年下の彼は、ちょっと生意気2

 もうすぐ三十になる私、竹本草子にも、ついに満開の春がやってきた。
 社内の人気ナンバーワン、イケメンで三つ年下、仕事もできる佐伯亮介君が、このお局の彼氏になってしまったのだ。
 ツンデレ加減も超お好み。
 長身で、誰もがうらやむ鼻筋の通った整った顔立ちには、気品さえ漂っている。
 なぜ、こんな素敵なカレをゲットできたかと突っ込まれれば、私にもわからない。
 残業を手伝ったお礼といって誘われたカラオケボックスで、いきなり舌まで挿入のディープなキスをされ、会社の備品室では突然バックから自慢の胸をやわやわと揉まれて、下着まで……。
 恥ずかしすぎて嬉しすぎて、とても詳細は口では語れないので、ここまでのイキサツが気になる人は、ひとつ前の電子書籍『年下の彼は、ちょっと生意気』をぜひお読みください。
 ま、分析するところによると、佐伯君は相当な変わり者なのか、もしくはアラサー専門のおっぱいフェチ? 
 はたまた私からかもし出る、大人女子の魅力に溺れてしまったのか。
 一番知りたいのは、実はこのお局だったりする。


 一人暮らし、三十女の地味なワンルーム。
 明かりを消した部屋には、柔らかなムーンライトがエロチックに差し込んでいた。
 エッチの後、一緒のベッドの中でウトウトとで眠っているのは、もちろん年下のカレ、佐伯亮介君。
 いつもながらの、恐ろしいほどハンサムなその横顔に、私はうっとりと我を忘れて眺めていた。
「何?」
 ねっとりとした三十女の視線を感じたのか、突然佐伯君は目を覚ました。
「ん? ただ、男のくせにまつ毛、長いなって」
「嫌い?」
「そういうわけじゃ……」
 年下の、しかもこんなに素敵なカレに、甘えたように耳元でささやかれると、もうそれだけでもとろけそうだ。
「俺、ちょっと寝てた?」
「疲れたんじゃないの? 今日、課長にコキ使われてたみたいだったから」
「ていうか、安らぐのかも。草子さんと一緒だと」
 もう、お口だけはプロ級なんだから。
「何時?」
「十時過ぎだけど、やっぱり帰るの?」
「仕方ないよ」
 カレはそう言うと、残念そうにため息をついた。
 付き合ってから知ったんだけど、佐伯君は今でも両親と暮らしているらしい。だから度々の外泊は難しいようだ。
「男の子なのに、ずいぶんきちんとしてる家というか、厳しいというか……」
「言っとくけど、マザコンじゃないよ」
「何回も言わなくても、わかってるって」
 ちょっとは疑ってるけど……。
「俺だってホントは、もっと草子さんといたいんだよ……」
 そういうと、カレは長Tシャツの下に何もつけてない私の腰をグッと引き寄せた。
「もう時間なんでしょ?」
 鼻の上にチュッとキスしたかと思うと、佐伯君は再び唇を重ねてくる。
「好きだ……」
 何度聞いても飽きない、このハスキーな低音ボイス……。
 私には自慢できるほどの男性経験はないが、カレのキスは最高だと思う。
 優しく触れ、くすぐったいようについばんだかと思うと、ぎゅっと押し付けてくるのだ。
 とにかく緩急のリズムが絶妙だ。
 だから毎回、下半身まで疼くように気持ちがいいのかもしれない。

 こんなテクニック、一体どこで覚えたのかと気になっていると、舌がむにゅりと入ってきた。
 私も負けずに、カレのそれに熱く絡ませていく。
「あんッ……」
 佐伯君は気持ちが盛り上がってきたのか、時間がないというのにTシャツの上から、またこのふくよかなおっぱいをモミモミし始めた。
 そして固くなってきた胸の突起を、ツンツンと指で楽しそうに弾く。
「うぅん……ダメだよ、もう帰んなくちゃでしょ?」
「あと、少しだけ」
「でも……」
 薄い布が敏感な乳首に擦れて、ゾクゾクする。
「もしかして、また感じてる?」
「だって佐伯君が……」
「じゃあ、こっちも濡れてるよね……」
 カレはそのキャラに似合わず、時々エッチなことを平気で口走る。
 胸にあった男の手はじわじわと下へと滑っていき、Tシャツの裾を捲ったかと思うと、むき出しにされたままの私のお尻をツルンと撫でて、女の蜜口に指を割り込ませた。
「やっぱり」
「……」
「草子さん、ホントに不感症だったの?」
「いじわる……」
 指はおもしろ半分に、敏感な入り口をクリクリと這い回った。
 これ以上弄ばれると、もう一回したくなって、カレを帰せなくなりそうだ。
「どうする?」
「どうするって?」
「もう一回、する?」
「時間、いいの?」
「草子さんがしたいってリクエストをくれれば、大丈夫にする」
「何よ、それ」
「じゃあ、やめる?」
「……したい」
 全裸のままの佐伯君は、満足そうな笑みを唇の端に浮かべたかと思うと、私の下半身めがけて顔を潜らせた。
「キャッ……あぁんッ……ちょっと、そんなとこ直撃したら、すぐにイッちゃうじゃない」
「いいよ、それでも」
「もぉ……」
 し・あ・わ・せ♪

 こんな日々を送る私はお陰様で、彼氏いない歴十年というご立派な記録にも終止符を打つことができた。
 ご覧の通り、長年の悩みだった不感症からもすっかりと解放され、カビが生えそうなウツウツとしたOL生活にも、なにやら一筋の光が射している。
 三十にして、これ以上存在しないほどに幸せな時間……。
 と、思ったのだけど。
 人間の欲って、追いかけても逃げる蜃気楼、食べても食べてもデザートを別腹に設定している胃袋のように、どこまで行っても果てしないようだ。
 佐伯君に告白され、有頂天になっていたピークが過ぎると、今度はイケメンとの恋愛にお決まりの、疑問や不安が交代で押し寄せてきた。
 と、いうのも、ベッドの中と外。カレの態度が別人のように違うのだ。

 佐伯君はなぜか、私と付き合っていることを社内でひたすら隠そうとした。
 会社ではどこまでも他人行儀で、それどころか無視に近い。
 ま、確かに。誰もが避けて通るこの賞味期限切れのお局と、恋愛関係を生じさせていること自体、バラしたくないのはわかるけど。
 でも、寂しいよぉ……。
 せめて人の気配がないところで二人だけの暗号を送るとか、優しい笑みをそっと投げるとか。そのくらいのサービス、してくれてもねぇ……。
 若いOLの皆々様とは違い、アラサーまで歳を重ねると、常に結婚という二文字が付いてくる。
 将来まで続く、安定的な愛情補償を求める傾向とでもいいますか。
 今から若い男と付き合っちゃって大丈夫? 騙されてない? とかいう背後霊の声も。
 しかしカレの秘密主義な態度からは、将来の婚姻届を心配するどころか、いつ別れ話を切り出されるかという現実問題の方が大きい。
 こんなにお局を夢中にして、どう責任とってくれんのよ、佐伯く~ん……。
「竹本さん、これ、お願いします」
 男性コロンのいい香り……。
 というわけで、また今日もカレが全くの他人行儀に、入力すべく営業データを私のところに持ってきた。
「はーい」
 ちなみに前回の本では詳しい説明を省いたが、私たちは食品メーカーに勤めている。
 佐伯君とは相変わらず同じ部署の、販売促進部。
 営業的な数字を伸ばすため、売るための戦略や企画、販促物を考案したりする会社の中枢だ。 
 そして男性社員や総合職の女性にとってのここは、出世が約束された花形の部署らしい。
 けど、短大出の一般職、お局OLの竹本草子には全く関係なかった。ついこの間までは。
 けど最近は、愛するダーリンである佐伯君の将来、はたまた私の未来ともコラボしているかと連想すると、若干の興味が湧いていた。

 佐伯君は私の斜め後ろから、机の上に書類を置いたかと思うと、そそくさと退散しようとする。
「えっと、佐伯君……」
「はい」
「あの、ここなんだけど……」
 と、わざとらしく書類の数字を見ながら、私はメモ紙にペンを走らせ、『今日は?』と書いた。
「すいません、後で調べます」
「あ、はい……」
 カレは『仕事中だぞ』、とでも言いたそうな態度で、厭きれたように離れていく。
 なによ、偉そうに……。
 婚期が遅れている女の弱みだろうか、最近は完全に主導権を佐伯君に売り渡してしまったようだ。
 年上女の余裕はどうした? いかん、いかん……。
 私が『今日は?』と書いたのは、今日は何時に家に来るの? という意味だった。
 佐伯君と会うときはたいてい、私の部屋だと決まっていたから。
オリオンブックス
作家:神崎たわ
年下の彼は、ちょっと生意気2
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