これ以上弄ばれると、もう一回したくなって、カレを帰せなくなりそうだ。
「どうする?」
「どうするって?」
「もう一回、する?」
「時間、いいの?」
「草子さんがしたいってリクエストをくれれば、大丈夫にする」
「何よ、それ」
「じゃあ、やめる?」
「……したい」
全裸のままの佐伯君は、満足そうな笑みを唇の端に浮かべたかと思うと、私の下半身めがけて顔を潜らせた。
「キャッ……あぁんッ……ちょっと、そんなとこ直撃したら、すぐにイッちゃうじゃない」
「いいよ、それでも」
「もぉ……」
し・あ・わ・せ♪
こんな日々を送る私はお陰様で、彼氏いない歴十年というご立派な記録にも終止符を打つことができた。
ご覧の通り、長年の悩みだった不感症からもすっかりと解放され、カビが生えそうなウツウツとしたOL生活にも、なにやら一筋の光が射している。
三十にして、これ以上存在しないほどに幸せな時間……。
と、思ったのだけど。
人間の欲って、追いかけても逃げる蜃気楼、食べても食べてもデザートを別腹に設定している胃袋のように、どこまで行っても果てしないようだ。
佐伯君に告白され、有頂天になっていたピークが過ぎると、今度はイケメンとの恋愛にお決まりの、疑問や不安が交代で押し寄せてきた。
と、いうのも、ベッドの中と外。カレの態度が別人のように違うのだ。
佐伯君はなぜか、私と付き合っていることを社内でひたすら隠そうとした。
会社ではどこまでも他人行儀で、それどころか無視に近い。
ま、確かに。誰もが避けて通るこの賞味期限切れのお局と、恋愛関係を生じさせていること自体、バラしたくないのはわかるけど。
でも、寂しいよぉ……。
せめて人の気配がないところで二人だけの暗号を送るとか、優しい笑みをそっと投げるとか。そのくらいのサービス、してくれてもねぇ……。
若いOLの皆々様とは違い、アラサーまで歳を重ねると、常に結婚という二文字が付いてくる。
将来まで続く、安定的な愛情補償を求める傾向とでもいいますか。
今から若い男と付き合っちゃって大丈夫? 騙されてない? とかいう背後霊の声も。
しかしカレの秘密主義な態度からは、将来の婚姻届を心配するどころか、いつ別れ話を切り出されるかという現実問題の方が大きい。
こんなにお局を夢中にして、どう責任とってくれんのよ、佐伯く~ん……。