
同時に、『望みをかなえてあげたい』という元来の職業的責務が頭をかすめる。
「考えてみてくれ、弟さんの学費がいるんだろ」
「どうしてそれを」
「あんたのことなら、何でも知ってるよ。今まで良く、頑張ってきたね」
「え……」
そしてこのいたわりの一言が、ついに私の急所を突いた。
「これからは悪いようにはせんから」
悪いようにしないということは、お給料を少しはあげてくれるのだろうか。
でも、やっぱり……。
「私、今まで、男性に触れられたことがなくて……」
「処女なのか、あんた」
私はコックリと頷いた。